熟練戦闘のはなしをします

 熟練戦闘。皆さん好きですよね(威圧)


 ……まぁ真面目な話をすると、「めっちゃ好き!!!」と「知らない子ですね……」という二極な反応に分かれる選択ルールかなぁ、とは思っています。2.5になってからはデータ追加サプリ(ET)にしか載ってませんしね何故か。


 そんな熟練戦闘くん、遊んだ経験の無い人の殆どは「ルールが全く分からないので手を出せない」か「バランス調整が難しそうなので手を出せない」、ところにより「処理の複雑化が懸念されるため手を出せない」といった感じではないでしょうか。

 実際、ソードワールドのいいところは、戦闘のルールが(戦闘メインのシステムにしては比較的)シンプルであることですし、わたしも基本的には上級戦闘で遊ぶ機会の方が多いです。そしてやはり、処理が複雑になり、考慮すべき点が増えることを楽しめる人でないと、熟練戦闘はあまり面白みを感じられないだろうな、とは思います。

 ですが、世間には熟練戦闘のような、平面マップでの戦闘がデフォルトのルールとなっているシステムは多く存在しています───それこそ原初のTRPGであるD&Dがそうなので、ある意味ではこのルールが、TRPGにおける最もスタンダードな形だと言えるのではないでしょうか。

 つまり何が言いたいかというと、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ、実はそんなに難しくないよ、慣れたら楽しいよ、いいから熟練戦闘やれよ、ってことです。


 ということで本日は、全編熟練戦闘で行なうキャンペーンを2本完走してみた経験から得られた、熟練戦闘のお勧めポイントを書き連ねていこうかと思います。

 熟練戦闘をやってみたいけどなぁ……というPLの人や、どういう部分を意識してデータを組めばいいのかわからん、というGMの人などの背中を押す手伝いができれば幸いです。



【0.熟練戦闘とは】

 平面上のフィールドにて座標管理を行なう戦闘方式です。基本戦闘が概念的(前線と後方のみ)、上級戦闘が一次元的(一本橋とも呼ばれますね)ときて、熟練戦闘では二次元的空間での戦いになる訳ですね。

 ボードゲームで言うと将棋やチェス、電源ゲームで言うとスパ○ボやファイアーエ○ブレムなどの戦術シミュレーションゲームなどを遊んだことがある人であれば、正直ルールブックの説明を読むよりも、『だいたいああいう感じ』で把握した方が早いかもしれません。


 最大の特徴は、やはり『前後方だけでなく、左右の空間が存在する』ということでしょうか。基本と上級では正面からの殴り合いしかできませんが、熟練であれば、敵を左右に散らしたり、四方八方を囲んだり……といったことができます。

 ……それができると戦闘の流れがどう変わるの?という話については、次の項目から詳しく話していきましょうか。



【1.戦場が広くなる】

 使用できる空間が広くなるということは、すなわち戦場が広くなります。

 例えば上級戦闘だと、自軍と敵軍の中間点辺りにお互いの前衛が集結、後方への遠距離攻撃をブロックするための壁役が何人か立っていて、その後ろに純後衛……といった、基本戦闘に『前線と後方の間のエリア』を足しただけのような形になりがちではないでしょうか。場合によってはそれすらもなく、『あれ、結局基本戦闘とやってること一緒じゃね?』となるケースも少なくないと思います。


 しかし熟練だと、そうはならないんです─────なぜなら、『既に形成されている乱戦エリアを迂回して動く』とか、あるいはそれをされることを読んで、『乱戦エリアから少し離れたところで待ち構える』とか、『乱戦エリアの奥にいる敵を狙うために、後衛がちょっと"横に"動く』いったことが起こるので。


 結果、戦場に複数の乱戦エリアが発生することも多々あります。というか私がGMやるときは大体いつもそうします。それが熟練の最も楽しい要素だと思っているからです。

 上級も頑張れば複数の乱戦エリアを生み出せますが、まぁキツいですよね。敵に《影走り》持たせるとか、乱戦エリアからの離脱によって無理やり前衛を振り切るだとか、そういうことをしないと実現させにくいかと思われます。


