第2話俺に平穏をください
この学校には「探索」という授業があります。それについて、少し紹介しておきたいと思います。
この言葉を皮切りに始まった「探索」についての話。実は俺たちは入学式の前の合格者登校日にも同じような話を聞いている。だから、、大まかな内容については知っているのから話半分に聞いていたのだが、これがまずかったようだ。
「一ノ宮君聞いてますか??」
「あ、はい。大丈夫です。」
「退屈だとは思いますが、ちゃんと聞いておいてくださいね。」
周りの人たちからの視線が痛い。これからは、ちゃんと聞いているフリだけでもしておこう。
「では話を続けますね。「探索」というのは、簡単に言えば大学でいう卒業論文の先取りのようなものです。自分でテーマを見つけ、それについて、実験や研究を重ねていってもらうことになります。一応のゴールは論文を2年の後期までに書いていただきます。まぁ、探索に終わりはないのでこれからもずっと探すことにはなりますが。。。とりあえず、2週間後の探索合宿では、1泊2日で探索の模擬体験をしてもらうって感じですね。ここまでで何か質問はありますか」
こういう時ってほとんど誰も手をあげないよね。うん。
「ないようなので話を続けますね。テーマは当日に発表、班は自由、とりあえずルールの範囲内でやりたいようにやってください。という形になります。というわけでここからの進行は私ではなく、探索合宿委員会の方にしていただきます。」
ぞろぞろと四人の人が出てきた。あーなんかいかにも意識高い系って感じがするなぁ。。。俺の苦手なタイプだと思っておこう。
「この度探求合宿委員会クラス代表に選ばれました、田宮 龍之介です。皆さんと楽しみながら、真面目にできたらいいなと思っています。よろしくお願いします。」
「松野です。よろしくお願いします。」
「片山です。頑張っていきましょう。」
「中村です。よろしくお願いします。」
おいっ!勇太もいるのかよ。あ、確かに合格者登校日のあととか、あいつと一緒に帰れなかった日多かったな。そういうことだったのか。全然気にしてなかった。。。
「ということで、ここからはひとまず班決めから始めたいなと思います。そうですね。なりたい方々とペアになって、そこから班にまで拡大させてください。初めまして同然だとは思いますがお願いします。決まらなかったら、くじ引きにします。」
うわ。出てしまった。。。これだよこれ。好きなもの同士でペアになるっていうやつ。。ほんとにこれ提案するやつに、ろくなやついないよなぁ。これ、豆知識な。
そんなことを考えていると、田宮と一瞬目があった気がする。まぁ、俺はそんなこと全く気にしないが。
俺はとりあえず勇太と組もうか。そのあとはまぁ、、勇太に任せておけば、班決めに関してはとりあえず安泰だろう。
勇太の方に向かって歩いて行くと後ろから急にトンっと肩に手を置かれた。
「ねぇ。健吾くん。私たちと組もっか。」
「嫌だ。お前と組んだらなんか目立ちそうだし。他のやつと組めよ。」
「中村くん!一ノ宮くんと私と、ゆづと一緒に組んでもいい??」
「ちょ。おい。勇太に頼むのは卑怯っ」
「いいぞー!」
「はぁ。やっぱりこうなったか。。。」
そんなこんなで俺は留奈と勇太ともう一人。ゆづという女の子と組むことになった。
「じゃーまずは改めて自己紹介しよっか!私は兵藤留奈だよーん!」
あ、そうだそうだ。こいつの名字は兵藤だったな。これからはそう呼ぼう。
「松本優月だよ!私のことはゆづって呼んでね!」
「中村勇太です。探索合宿副委員長も務めてるから、わかんないことあったらなんでも聞いてくれよな!」
「一ノ宮健吾。よろしく。」
そんなこんなで無事?俺たち以外の班も決まっていったようだ。あぁ、俺は男子だけの班でひっそりと暮らしていきたかったのに。どうして入学早々にこんな視線を集めるようなことを続けているんだか。。。
そんなこんなで班決めは終わったわけなんだが、まだまだ決めることはたくさんあるようで、田宮が次々とクラスに対して指示を飛ばしていた。指示はそこそこ的確だし、クラスのみんなも円滑に話し合いを進めていた。なぜかこちらの方を悔しそうな表情でチラチラ見ているのは気がかりだが。。。
「よし。じゃあ俺らの班もパパっと決めてしまおうか。とりあえずバスの座席なんかは俺と健吾、松本と兵藤でいいだろうから、、、」
「ご飯の時の役割分担だねっ!」
「おう。それだな。ちなみになんだが俺はからっきし料理ができない。だから、できるだけ負担が少ない係がいいんだが、松本と兵藤はどうだ?」
「私もからっきし!!でも、ゆづはほんっとうに料理が上手なんだよ!この前食べた肉じゃが、ほんっとにやばかったの!」
「ちょっと、るなちゃん、恥ずかしいからやめてよ。でも、料理は好きな方かん、、、」
やばい。俺を置いて話し合いが勝手に進んでいる。。。このままだと、勇太は多分松本に料理教えて欲しいって頼むはずだ。そうなったら自然と俺と兵藤が。。。それだけはなんとしてでも阻止しなければ!!!
