第3話
「大通りを駅の反対方向に進んだらすぐわかるから」
カーナビをセットしようとする木津さんの手を止めて簡単に説明するとシートベルトを締める。実際には車でも10分ぐらいはかかるだろうか。軽く頷いて、僕がシートベルトを締め終わるのを確認すると大通りへと車を進ませる。
木津悠(はるか)さんは、確か僕より3歳ほど年下だったと思う。ええっと、確か建築関係の仕事をしていてこの辺りの街並みが気に入って引っ越して来たらしい。入居者用のプロフィールを頭の中で思い浮かべながら、運転する彼へと視線を向けた。
僕より年下なのに背も高くて身体付きも細い成りにも筋肉がついていそうだ。薄い長袖シャツから覗く腕からもわかるぐらいだ。ひょろひょろの僕とは違う、思わず自分の腕を擦った。顔だって…
「なんか付いてます?」
気付くと顔を覗き込まれていた。綺麗な、さぞかしモテるであろう顔が思ったより近くにあって驚いてしまった。
「信号、青になるよ」
慌てて信号が青になることを告げると同時に信号が赤から青に変わる。再び前を向いて車を走らせる彼に安堵して僕も前を向いた。
見惚れていた、なんて言えるわけがない。
いつもはすぐに着いてしまう道のりもいつもより長く感じてしまう。
「ここ?」
ようやく見えてきた目指す大型スーパーを確認するように聞かれてぞうだと頷く。車はゆっくりと建物の中へと入って行った。
「ちょっと待っててくださいね」
駐車場へと車を止めると木津さんは僕を制した。何をするんだろうとシートベルトを外して待っていると助手席側の扉が開いた。仰々しくどうぞと声をかけてくれる彼が可愛くて可笑しくて思わず笑ってしまうと、彼も一緒に笑った。
綺麗で運転している姿はかっこいいのに、可愛らしいところもある、そんなギャップも彼の魅力を増殖しているのかも知れない。
「先にお昼食べませんか?」
スマホを確かめるとそろそろお昼の時間だ。でも今日は土曜日で混んでるかも知れないなぁと視線を上げる。
「なんか食べたいのある?」
「……長谷川さん。…は、何かありますか?俺、どんな店が入ってるかわかんないんで」
車の遠隔キーでロックしながら並んで店舗に続く道を歩く。中に入ってる店を思いだし、何店舗かを挙げていく。
「じゃあ、蕎麦かな?久しぶりに食べたい」
「和食派?なんだか以外」
「どっちかって言うと和食かなぁ。最近、コンビニばっかりだったんで拍車がかかってるのかも。あ、吉敷さんの店でも何度か食べましたよ」
どうやら引っ越してからは自炊はしていなかったらしい。しかし、太一の店とは…
「しかし吉敷さん、コーヒーはめちゃくちゃ美味いけど料理は美味しくないですね」
味の好みも似ている。なんだか急に距離が近づいた気がした。
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