 さて、乱戦エリアが複数できると何が変わるのか?次はそれを話しましょうか。



【2.範囲効果の価値が変わる】

 基本・上級においては、『前線(乱戦)めがけて範囲効果を撃っておけば、とりあえずみんな巻き込める』という状況が殆どかと思います。それが何故かと言えば、先述の通り、『乱戦エリアがひとつしかないから』ですね。

 しかし、乱戦エリアが複数あったり、お互いの配置がかなり疎らだったりするとどうなるかというと……


 例えば前衛が使う《薙ぎ払いⅠ》は、別の乱戦エリアの敵に干渉することはできないので、戦闘が始まった段階で『《薙ぎ払いⅠ》を活かすためには、この辺りに移動して、この敵と乱戦を形成しないといけない』というプランニングをする必要が出てきます。

 例えば後衛が使う【ファイアボール】は、効果範囲が半径3m。複数の乱戦エリアを巻き込むには少々狭すぎるので、『どの乱戦エリア(敵)へ攻撃することを優先すべきか』という、新たな考慮すべき要素が生まれます。


 そして、一番使用感が変わるのが「形状:貫通」の効果です─────想像してみてください。自分と乱戦エリア、そして最も遠い位置にいる敵が、一直線には並んでいない状況を。『雑に【ライトニング】撃っても半分も巻き込めねえ!』となり、雑魚敵を散らす手段を考えなければならない状況を。


 煩わしい要素であるとも言えてしまいますが、敢えて開き直りましょう。熟練戦闘とは、この不便さを楽しむルールです。

 普段できていることが通用しなくなる。だから、よりしっかりとした戦術を考えて戦わなければならない。それこそが、熟練戦闘の醍醐味なんですね。


 さて。次からは、熟練戦闘ルールを採用することによる、副次的な影響についてを語りましょう。



【3.意外な奴らが活きてくる】

 例えば皆さん、《鷹の目》という戦闘特技を採用したことはあるでしょうか。わたしは正直、熟練戦闘を遊ぶ環境以外では取ったことがありません。

 逆に言うと、熟練戦闘をメインに行なう環境なのであれば、取得を優先してもいいくらい影響力のある特技になるんです、これ。


 先述の通り、熟練戦闘では複数の乱戦エリアが発生します。乱戦エリアに入らず、敵陣最奥のボスなどの肉壁として突っ立っている敵や、構造物が置かれることも多いでしょう。すると、ちょっと動いた程度では射線を確保できない、ということがあるかと思います。


 そんな射線周りのお悩みを、《鷹の目》や《足さばき》といった、普段あまり採用されない特技が解決してくれるんです。特に《足さばき》は、射線以外の面でもえげつない。

 何故なら─────制限移動の距離が伸びるということは、『移動妨害の距離が伸びる』ということですので。10m先の場所を通ろうとした敵に、容赦のない体当たりをかまして足止めすることができるんです。

 これによって、ポジショニングのやりやすさが格段に上がります。前後衛のどちらが採用しても、使い勝手が非常に良い特技に生まれ変わっていると言えるでしょう。

 『魔法戦士キャラが1ラウンド目から《マルチアクション》をするために採用する特技』からは脱却できているはずです。


 他にも、ゴーレムや騎獣、妖精といった使役キャラクターの価値も大きく変わってきます。

 騎獣の場合は【遠隔指示】が必要にはなりますが、PCひとりで二方面をカバーしたりとか、使役キャラクターが乱戦を組み、動きを止めている間に、その横をPC本人が突っ切っていくとか。

 そういったスタイリッシュな動きを実現できるのもまた、熟練のお楽しみ要素です。


 斯様に、熟練戦闘ならではの要素というのは非常に多く、遊んでみればきっと、その面白さが見えてくるのではないかと思います。

 習うより慣れろ、百聞は一見にしかず。どうでしょう、試しに一度、遊んでみる気が湧いてきてはいませんか?


 ……なに。やってみたいけどGMしてくれる人がいない?


