第3話 10^7日
クオンが交通事故に遭ってから約三万年が経過しました。
ユーラシア大陸を二分する極東マシン兵団と西欧ロボット国軍は、もはや開戦の理由など誰も知らない戦争を一万年も続けていました。
そんな一万年戦争も地球上の資源が枯渇したために、両陣営共倒れというあっけない幕切れを迎えました。
生き残った命はひとつとしてありません。
そう、トワとクオン以外は。
「クオン。ちょうどいい脚のスペアがあったよ」
「トワ。わたしは集光レンズの修理パーツを見つけたよ」
巻き込まれる形で従軍していたふたりでしたが、配給のエネルギーを少しずつ備蓄してどうにか生き延びました。
ほかの機械人類と違ってふたりは、何が何でも生き延びるという目的を持っていたのです。
戦争が終わったのはいいのですが、地球上の資源は枯渇しています。
機械の体を動かすための燃料や、修理するためのパーツは常に足りません。
広い地球をたったふたり、あてもなく歩き回り、飛び回り、泳ぎ回り、やっと見つけたスクラップを加工して再利用する日々でした。
とはいえ、トワとクオンにも限界は訪れます。
スクラップを探し回るコストと、それによって得られる利益が、徐々に釣り合わなくなってきました。
無理もありません。
使えるスクラップはほとんど拾いつくしてしまったのですから。
「どうしよう、クオン。だんだん実入りが減ってきた」
「地面を掘ろうにも、わたしたちの腕じゃすぐ壊れちゃう」
「こうなったら、考え方を逆転させるしかないかもね」
「逆転? どういうふうに?」
トワは、廃棄したパーツや再利用できなかったスクラップを集めました。
そしてそれらを無理やりくっつけて掘削機に加工し、自ら装備しました。
これまでふたりはヒト型ロボットの形にこだわっていましたが、エネルギーやパーツの効率が限界に達したと判断し、人間の姿を捨てる決心をしたのです。
掘削機で目指すは地球の地下深くです。
地球の資源は枯渇していますが、それはあくまで地上付近、ふたりがヒト型である状況に限っての話だったのです。
地下に行けばマントルの熱からエネルギーが取り出せます。
大量の鉱物もあるでしょう。
ひたすら掘り進めていきます。
途中、掘削機のシールドが何度も壊れましたが構いません。
代わりとなるスクラップはいくらでもあるのです。
深くなればなるほど地面は固くなり、温度も上がっていきます。
それだけ天然の鉱物資源があり、熱エネルギーにも恵まれている証拠でもありました。
豊富な物資とエネルギーを手に入れたふたりは、掘削機と自らの体をどんどん大きくしていき、ついには地球をすっぽりと覆うまでになりました。
文字通り、地球を手の内に収めたのです。
いえ、トワとクオンは地球になったのです。
体表に降り注ぐ太陽放射もふたり占めできます。
「トワ。ついに星になっちゃったんだね、わたしたち」
「案外これも悪くないかもね」
「じゃあいっそのこと、月とかにもなってみたい」
トワの返事は決まっています。
岩石の星だろうと、ガスの惑星だろうと、クオンはクオンで、トワの大切な幼馴染なのです。
「いっそ太陽系になっちゃおうか。クオン」
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