File.22
何度コールしてもアリシアと連絡が付かない。
「クソッ……マズいな」
アリシアの身に何かあったとすれば、マシューがクロの可能性が高い。
あの場を離れたのは間違いだった。アリシアを守ることができないし、核兵器も彼の手に渡ってしまったかもしれない。
往路ではあんなに魅力的だったセダンのスピードも、腹立たしいほどのろまに感じる。
ジャックはいやに気を張っていたため、スマホに着信があった瞬間番号も確認せずに応答した。
「すまんが、今忙しいんだ。急用じゃないなら――」
『なら、お互い話が速く進むな』
聞き覚えのないドスの効いた男の声だ。ここで初めて番号を確認すると、ドルフ・ファミリーとの連絡用に教えてもらったものだった。
だが、確実に通話の相手はドルフではない。彼の部下だろうか。
「ファミリーの者か? ならこっちも訊きたいことがある。そちらのボスを出してくれ」
アリシアと連絡が取れない件についても、ファミリーが実働部隊として動いている可能性がある。そうでなくても何かしらの事情を知っているかもしれない。
しかし、声の主はジャックの要求を拒んだ。
『それには応じられない。今から質問もナシだ。こちらの話を聞いてもらおう』
「……分かった。手短に頼む」
ジャックは舌打ち交じりに返す。どちらにせよメイフォールズか農場に到着するまでは何もできないのだ。
『そうだ、それでいい。では、本題から言う。娘は預かった、返してほしいなら今から言う場所に一人で来い』
最悪の事態に思わず息が詰まった。アリシアの今後の安全のためにスタンドプレーで事件の解決を急いだ、その結果がこれだ。
「おい、どういうことだ、ドルフと話をさせろ!」
ジャックはスマホに向けて怒鳴りつける。あの老人ならば多少は話が通じるはず、という小さな希望に縋った。
『それは無理だと言っただろう。それに質問に答えるつもりもない。お前はただ指定された場所に来ればいい』
男はそう言って淡々と住所を読み上げた。手早くナビで検索してみると、メイフォールズの外れにある廃車ヤードを指し示している。
男が必要な情報を伝え終わると、ジャックが何かを言う間もなく通話は切れた。
ジャックはスマホを助手席に投げ捨てると車を加速させる。
また何も守れないのか、無力なばかりに大切なものを失うのか、そんな疑念や恐怖を振り切るように無我夢中で走り続けた。
まだ終わっちゃいない、助けられる。まだ最悪の事態の一歩手前だ。
そう自分に言い聞かせた。
ランドンの所へ向かうのに銃を持って行かなかったのは失策だ。一度、農場に戻る必要があった。
日の傾き始めた農場には回収部隊とやらはもちろん、人影一つ見当たらない。これでマシューが敵だということはほぼ確定した。
ドリフト気味に家の前へ車を停め、素早く窓へと近付くとリビングを覗き込んだ。中は無人で荒らされた痕跡は無い。
入れる場所を探すため最初に玄関のドアノブに手を掛けると、そのまま開いてしまった。
五感を研ぎ澄ませながらゆっくりと忍び込んだ。熟練のスカウトでも猫の索敵からは逃れられない。それだけには絶対の自信を持っていた。
結局家の中は完全に無人で、なぜか玄関の目立つところにガンケースと装備の入ったバッグが置かれている。
銃を失えばジャックにはかなり苦しい展開だった、つまり無力化するには圧倒的な好機だったというのになぜ銃を残しておいたのだろうか。見つけられなかったというのは考えにくい。
ジャックは何か作為的なものを感じながらも、銃と装備を抱えて車に戻った。核兵器が残っているかを確認している暇はない。そんなことよりもアリシアを一刻も早く助けなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます