2話 高瀬 航平

  

「なぁなぁ。最近タクミやけに元気じゃん。良いことあった?」

「いいや、特に変わらずだよ。いつも通り、平常運転だ。」巧の返事はいつも通りにも見える。しかし、航平には巧が妙に機嫌が良い様に見えた。

そもそも航平は、巧の些細な変化にも気付く事が出来ると自負している。

巧の彼女にだって負けていないと、航平は思っている。

この大学も都内でも屈指の名門校だったが、巧と時間を共にしたいからこそ、死に物狂いで勉強したのだ。為せば成る。それが航平の座右の銘である。

巧には大きな恩があり、本当に感謝している。巧と麻美がいなければ、自分はとっくにこの世にいない。残りの人生はこの2人に捧げても良いとさえ思っている。

そんな航平が、巧はご機嫌に見えるのだから、何か良いことがあったに違いない。違いないのだが、これからお願いする事を考えれば機嫌が良いに越した事はないか、と考えていた。

「なぁ、航平。俺になんか言いたい事があるんだろう?なに?お前がそんな顔をする時は、俺になにかある時だ。白状しろ。」

まったく。巧には敵わない。

「いやぁ。実はさ、麻美の友達で。どうもタクミのファンってゆーか。友達になりたい子がいるってゆーか、それでそのー...」

少し巧の方に目をやると、思っていたよりも嫌な顔はしていなかった。

高校の頃からこの手の話は大抵嫌な顔をするのに。

どうやら余程良い事があったらしい。

「で、なんだよ?その子と友達になれば良いのか?」そう言って巧は笑った。

「そう!そうなんだよ。俺も最初は断ったんだけどさー、麻美がどうしてもって。ほら、あいつ気が強いだろ?どうにも押し負けちゃってさー。悪いな。絢さん大丈夫かな?怒られねーかな。」そう言うと巧はいいんだよと肩をポンと叩いた。

巧には2つ年上の彼女がいる。同じ大学なので成績は優秀だし、歩けば振り返る程キレイな女性なのだが、航平はどうにも絢の事を好きになる事が出来ない。最も、大学内の良くない噂を耳にしたからというのもあるかも知れない。やっかみの可能性もあるが、どことなく噂は本当なのかも、と思わせるものがある。しかし、巧と絢さんが並んで歩いていると、本当に同じ人間なのかと思う程の迫力はあるので、お似合いなんだろうと思う。

「それで楓ちゃんとはいつ会うんだ?」

「あぁ。えっと、急なんだけど今日の昼食に麻美が連れてくるって話になってて。」

そういうと巧が笑った。「おいおい、俺の返事を聞く前にもう決まってたのかよ。」

「ほんとすまん!でも、タクミなら引き受けてくれると思ってたよ。なんせ俺の心の友だ。」

巧はジャイアンかよと言って笑っていた。

「あれ?でもなんで名前知ってんの?まさか麻美が先走って」言いかけると巧がまた笑った。

「違うよ、お前が今言ったんだよ。」

あぁ、そうか。俺が言ったんだな。

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