第4話

『音楽が響き渡るところなんてきっとこの森の近くにはない、と周りは言うけれど。ぼくはそんな場所をひとつだけ知っているんだ』



小さくて真っ白いコウモリは、私、紅羽の目の前で胸を張っている。



「突然どうしたんだ。そしてその場所ってなんだ?」と問いかけても、私の愛しい白羽は嬉しそうにふにゃりと笑うばかりで一向に教えてくれる気配はない。


私は諦めて白羽に背を向け、巣の奥に引っ込む。そしてふと思いついたメロディーを口遊んだ。



『紅羽、待って!』と高い声で鳴きながらパタパタと追いかけてきた白羽は、口遊んでいた私の歌を聞き口を閉ざした。邪魔しないように、しかし目をキラキラさせながらこちらに擦り寄ってくる。



思わず笑いが零れた私は羽を広げ、彼を優しく抱き寄せてそのままメロディーを紡ぐ。



傍らの白羽は先程と同じように、どこか誇らしげに笑っている。



[今の私の歌は、この子に聞かせる為のものだ]



笑う彼の顔を眺めながら心のうちでそう思った私は、今度は白羽をきつく羽根の中に抱きしめる。そして遠慮せずその柔らかな首筋に顔を近づけ、



カプリ、と歯を立てて噛み付いた。



愛しい彼の真っ白な首元がほんのりと紅くなり、微かな吐息混じりの声が聞こえる。



夜はまだこれからだ。

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