第2話 化粧



風呂上がりに自分の顔を鏡で見た。落ちきれていないアイシャドウのラメを指先で擦る。しかし目元にくっきりと深緑のアイシャドウはこびり付く。



[毎度面倒臭がってクレンジングを使っていないのが丸わかりじゃねぇか。] そう、一人心のうちでボヤきながら擦り続ける。



深緑と、その中にキラキラと光るアイシャドウ。まるで、森の奥から空を見上げようとしてきた時の木漏れ日みたいで。彼の色だ、と一目惚れした色。



記憶を辿ると同時に、どこかで深紅を見つけてこなければとひとりごちた。



愛しいひとたちの声を思い出しながら、私は自分の人差し指に移ったラメを親指の腹で辿る。空いた手でタオルを使い、くしゃりと濡れた髪を拭いた。


これから聞けるだろう彼らの声を思い浮かべて。


私はきっとこれからも日々、愛しい色を身に染み込ませる。



……今朝もまた私は、深緑と深紅のアイシャドウを目元に滑らせて家を出た。

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