第2話 天空のマッスル
石室のような玉座にて、魔王と大統領はお互いの瞳の中で威圧を放っている。
大統領は改めて魔王を観察してみると、なるほど確かに魔王と呼ぶべき風体をしている、先程の自称神よりよほど威厳が感じられた。
露出した上半身は無駄に鍛えられている事はなく、可動域を阻害せずかつ必要な筋肉は最大限鍛え抜かれ、まるで鍛冶師が精錬した業物の鎧にみえる。
また全体のシルエットがいかにもなもの、元の身体は細めだが背中から翼が生えているのだ。遥か昔から伝わるガーゴイルを思い浮かべて貰えばわかりやすいだろう。
しかしよく見るとその翼は極限にまで鍛え上げられて肥大化した広背筋だった。
そう、筋肉は鍛え続けると翼になるのだ。
大統領は新たな知見を得た。
「よもやここまで美しい肉体をみることができようとは、はてはて異世界というものも興味深い」
「貴様の力とやらを見せてみよ」
「うむ、ならば私からいかせてもらおう」
大統領は腰を落とし、左半身を魔王に向けて構えをとる。それから床を破砕する威力で踏み込み、右拳を真っ直ぐ魔王の腹部へ伸ばした。
対する魔王は挨拶がわりのストレートを片手で払い除けてから、大統領の腹へカウンターパンチを叩き込んで背後へと飛ばす。
カウンターの威力は凄まじく、普段腹筋を鍛えてなければ全存在を消し飛ばされていただろう。
「ぬぅ」
「どうした大統領とやら、これで終わりか?」
つまらぬ、とでも言いたげな表情で大統領をみる。
当の大統領は腹が痛むのか、少し苦しそうな顔を見せた。
「思ったよりもダメージを受けたようだ。フフ、素晴らしいぞ魔王!! 誰かから痛みを与えられたのは久方ぶりだ!!」
「ふむ」
「約束しよう、次の攻撃から全力でいくと」
「では俺も本気でいくとしよう」
今度は二人同時に踏み込んだ。
全身全霊のストレートをお互いぶつけ合う、両者の拳は宙空でぶつかって止まる。その際に発生した衝撃波で石室が、もとい魔王城そのものが大統領と魔王の足場だけを残して跡形もなく吹き飛んでしまった。
「む、いかん城内のスタッフが……おや?」
魔王の手下とはいえ戦いに巻き込むのはしのびない、そう思い周囲を見回してみたが、手下らしき影は見当たらない。
どうやら元からここは魔王しかいなかったらしい。
「安心しろ大統領、ここには……いやこの周辺地域には俺達以外の生命は存在しておらん」
そのようで、見渡す限り荒野だ。遠くの山に目を向ければ緑豊かな地域があるとわかるが、少なくとも魔王城付近に生命らしきものは植物すら見当たらない。
「随分と酔狂な所に住んでいるのだな」
「ここなら戦争がおきても周辺の被害は小さいだろ?」
「侵略者が周辺被害を気にするか!」
「当然だ、俺の目的は戦争の耐えないこの世界の国々に不戦協定を結ばせて平和をつくることだ」
「さては魔王、君はいい奴だな」
「いいや悪い奴さ、不戦協定を結ばせるために世界共通の巨悪を演じ、殺戮を行った」
「ほう、それは悪い奴だ」
一呼吸、のち、足場を壊して前へ跳ぶ。音速を超え最早光速となった速度で魔王との僅かな距離を瞬きより早く詰め、顎に向けて自らの膝を抉りこませる。
完全な不意打ちである。魔王は一切の防御行動を取れず、大統領の飛び膝蹴りの勢いそのままに空高く打ち上げられた。
「フハハハハ! 油断したな魔王!!」
「ぬぅぅおおおおお!! 今のは効いたぞ大統領!」
呻きながら何とか空で体勢を整えてから広背筋を羽ばたかせて滞空を行う。
その姿を少し羨ましく思った大統領は、自分の広背筋を動かしてみたが、やはり空は飛べなかった。
「ハッキリ言おう! その広背筋が羨ましいぞ!」
「照れる!!!」
「うむ!!」
「記念にもう一つ俺が手に入れた力を見せてやろう、その名も……筋肉魔法!!」
「筋肉魔法どぅあとぅおおお!?」
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