とある蝙蝠のお話

ハリト

第1話

とある星に、猫が居た。

言葉巧みな一匹の黒猫が。


その猫に恋をした紅い羽を持つ蝙蝠は、

己が羽を隠し猫に化け、

その猫を愛そうとした。


猫も蝙蝠に甘い言葉を向け、

蝙蝠はその言葉を信じた。



しかし猫には、過去からずっと心の内に想うものがいた。

美しき毛並みを持ち気高く優しい別の猫が。


勿論蝙蝠はそれを知らなんだ。

少しずつ、蝙蝠は狂い始めた。


日に日にその羽が、血を染めたような色へと変わっていくのだ。どす黒く、元の紅ではない、薄汚い色へ。


猫はきっと蝙蝠を嫌ったのだ。



その様子を、夜の月は見つめていた。とても歪な様を。

蝙蝠のどうにも歪に藻掻く姿を。不思議だと首を傾げながら。


そしてその後、少しして、

影の真実を、何もかも全てを、夜の月は知ったのだ。



風を使い夜の月は蝙蝠に伝えた。その知りうる真実を全て。


蝙蝠は全てを悟ったように瞳を細めて俯き、

そして笑った。


夜の月に感謝を告げた後


今まで必死に隠そうとしたはずの、穢れた血に染まった翼を堂々と広げて夜に晒し、


蝙蝠は猫の幸せを願ったのだった。





果たして猫が幸せになれたのか、

果たして蝙蝠の傷は治りゆくか、


その結末は誰も知らない。


これはひとつの御伽噺。

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