第4話 歌声
唐突だが、とある小さなライブハウスで歌う駆け出しの歌手が私だ。
身バレしそうだとヒヤヒヤするけどまあいい。これは、私の記録だ。
いつもは黒か赤の帽子をかぶり、前に立つ。
ギターを弾いて喉から声を出す。
マイクを握り、慣れない言葉を発す。
腹から声を出せ、と昔よく音楽の教師が言っていたことを思い出すけれど、あれは絶対言い方が違う。
音大も何も行ってない私が言うのはおかしいのかもしれないけれど。
私は自分の歌に元々プライドを持っていた。自分の歌が好きだった。
けれど今はそうではなくて、自分の思考と相談しながら歌う日々。
私を認めて向き合ってくれる人はいるけれど、自分との戦いに近いのかもしれない。
ひとつ想像してみて欲しい。
人生で初めて、この心から愛した人から、己の最も得意とすることをそして己の最も好きなところを殆ど肯定されないコトを。
自分のタイプではない、と退けられるコトを。
自分ではない他の、己よりも何倍も技術も才能もある人を何度も褒める姿を。
これを読んでいて、そのくらいどうってことないだろう?
と思う人もいるだろう。
そのくらい、
そのくらい。
確かに、そのくらいで傷ついていたらこの先長くは生きていけないのかもしれない。
けれど私は弱い。
人が思うよりも私は弱い。
申し訳ない、私自身が弱いことは自分でわかっている。
心は安易に、まるで乾いた小枝のようにパキリと折れていた。
[そうだよな、人それぞれだもんな]
と笑いながら涙は出さなかった。
しかし心の中の自分は大泣きしていた記憶はある。
その頃と比べて、今の歌声が果たして変化したのか、私にはわからない。
しかし今の私の歌声を聴いて、心を揺さぶられている人が一人でもいるのなら。それが私の愛する人ならば、酷く幸せな事なのだと思う。
わたしは、貴方のまえでうたっていてもいいですか?
きいてくれる?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます