第2話

まだ誰も踏んだことの無い雪の中に突然赤が落とされるのならば、

それは酷く美しくて、きっと同時にどこか寂しいんだ。

そう言いながら、私は傍らの蝙蝠を抱きしめる。

紫の目を持つ黒く赤い蝙蝠を。


とある銀世界での事。





紅い羽を持つ傷ついた蝙蝠が、月に向かい歌い舞う頃の事。


真っ白な蝙蝠が生まれ落ちた。

夜に生える白、深い緑の目、ふわふわとした毛並みの蝙蝠。


生まれたての白い蝙蝠は、その小さな羽根を広げてしげしげと丸い目を向けていたが、どこからか聞こえてくる歌声を聞き付けて外に飛び出した。


生まれたての白い蝙蝠は、小さな羽根をぱたつかせながら、しかし森の中を進んでいく。


歌声のする方へ!




木々をぬけた先には、開けた場所があった。その中央に、歌声の主はいた。


羽根を畳み、小さな声で歌う蝙蝠の姿。


白い蝙蝠はその隣に躊躇いもなく降り立とうとし、しかしぽてりと落ちた。




紅い羽を持つ蝙蝠は歌っていた。想うものへの歌を呟くように。その歌声で何かが目覚めるとも知らず。


だから、空から小さな真っ白い蝙蝠が落ちてきた時は至極驚いたのだ。


酷く慌て、人前で隠していたはずだったボロボロの羽根を広げ、真っ白な蝙蝠の身体を自分の身体でぽすりと受け止めた。



生まれたての白い蝙蝠は、落ちていく感覚にそのつぶらな瞳をきゅっと瞼で隠したが、とす、と何者かに受け止められた。


そして目を開けると歌声の主が目の前にいるものだから、白い蝙蝠は恥ずかしくなって ぽ、と頬を紅くした。


こちらをしげしげと見つめる視線に耐えきれず、染まった頬を隠すように顔を埋める。



紅羽の蝙蝠は、自らの毛並みにぽふぽふと顔を埋める生まれたての存在を見下ろしながらその瞳を細める。


しばらくして、どうやら無碍に出来なかったらしく喉を鳴らして笑い、優しくその傷ついた羽根で小さなからだを抱きしめた。



真っ白な毛並みに己の血が滲む。

しかし、今はこのぬくもりに触れていたかったのだ。

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