 ならばあなたがGMをやればいい。ということで、次はGM視点での話をしましょうか。



【4.敵が長生きする。ので、長期戦を楽しめる】

 既に何度か述べている通り、熟練戦闘の戦場はとても広いです。とても広いので、敵をあちこちに置くことができます。

 そして普段であれば、どれだけたくさん置こうが、あっという間に一掃されてしまいますが……これが熟練になると、割と長生きしているんです。


 何故か。答えは簡単で、『PCの火力が分散するから』なんです。


 例えば、PCたちの四方を囲んだ状態から戦闘を始めたとしましょう。単純に考えて、壁役が四人必要になりますよね。

 あるいは、どこか一方面の戦力を1ラウンド目で消し飛ばして、3方向を見ればよくする、という選択になるかもしれませんが。いずれにしろ、壁役が複数人必要であり、後衛も全員が全員範囲攻撃を出来るわけでもないので、結果、火力の分散が発生します。


 ここで、普段の戦闘時の敵のHPの変動を思い返してみてください。……どうでしょう、PCひとりが一撃で削り切っていること、殆どないと感じませんか?


 そう。ソードワールドの雑魚敵って、意外と二人ぶんくらいの攻撃を耐えられたりするんですよね。

 なので、火力が分散する熟練戦闘では、敵がかなり長生きするんです。上級戦闘だと1ラウンドで消し飛んでいるような連中が、なんと3ラウンド目になってもまだ立ってたりすることも多々あります。

 そのため、1ラウンド目に全力を尽くし、練技やシンボリックロアを吐き切ってしまうと……後になってからさぁ大変だ、となる訳ですね。


 まぁ、毎回毎回長々と戦闘をやるとだれてしまうので、これは一長一短かな、といったところなんですが。

 もう一つの点については、いつでも実践できるし、楽しめる要素かと思います。次はそちらについて話しましょう。



【5.後衛へのアプローチがしやすい】

 とてもぶっちゃけた話をしますが、ソードワールドの後衛って、割と退屈になりがちではないでしょうか。

 というのも、たまに《魔法拡大/数》だとか「形状:貫通」だとかの流れ弾が飛んでくるくらいなので、HPが減る機会が少ないんですよね。

 必然、前衛に比べると、あまり緊張感を感じにくい。誰も彼もが死のスリルを求めてはいないでしょうし、死にたくないから後衛をやっている、という方もいるとは思いますが、それにしたって、全く命の危険がない戦いというのも、臨場感に欠けるでしょう。


 しかし熟練戦闘であれば、これも解決できてしまうんです。何度も言っている通り、敵をたくさん配置できますからね。

 なので、敵を置いて、置いて、置いて─────『どうやっても前衛だけでは抑えきれない物量で攻める』とか、『遠距離攻撃持ちを迂回させて、後衛を優先的に狙わせる』だとか、そういう形で後衛にプレッシャーをかけることが、とても簡単に実現できます。


 もちろん、考えなしに敵を増やしすぎると、ただのデスGMになってしまいますので、そこはバランス調整の腕が求められるところではあるんですが。

 どうでしょう、後衛にも容赦なく敵が押し寄せてくる戦闘は、中々スリリングだと思いませんか?


 そしてPC側も、必死に考えることになる訳ですね。


『どこまでなら後衛が殴られても耐えられるか』

『誰があいつを止めるのか、誰ならあいつを止められるのか』

『バフ・デバフを撒くべきか、それとも敵の頭数を減らすべきか』

『射線と射程を考慮すると、どこまで動いていいのか、いけないのか』


……さぁ、楽しくなってきましたね。


 敵も味方も、“陣形”という新たな要素によって、戦い方が大きく変わる。それによって、普段とは異なる形で活きてくる要素が多く生まれる。

 そんな熟練戦闘を、あなたも体験してみませんか?


 ……なに、準備が大変そうだって?

