第2話 呪われた魂
単刀直入で悪いが、いや悪くないか。
どうやら自分には、なんかよくないもんがくっついているらしい。
といっても、具体性にかけるので、より詳しく説明すると……呪いにかかっているという事らしい。
氷裏が言うには、不幸……とかいう呪いらしいが、実際には狂気とかいう代物だとか。
それが分かったのは……
「未利さん、ちょっと話いいですか?」
遠慮がちに話すエアロの言葉の内容で、だった。
シュナイデル城 『未利』
修行もない、勉強もない時間。
あいたスケジュールの中、中庭によってのんびりしていると、エアロに話をもちかけられた。
真面目な顔した真面目なエアロは、言いにくそうな顔をしながらm氷裏がこちらを狙っている理由を述べてきたた。
――不幸の力を手にするために、方城未利の器を空っぽにする必要がある。
心域の中で、氷裏はそう言っていたらしい。
だが、正確には不幸ではなく狂気らしい。
氷裏は狂気の力を手にするために、こちらに散々いやがらせしてきたというわけだ。
中庭の中央にある大樹のした、木陰の恩恵を受けながらエアロに質問
「狂気? 何それ?」
エアロは、頭の中にある知識をまとめているのか、ゆっくり言葉をつむいでいく。
「いえ、私もよく分かってないんですけど、未利さんの中にはそんな呪いがあるらしいです。正確にいうと、クレーディアさんの中にあったものが、未利さんの魂に引き継がれてしまった……という状態なのですが」
「クレーディアっていうと、アタシの前世の人間?」
クレーディアは未利と何らかの関係がある人物。
この世界、過去の時代に生きていた時代で。あまりよくない死に方をしたらしい。
知っている情報はごくわずかだった。
だが、後から水礼際であった出来事を聞いて、ただならぬ関係であるという事だけは分かっている。
「そうです。ええっと、このあいだ雪奈さんが転生者について話をしてましたよね」
「ああ」
エアロに言われて、つい先日あった話の内容を思い出す。
かしこまった表情で「話があるの、心して聞いてちょうだい」とか自分達に言ってきた矢先に、「じゃ、ぶちまけるわね」と通常モードにもどった教師が、言葉通りに打ち明けた内容。
『じゃじゃーん。実は雪奈ちゃんは、転生者なのでしたー』
というカミングアウトからはじまったやりとり。
マギクスとメタリカ。
それぞれの世界に生きる人間は、死ぬたびにこの二つの世界を交互に移動している。
通常は生まれ変わる時に記憶が消えていくものなのだが、しかし中には例外がいる、それが雪奈や華花などらしい。
雪奈は前世ではサクラス・ネイン。
華花は前世では花姫。
未利は前世では、クレーディアとしてこの世界で生きていたらしい。(細かいところを上げると他にもいるっぽいが省略)
脇道に少しそれるが、我等が担任白木雪奈は、前世の知識を生かして今までこちらのサポートをしていたのだとか。知らんけど。
回想を終えた未利がエアロに尋ねる。
「で、なんでそのクレーディアの呪いがアタシにかかってんの? いやそもそもなんでそのこと知ってんの?」
「それは色々ありまして」
「その色々が気になるところなんだけど」
「とにかくですね」
「強引に進めんの!? チャットで報連相、改善したの意味なくない!?」
チャットというのは、サテライトの出現にともなって行えるようになった機能(?)サービス(?)そんなようなものだ。
シュナイデル城の真上に衛星を打ち上げたら、なぜかそんなような事ができるようになってしまった。
色々説明がふわっとしているが技術的な事にはまったく明るくないので、詳しく説明しようとしてもでいない。
チャットは、誰にでもできるらしいが、使い方と存在をしらなければ活用できない。
使用すると画面みたいな映像が目の前に出現して、どこにいても仲間と連絡がとれるようになるので、連絡網として活用している。
これである程度の情報共有が可能になったが、そもそも話す意思がないと共有しようがない。秘密主義がいると宝の持ち主なのだ。
しかし、エアロに向けてじとっとした視線を送ってみても、彼女が口を割る気配はなかった。
やがて小さく咳払いをしたエアロは、強引に話を先へと進めてしまう。やはり、それ以上情報源についてつっこまれたくなかったらしい。
「未利さんがかかっているその呪いをとくためには、呪いにかかる対象者を増やすか、呪いを相殺するしかないそうです」
早口で説明していくエアロが言うには、二つの選択肢があるらしい。
未利としては、呪いなどというまがまがしい代物は、早くおさらばしてしまいたい所だが……。
「はぁ、でもどっちも無理くない? そもそもどうやって呪いにかかんのって話しだし、そもそも相殺のやり方って何?」
「まあ、普通は分からないですよね。でも、身近に参考にできる人がいるんですよ」
「え?」
あまり気は進まないけれど、しぶしぶ……といった様子でエアロが述べたのは、二人の人物だった。
元海賊ウーガナと、そして……ディークだ。
ウーガナは、姫乃ご一行をはめた元海賊で、ディークは新米兵士。
だから気が進まないので、そちらはできるだけ後にしたい、とか。
後は、スカウトで外部からやってきた、城の兵士だ。
たまに牢屋に行くときについてきてくれる。灰色の髪の男性。
割といい奴。
広間
そういうわけで、城の復興作業に参加してがれきをはこんでいたディークの元へ向かった。
そこは城の中の一室で、グレートフォールが暴れまわった場所らしい。
壁に大穴があいていて、隣の部屋との境界がなくなっていた。
その部屋で作業している兵士達のなか、目当ての人間がいた。
重い瓦礫を軽々と持ち上げているディークがこちらに気付く。
「ん? どうしたんだエアロ先輩」
