第3話

紅羽と白羽、2匹の蝙蝠の名前をそう呼ぶとしよう。


紅い、傷だらけの羽根を持つ蝙蝠が紅羽。そして、産まれたばかりの無垢な真っ白な毛並みを持つ蝙蝠が白羽。




ゆっくりと羽根を広げた紅羽は、まだ隣で眠る白羽の寝顔を眺める。何も、不安も恐怖も持ち合わせていないあどけない寝顔。紅羽はそっと白羽の頬を撫でてから、誰にも聞こえないように声を小さくして笑った。



外に出ると、雪は降り積もっている。その中を飛びながら冬の空気を吸い込んだ。身に染みる寒さを耐えながら、紅羽はふと下を見下ろした。



夜の月に照らされない地面、真っ黒な地面に吸い込まれるような気がして紅羽は慌てて巣に引き返した。黒猫を思い出したくなくて、白羽の待つ安心する居場所に戻りたくて。紅羽は凍えかけながら、ボロボロの羽根を必死に広げた。



巣に戻って見てみると、白羽がその近くでぱたぱたと小さな羽根を動かしながら大慌てしているのが見えた。その緑の目がこちらに気づいた。一瞬でその顔は喜びにあふれた。



ただいま、と言うように降り立つと同時に紅羽は、その冷たい体で白羽を抱きしめる。白羽は驚いて笑いながら、ふかふかとした体を紅羽に擦り寄せた。



雪の中、よく目立つ紅い羽と、溶け込むような白い羽が、あたためあうように寄り添っていた。

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