第4話

「えっ…」


やはり少し混んでいた蕎麦屋で一緒に天麩羅蕎麦がメインの定食を食べた。木津さんは丼にしてなかなかの大食いだ。太一も良く食べる方だが木津さんも良く食べる。満足そうに食べ終わるとお礼だからと奢ってくれた。

目当ての生活用品の売り場を目指してカートの上下にカゴを乗せる。次々と鍋やフライパンなど必要なものを下段のカゴへと入れていく、そんな姿を横で眺めて新婚さんみたいな気分を味わうのも束の間、続いた相手の行動に思わず声をあげてしまった。茶碗を手に取ると同じ物を2つ、カゴへと入れる彼を凝視する。グラスやお箸、お皿なんかも全部二組づつ…。

そうか…恋人、居るんだ

少しショックを受ける自分自身にまたショックを受ける。

初めて会ったのは、不動産屋さんに彼が案内されて来た日。…一目惚れ、だったのかも知れない。普段は思ったことなんかないのに、この人が入居してくれると良いななんてぼんやりと思ったことを覚えている。

でも今は少し泣きそうだ。

「長谷川さんは何を買うんですか?」

「え、あ、…今日の夕飯…」

少し遠くから声が聞こえて慌てて顔をあげる。立ち止まってしまった僕に買い物があるのかと待ってくれている木津さんへと足早に近づく。

「今日の夕飯何ですか?」

「…う、ん…寒くなって来たから鍋にしようかな」

「お、良いですねー。あ、土鍋買おう!」

彼は思いついたように急いで土鍋を取って戻ってくるとカゴに入れた。

「鍋に何入れます?さっき海老天食べたから、今日は肉がいいな」

鍋の材料らしい白菜や長ねぎ、椎茸やえのき、しめじなんかを入れていく。

「じゃあ、鶏肉かなぁ…」

彼が入れていく野菜類を見ながら、少し考えて鶏肉をチョイスする。彼は何故か張り切って鍋用とシールの貼ってある大きめのパックに入った鶏もも肉を手にした。

「え、それ多くない?」

一人分にしては量が多いと思う。

野菜の量と考えても2、3人前は有りそうだ。

「平気、残ったら俺が食うから」

肉のパックをカゴへと入れながら紡がれた彼の言葉で漸くわかった。

あ、これ僕のじゃないんだ

木津さんと恋人さんの分だったんだ

僕の夕飯買わないといけないと思い、キョロキョロと新しいカゴを探す。しかし、彼らと同じ料理はあんまり食べたくないな、と感じてかと言って食べたい料理をすぐには思い浮かばずに太一の店で我慢しようかと思う。

「……で、良い?長谷川さん食べれる?」

「え?」

最初の言葉が聞き取れなかった。思わず顔をあげる。

「締めは雑炊?うどんは今日昼に蕎麦食べたからさ」

…締めの相談されている。確かに蕎麦を食べた後だからうどんよりは雑炊かも知れない。

曖昧に頷くと6個入りの卵のパックを手にとった。

「なんだか新婚みたいだよね」

僕に耳打ちをする相手に同じ事を考えていた嬉しさと同時に、その相手は自分じゃない事にやるせない切ない気持ちがこみ上げてくる。

「え、どうしたの?…ちょっと待ってて」

慌てて会計を済ませる為にレジへと並ぶ様子を見送った。

どうしよう、困らせてしまった。でも涙が止まらない。





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