「貴方の事情について聞きたい事があるんです。休憩時間になったらお話を伺っても良いですか?」
「分かりました。ちょっと待っててくれ、もうすぐ終わらせるから」
そう言って、作業に戻るディーク。
丁寧語と普段の口調がまざっているのは、当人が不器用な性格だからだ。
これまでに未利がレインとして城の中を行き来している間、判明した事を述べていくと。
ディークは……。
外部スカウト組にしては順応性が高い方だという事。だから、よく規格外&予想外な事をしでかすなあの手伝いをこなしていた。同じ時期に入ってきた兄貴にコンプレックスを抱いている事だ。
待つ間目の前には、城の一画であっちこっちいったりする兵士達。
そんな光景を見た未利は、「手伝った方が早く終わるっぽくない?」と述べるが、エアロが「午後に修行が控えてるんでしょう。なら温存しといてください」と言ったので大人しく待機モードだった。
数分して作業にめどがついたら、動いていた兵士達が休憩。
ディークがこちらによってきた。
「終わったぜ! それで話って何ですか?」
「貴方がかかっている呪いの事について知りたいんです」
「ああ、そういえばこの前先輩が言ってたな。……みらいの、もがっ」
得心が言ったように何事かを述べようとしたディークだったが、高速で口をふさがれた。エアロが彼をにらみつける。
「それは言わない約束では? 口止めしましたよね?」
「もがっ、もが」
おそらく「そうだった」みたいな事を言ったのだろう。
口を解放されたディークがエアロに謝る。
「ごめんなさい。それでえっと、俺の呪いの事でしたっけ」
「貴方が呪いの影響を薄くした事について、です。詳しく聞かせて下さい」
「うーん、そういわれても……俺は兄貴と違って頭がよくないからな」
ディークは、詳しく説明できる自信がない、と言いながら頭をかく。
兄貴というのは、血のつながったディークの兄。そのままの存在だ。
あちらはこちらと違って頭が良い。
未利も少し話したことがある。
何とか言葉をまとめたらしいディークは、自分の右目を覆っている眼帯を指さして口を開く。
「見た目が魔眼みたいってこのあいだ未利様が言ってたけど、これが呪いのえーっと……宿り場所だと思う。一応見えてるぜ? 効果は言いましたっけ? 勝率が高いものが分かる。だから賭け事とかがめっちゃ有利だ」
ディークは例えば、とポケットからカードをとりだした。
このカードにはたまにお世話になっている、ディークはなあの手伝いをしている時もあるため、その時にカード遊びをしていた。時間がある時は、未利や他の者達もまざって、遊ぶ事がある。
ディークは、カードを持ってあたりに視線をさまよわせる。
ちょうど資材置き場用にテーブルがあったので、そこにカードを置いて、かきまぜる。数秒後、小さなカードの山を築いた。
「この中から、自分の好きな柄。アップナ柄のカードを取り出そうと思うとその確率はたぶんすっげぇ低いだろ? でも俺なら」
裏になっているカードを一枚めくる。
はずれ。
二枚めくる。あたり。
アップナ(未利達の世界で言うところの林檎)柄のカードを引き当てた。
「こうやって、すぐに好きな柄のカードが見つけられるんだ」
カード遊びをしていると、ディークはたまに一番か二番で勝利する時がある。
その種が、ここでわれたというわけだ。
エアロはそれを見て、頷く。
「効果の説明は分かりました。しかし、それが貴方の呪いの力なんですか? らしくないですね」
ディークはうんうん、と頷いて同意。
そういわれると予想できていたようだ。
「だよな。呪いっていうと、なんかこう悪い事が起きそうな感じだし。俺の呪いも元はそんなだったってばあちゃんから聞いてるぜ」
カードを整頓するディークは、過去の事を思い出すようにゆっくり言葉を続けていく。
「でも、長い時間をかけて呪いが薄まっていったらしい。えっと、エアロ先輩が言うような魂にかかる呪いじゃなくって、遺伝する呪い……って事だから、その影響があるんだと思う。大昔に、俺の家が誰かの恨みに対象になったとかなんとかでさ。だから、父親や母親から、赤ちゃん、孫に呪いがうつるんだって聞いた」
ディークの説明を聞いて分かったのは、呪いといっても様々な種類があるのだと知った事だ。
呪いといえば、この解呪法。
といったようなものは存在しないらしい。
一つ一つ対応した解き方があるのが面倒くさい。
なら、解呪するとしたら次に気になるのは……。
その呪いが薄まった理由だ。
「ばあちゃんの見立てだと、呪いがこんなになったのは血が薄まったからだって話らしい。反転したんだってさ。俺の家にかかった呪いだから、他の家の血が混ざる事によって効力が薄まっていくんだと。最初の呪いの効力は……勝率の低い道を好むっていう呪いだっっけ? よく分かんねぇけど、破滅したがりになるとか」
ディークの言葉では端折られすぎているため、分かりずらいし、推測することしかできないが、かつての呪いは対象者の性格を変容させる類のものだったのかもしれない。
それが血の薄まりによって今の形に変化した。
「だから、俺の例は参考にならないと思うんだよな。未利様の呪いは、魂にかかってるんだろ?」
「そうですか。ありがとうございました」
「ん、それが分かっただけでも収穫。助かったディーク」
「うっす。少しでも未利様たちの力になれたんなら良かったぜ」
表裏の無い表情で答えるディーク。
仲間の少女であるなあと、そりが合うわけだった。
後、話を聞けるのはウーガナくらいだが、あの海賊はめったに姿を見ないのでちょっと今すぐにとはいかない。
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