第4話 幼馴染(※ただし偽)との距離感





 その日の午後。

 開いた時間に、久々の外出の時間がきた。


 ここ最近ずっと城の中に缶詰めだったので、コヨミが配慮してくれたのだろう。

 こちらとしては大助かりだ。

 ずっと室内ばかりで行動していると、色々と飽きてしまう。


 町の状況や、未利の身辺事情から警戒が必要だが、だからといってずっと室内にこもっていては精神的に病んでしまう。


 だから、

 護衛としてつけられたのはいつものエアロと、女性兵士のメリル。そしてディークの兄ハイネルだ。


 二人は兵士らしく、自分達にぴしっと挨拶。


「姫乃様の護衛を依頼されました。今日はよろしくお願いします!」

「不測の事態が起きないようにさせていただきます」


 かしこまられるのは慣れていない。

 それは姫乃達も同じだろう。


 普段はここまでではないが、任務としてなら態度を切り替えるらしい。

 しかしディークの場合だと切り替えられないから、弟だけ落選したのだろう。


 姫乃は、距離感を図りかねている様子で「えっと、はい。お願いします」と頭をさげていた。






 大通り


 大通りを歩いて、散歩した後久々に買い物をする事になった。

 これまで、食料や生活用品のお使いをこなす事はあっても、個人的な買い物をすることは少なかった。


 だから、基本真面目な姫乃やエアロですら珍しく少しだけ浮足立った空気で、気に入ったお店をのぞいてみたりしている


 修行に必要な物を探しているようだ。


「何か探してんの?

「鏡いいのないかなって」


 シュナイデル城攻防戦の最中で姫乃は、敵の魔法をコピーするという、ちょっとチート気味な魔法を発現させたらしい。

 なのでその練習のために、鏡を買いたいようだ。


 イメトレの補助にするのだろう。


 魔法を使うのは、経験やイメージが大事。

 だから、鏡とはどういうものなのかじっくり考えたい、という事なのかもしえない。


 根っこが真面目過ぎる。

 未利やなあなんかはふわっとした考えで、いつもふわっと発動させているのに(啓区はわからん)


 なあの方に視線をうつすと、伝説の蝶探しに精をだしている。


「ちょうちょさん探すの。どこにいるのー。いたらお返事してほしいの」


 お店の品物に時々興味をもってかれつつも、町中あっちこっちの風景に視線をなげるのにいそがしいようだ。

 啓区に「足元の小石に躓かないようにしようねー」と保護者されている。


 エアロは何かをあきらめたような様子で、買い物の品をチョイスしていっている。


「はぁ、ひさびさに家に顔を……は無理ですよね。またコウモリ飛ばすしかないですか」


 息抜き用なのか、恋愛小説っぽい物を適当に見繕っていた。


 それぞれ探し物があるようで、商品棚にくぎ付けになっていた。


 護衛組の方は、保護者みたいな様子でそんな姫乃達を離れたところで見つめている。


 そんな中で、啓区だけは人のお世話で忙しいらしい……。


「アンタは、自分の買い物はしないわけ?」


 たまに見る物といえば、姫乃にあいそうな鏡と、なあちゃん似合いそうな絵本をみていた。


 こんな町中のこんな世界では、彼の必要としている機械部品は手に入らないだろうが、それにしたって欲がない。


 話しかけられた相手は苦笑いした。


「あはは、欲しいものがないんだよねー。お菓子は間に合ってるしー、部品はないしー。そういう未利はー?」


 話題を返されたので、一応目に着けておいた商品を掲げて見せる。


「これ」

「あー」


 革製の丈夫なわっかだ。夏っぽいカラーのオレンジと水色の、ストライプ柄。

 ネコウ用の首輪だった。


 あの子ネコウ、ムラネコの飼い主になったわけではないが、むこうが引っ付いてくるのだからしょうがない。いらない事でトラブルにまきこまれてはいけないので、念のための一品だ。


 野良子ネコウに対する扱いがどうなっているのか知らないが、保険をかけておくに越した事は無いだろう。


 首輪を見て、納得した様子で啓区がうなずく。


「なつかれてるもんねー」

「なんでか知らんけど」

「助けてあげたからじゃないー?」

「親ネコウどうした」

「はぐれたか、もしくはー」

「どっかで、のたれたかってわけか」

「あはは、のたれたって聞かない略し方だー」


 いつも通り笑い顔で答える啓区。

 表面上は普段と変わらないが、ここ最近エンカウントする確率が下がっているのは気付いている。

 こっちが避けているのもあるし、あっちが気を使っているのもある。


 だから、エアロなんかからは「ちゃんと話してみたらどうです」とせっつかれていた。


 はなはだ不本意だが、ちょうどいい機会だろう。

 このまま何もせずに帰ってエアロから小言をもらいたくないので、話題を振ってみた。


「あのさ……アタシの記憶の中に、アンタはいない」


 回りくどい言い方が思いつかなかったので、想像より言葉がストレートになった。


 啓区はいつもの表情で応答。


「そうらしいねー」

「関係は偽物だったけど、ここで冒険した記憶は本物だ。幼馴染ではなかったけど、仲間ではある、と思ってる」


 でも、少しだけ目線が生あったくなったのがむかついた。

 いつだって上から目線で、余裕な態度。

 これはもう性分なのだろう。

 つくろっている部分があるという事は分かっている。

 だが、それが距離感を広げているから、補正がなくなると少し近寄りがたい。


 これまでの旅路で、悪い奴でないことぐらいは十分すぎるくらいわかっている。

 それなりに、大変なのも。


 だから、歩み寄る。

 それくらいは成長しているから。


「あははー、先こされちゃったなー。珍しく頑張ったよねー」

「うっさい、茶かすな」


 記憶が改ざんされて、本来とは違う関係になっていた事実には、思う事がある。

 けれど、それは啓区のせいではない。その関係に救われていた部分があるのも事実なので、それに対する文句はないのだ。


「だから、変な気まわすなって、言いたい……」

「そういう心遣い、遠回しだったころに比べると成長したよねー。クロフトでのセルスティーさんの事とかー」

「まさかの聞いてた件!」

「いやー、聞いてはいなかったけど、推測はできたからー」

「ぐぬぬ、ことあるごとに何でアタシばっかりこんな恥辱にまみれなきゃいけないわけ」

「そういう運命だよねー」


 そんななやりとりをしつつも、つかの間の息抜きの時間は過ぎ去っていった。


 後は、滑り落ちていくだけだ。


 変化に気づけなかったのは仕方がない。

 自分ですら、分からなかったのだから。


 それは気が付いたらすでにそうなっていた。


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