視る
ゆ
1話 大野 巧
午前六時のアラームで大野巧は目を覚ました。階段を降りると、いつも通りの朝にいつも通りの光景が待っている。十九年間、何も変わらない。
「おはよう、お兄ちゃん。4月10日、今日の運勢はー.....最下位!ラッキーアイテムは仲のいい友人だって。」
妹の美香が毎日運勢を教えてくれるので、
知りたくなくても自分の星座の運勢を知る所から一日は始まる。
仲の良い友人はアイテムじゃあないだろう、と思ったが恒例の行事に素直に付き合う事にした。
「そうか。じゃあ今日は一日中、航平に付いていてもらう事にするよ。」と残念そうにして見せると「そんな事しなくっても、私が一位だったから大丈夫ですよー。」と美香は嬉しそうに答えた。
「ほら、バカ言ってないで朝ご飯食べちゃって。」母親に急かされると、
美香はおとなしく朝食を食べ始めた。
コーヒーを飲みながらテーブルに目をやると、ブックカバーが施された本が置いてある事に気が付いた。「それ母さんの?」母親は小さくかぶりを振る。
「珍しく美香が本が欲しいって言うから、昨日買ったのよ。」
「へー。美香が本を。今日は雨が降るかも知れないな。」そう言って美香を見ると、美香は頬を少し膨らませ「私も高校生になったんだから、それ位普通でしょ?」と不満そうに言った。「それもそうだな。どんな内容の本なんだ?」これ以上機嫌を損ねると話が長くなると思い、少しこちらから質問してみると待ってました、とばかりにあらすじを話し始めた。
「この【未来】って話はね、高校生の女の子が、、、」この【未来】という本の正体はどうやら携帯小説から書籍化されたものらしかった。恋愛小説に興味が無いので話の内容はあまり入ってこなかったが、要するに未来の事が分かっていれば、と思うようなすれ違いばかりが起きて、という話らしい。あとはありがちな話で終結するようだ。未来が分かれば、そんな事はこの主人公でなくても思う事だろう。自分が一体どんな未来を迎えるのか、興味が無い訳はない。一度でも自分の未来を【視る】事ができたなら。そう思った途端に目の前が真っ暗になった。
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いつもの朝食にいつもの朝。4月12日の運勢はどうやら3位らしい。航平が迎えに来て大学に行き、航平の彼女の麻美と3人で昼食をとり、紹介したいと麻美が連れてきた女性は楓というらしい。講義を終え空手部で練習し、先輩である木戸さんに部の顔になってくれと頼まれて、待っている絢と少しカフェに行って帰宅した。
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「ねぇねぇ、お兄ちゃん。おーい。今の聞いてた?自分から聞いてきておいて何なの。」
「あ、あぁ、悪い悪い。ちゃんと聞いてたよ。」
妹に声を掛けられる迄、一体何を視ていたのか。今のはなんだ?まさか白昼夢?
そんな馬鹿な。リアルすぎる。それに楓という女も知らない。
12日だと言っていたな。2日後だ。そんな事が本当にあるのか。
自分に起きた事を整理して、航平に相談してみるか?だめだ、頭がおかしくなったと思われるに違いない。そんな事を考えているとインターフォンが鳴った。
「巧、航平君来たわよ。」母に生返事をして急いで家を出た。
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