15話 高瀬 航平2
「ねぇ、昨日私の所に楓のお兄さんが来たの。刑事さんなんだって。」
「あぁ、俺の所にも来たよ!巧の話を聞かれてさ、あいつがどれだけ良い奴かって事を伝えておいたよ。」麻美がこの話をしてくる事は分かっていた。
昨日来た刑事が、麻美にも話を聞くと言っていたからだ。
航平は出来ればこの話はもうこれで終わりにして欲しい、そう思っていたが麻美の口は止まらない。
「私も巧君の事を聞かれた。でも航平とは違う事を話した。政宗先輩と絢さんが口論してたでしょ?あれ絶対に巧君が関わってる。それに告別式の時に声をかけてきた青野実さん。あの人が言ったことも話した。」
麻美はまっすぐに目を見て言った。このまっすぐな目が航平には突き刺さる様に痛い。
「関わってる?巧が?そんな訳ないじゃん。あいつは本当に良いやつだ。麻美ちょっと変だぜ。政宗先輩は通り魔に殺されたんだろう?巧に何の関係があるんだよ。」航平は麻美の方に目線をやらずに答えた。
「本当は航平も何か変だって思ってるんでしょ?私は、、巧君が良い奴だって言う航平の気持ちもわかるけど、絶対に何か変だと思う。それに楓のお兄さんが来る前にも、青野実さんが私に会いに来たの。言ってる事はめちゃくちゃだったけど、あの人が嘘を言ってる様にも思えなかった。楓のお兄さんには青野実さんが会いに来たことは言ってないけど、お兄さんはきっと青野さんにも話を聞きに行く。」
「そう。」間髪入れずに短く返したが、麻美の事を見ることが出来ない。
「もういいよ。私は青野さんに会いに行く。私が知っている事は話をするし、楓のお兄さんの話もする。じゃあね。」そう言って麻美は足早に去って行ってしまった。
航平は地面に根が生えた様に、そこから一歩も踏み出す事が出来なかった。
麻美なら、きっとそう言うだろう事は航平には分かっていた。
麻美は間違った事や曲がった事が大嫌いな人間なのだ。
きっとこの煮え切らない態度も。
航平の所にも青野実は来た。彼の話に思い当たる節はあった。
この所の巧は、何か先回りしている様なそんな風に見えていた。
『絶対に何か変だと思う。』
そう言った麻美の言葉が、まるで靴の裏にくっついたチューイングガムの様に、
航平の頭の中にべっとりとへばりついた。
青野実だけでなく警察まで巧の事を疑っているのか。そして、麻美も。
自分だけは、最後まで巧を信じたいという気持ちと、
もしも巧が間違った事をしているなら友人である自分が正してあげたい。
その気持ちが航平の中で混在していた。
弟の良平が自殺した時、航平は生きながら死んだ。
それを救ってくれたのは、巧と麻美だ。
この二人の為にこれからの人生を捧げても良い。
自分はどうせ一度死んでいるのだから。
捧げるべき対象が二手に、正反対の方に向かっている時、
自分はどうすれば良いのか。「なぁ、良平。お前ならどうする?」
航平はそう呟いて、しばらく考えて、航平は思い出した。
二人の為にこれからの人生を捧げても良いという事と
良平に恥じない生き方をするという事を。
巧が間違ったのなら、何度でも自分が付き合う。
正しい方向に共に向かえる様に。
航平はスーッと息を吸って携帯電話を取り出した。
「もしもし?巧?これから会える?うん、これから。最近さ、会えてないし、ちょっと話聞いてほしくて。俺が家まで行くよ。じゃあ、また後で。」
航平は巧の家に向かった。
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