 ははは。─────すみません、それについての回答は『俺も毎回死ぬほど頭悩ませてる』以外には出てこないです。

 なので、はい。GMやる人は頑張りましょう。上級戦闘の3倍くらい考慮すべきことは多いけど、3倍以上の楽しみがそこにはありますよ。



【6.シチュエーションを戦況に反映しやすい】

 最後のポイントがこれです。基本と上級では絶対に成し得ない要素だと断言できます。

 例えば、蛮族や動物の群れと、森の中で遭遇した場合と、洞窟の中で遭遇した場合では、当然周囲の環境が異なってきますよね。


 森であれば、木々に囲まれた空間であったり、近くに川や池があったりするかもしれません。場合によっては、水中から水棲生物が横槍を入れてくることもあり得ますよね。

 陸上の敵だって、草むらや木陰、木の上などに身を潜めていたのであれば、奇襲による開戦となり、彼我の距離はかなり近くなることが予想されます。あるいは、戦闘中にいきなり伏兵が─────なんていうこともできますね。


 一方洞窟の場合は、基本的に狭い空間での戦いになるでしょうか。道幅もそれほど広くないでしょうし、光が差し込まない深さの場所であるなら、光源の管理も必要になることが予想されます。

 他には、奇襲のやり方も変わってくるでしょうか。壁や天井をぶち抜いて来るとか、落盤を起こして先制攻撃だとか、袋小路に誘い込んでの挟み撃ちだとか……森の場合よりも準備が必要になる分、えげつなさが上がりますね。


 さて。ここまでの話は、基本または上級戦闘だと、どこまで『実際の戦闘シーンに反映』できるでしょうか?


 戦場が広かろうが狭かろうが、基本と上級では、結局一本道になってしまいます。敵の伏兵も、配置地点が中途半端なことになるか、奇襲と言いつつ単純に挟み撃ちになるか……といった感じになるのが常ではないでしょうか。

 そんな風に、折角展開をあれこれ考えても、実際の戦闘に上手く反映できないので、結局いつも通り正面からのぶつかり合い、ギミックも障害物も特になし……というパターン、非常に多いのではないかと思います。


 しかしこれらの問題も、熟練ならばあっさり解決できる……というのが、ここまでの内容を読んで頂けていれば、もうお分かりですよね。


 障害物を置きたいだけ置けるし、四方八方を囲まれた状況も、戦力が二分された状況も、ギリギリ乱戦エリアの横を通れるくらいの道幅も、自由自在に実現できます。

 他にも、あちこち罠だらけの迷宮内だとか、ドレイクやノスフェラトゥなんかが待ち構えている砦や城の最奥部だとか、いっそ逆に、大量に押し寄せてくる敵を、防衛拠点で待ち構え、迎え撃つ展開だとか……

 空間を広く使えるようになることによって、表現の幅がとても広がり、よりそのシチュエーションを楽しめるようになります。


 これが熟練戦闘の最大の利点、そして特徴だと言える、と私は思います。

 平面マップでの戦闘がデフォルトのシステムも、こういった部分を高く評価しているからこそ、この形式を採用しているのでしょう。

 TRPGは、没入感と臨場感があってなんぼのゲーム。故に、それらを重視できるこの形式こそ、最も面白い戦闘ルールである─────これが私の結論であり、熟練戦闘を推す最大の理由です。



【おわりに】

 早口オタク全開で語りましたが、いかがだったでしょうか。ほんの少しでも、熟練戦闘への興味を抱いて頂けたのであれば幸いです。


 最も複雑な戦闘方式だけあって、最も準備は大変ですし、ルールの読み込みもまあ面倒です。

 でも、その労力に見合った……いや、労力以上の楽しみを得られるはずです。

 もちろん、どうしても合わない人や、処理の重さや複雑さで楽しさが削がれる、という人もいるでしょう。そればかりは個人差があるので仕方のないところです。


 ですが、ハマる人は本当にとことんハマると思います。私はハマってしまったので、もう熟練のことしか考えられない頭になってます。

 ……いやまぁ、PL側で遊ぶ時や、ゲームブック型のサプリで遊ぶ時までは、ですけどね。あくまで自シナリオのGMをやる時は、の話です。


 私のことはさておき。皆さんもご興味が湧いたのであれば、ぜひ一度、熟練戦闘で遊んでみてください。

 最初は難しく感じるかもしれませんが、その最初の一歩を踏み出してしまえば、後は意外とすんなり遊べてしまう……はずです。おそらく。

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小説の皮を被った雑記 イ重カレナ @hatarake

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