第6話 商売開始
啓太に駅前に呼び出された僕は、物陰から同級生のカップルを覗いていた。
楽しそうに話す二人は、これから休日を謳歌するんだろう。それを観察する僕ら二人は、考えれば考えるほど惨めになってくる。
「どうだ? 見えるか?」
隣の啓太は興奮気味に聞いてきた。オーラの正体が性欲だなんて、半信半疑の僕には何を興奮しているんだか意味が分からない。
「見えるよ。けっこうはっきりと」
「そうかわかった」
僕の診断に、啓太は嬉々としてメールを打った。
「これで良し。あと二組な」
今日のノルマを告げた啓太は、次の待ち合わせ場所へ向かった。
僕らは三組のカップルを陰ながら送り出してから、ファストフード店でハンバーガーに舌鼓を打っていた。
「2勝1敗だったな」
啓太が食べながら戦績を振り返った。
一体、何が勝ちで、何が負けなのか。僕は呆れて黙っていると、
「これで上手くいけば、次からはお金が取れるぞ」
と続けて話した。
「だと良いけどなあ」
その時、僕はどこか他人事のように答えた。
ところが、それが現実となった。
噂は学校の男子生徒の中だけで収まらず、そこら中の高校に広まっていき、休日ごとに啓太と出かけて行っては、数組のカップルを観察してオーラの有無を教えていた。
診断は一人三千円で、取り分は啓太と折半だった。
「じゃあ、また明日な」
午前中に啓太と別れて、僕は暇な休日何しようと思案していると、
「オーラで稼いでるみたいね」
と突然、私服姿の初花さんに声を掛けられた。彼女は思ったより地味な服で、僕の中の好感度が再び上昇した。
「まあ、少しだけ」
「言ったでしょ。オーラで儲けられるって」
「こんなことして、お金儲けしても良いのかな?」
楽して儲ける自分に、若干の罪悪感を持っていた。
「良いんじゃないの。誰も損はしてないんだから。本当のことを知ったら、女の子は悲しむかもしれないけど。まあ、あんたの才能なんだから、あんたが好きなようにすればいいのよ」
初花さんに改めて言われて、疑問に思っていたことがはっきりした。やはり、他人の恋愛に口出すようなことはするべきではないのかもしれない。
そうだ、休日にせっかく会えたんだ。
せめて、仲直りぐらいしたいな、と思った僕は、
「初花さんは今日暇なの?」
と声を掛けてみた。
「ひ、暇じゃないわよ。もし、暇だったらどうするの? これからデートしようとでも言うの? 止めてよ。どうして、私があんたの下品な視線に一日中耐えなきゃいけないのよ」
また、初花さんは両手で身体を隠していた。
「聞いてみただけだよ。じゃあ、何でここにいるの?」
「あんたに一つ教えておいてあげようと思って。真田さん、援助交際してないわよ。あれから、私達仲良くなって、それとなく聞いたの。そしたら、年上の彼氏と付き合ってるんだって。詳しく聞いてみたんだけど、彼氏は多分ホテルに一緒に入った人で、あの日、しばらく振りに会ったみたいよ」
「そうなんだ。で、それが何か?」
「別に、真実を教えただけよ。じゃあね」
やっぱり、僕のオーラで金儲けができなかったことを、根に持っているのだろうか、初花さんは、無愛想に帰っていった。
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