「お、俺も料理はからっきしだからさ、、松本に教えてもらいながらみんなでやらないか?」
「何いってんだ健吾?お前もいつも自炊してるぐらいには料理できるじゃねぇか。」
おいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!勇太そこは俺の意思を汲み取ってくれよーーー!これじゃ兵藤が俺にくるのは確実じゃな、、、
「うっそ!健吾くん自炊してるの!?じゃあ、私は健吾くんにおしえてもらいたいなぁ〜」
「そうだな!じゃあ、俺は松本に教えてもらいながら、、、二組に分かれて作業すっか。」
はぁ。俺の考え得る結論の中で一番最悪な結論に落ち着いてしまった。別に兵藤と組むのが嫌ってわけじゃないんだがあいつ可愛いから目立つんだよな。それだけが本当に億劫だ。
ご飯についての問題はこれにて一応解消されたわけなんだが、(決して問題が増えたなんてことは思っていない)まだまだ探索合宿の話し合いは続いている。俺は一旦兵藤のことを考えるのをやめて、再び探索合宿についての話し合いに戻った。
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1,2時間目は学活ということで、探索合宿の話し合いが行われていたが、今日からはそれだけではおわらない。通常の授業は明日からなのだが、先生たちの意向により、授業時間を使って各科目実力テストを行うそうだ。今日は英語、数学、理科の3科目が行われる。いっても、中学校の復習と少しだけの春休みの予習課題からの出題であったので、そんなに難しいことはないだろう。
2時間目と3時間目の間に行うSHRも終わり、テストの準備をしながら、見ていると入学2日目にしてすこしづつグループが形成されているようだ。探索合宿で話したことのない人とも話したからな。みんな緊張もほぐれてきたんだろう。
教室がざわめきたっているところで、休憩時間が終わるチャイムが鳴り響いた。
「それじゃあテストを始めるぞー。」
そういって入ってきたのは知らない先生だった。多分教科担当の先生に違いないんだろうが、見慣れない先生の時って、テストに緊張感走るよね。
さっきまでとは打って変わった静かな教室に紙が後ろに送られる音だけが響いていた。
「みんなのテスト用紙回ったかぁ〜?テストは40分で行う。チャイムはならないように設定されているから、私の時計の管理のもとで行うからな。それでは始め。」
一斉に紙をめくる音が響いたと思えば今度はトントントンと小気味よくはしる鉛筆、シャープペンシルの音が響く。俺はその音が聞こえてから、一度体の中の息を吐き出してゆっくりと紙をめくって問題に取り掛かった。
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「試験を終了してください!」
この声を皮切りに一気に教室の緊張がとけた感覚がする。やっぱりテストって何回受けても慣れないよなぁ。
先生がテストの回収を促し回収が終わると、みんながさっき話してたであろうグループになり、テストの答え合せをしているようだ。今更、答え合せをしたをしたところで、みんなの解答があってるかなんかわからないだろうに。。。
トイレに行こうと席を立ち上がると、勇太から声をかけられた。
「おつかれさんっ」
「おつかれっ。どやった?ってまぁ聞くまでもないか。」
「そんなこと言わんと聞いてくれよぉ。」
「じゃあ、どやった?」
「うん。ケアレスミスなかったら多分満点。」
「そういうと思ったぜ。相変わらずさすがだな。」
「痛っつ!もぉやめろよな。」
うざかったので頭にチョップをかましながら、トイレに向かった。テストの後は毎回こうするのが勇太とのルーティンみたいになっている。俺はそれを心地いい時間に思っていた。
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数学、英語、理科とテストをこなし、気づけば俺たちは帰路についていた。今日は勇太たちの探索委員会会議も昼休みに終わっていたようで一緒に帰れる。いつものように適当に雑談していると、ふと勇太が話し始めた。
「そういえば、、、昨日確認してたんだが、、、今日もライブあるみたいだぞ。例のグループ」
「うっそ。まじかよ。どれどれ。」
勇太の手元をのぞいてみると、あるSNSが開かれていた。そこには確かに、昨日ライブしていたグループで今日もライブ予定であることが書かれていた。なんならこの場所からは相当近所だ。
「勇太、どうする?」
「俺に聞かなくても自分に聞いたらわかるだろ?」
「それもそうか。んじゃあ、行きますかっ。」
俺たちは昨日のライブに確かに感動していたのだ。あんないいライブをするグループに会いに行かないなんて勿体なさすぎる。別に兵藤が気になっていくわけじゃないってことだけは言っておく。
そうと決まれば俺たちの行動は早い。すぐに家に帰り、着替えて再集合する。なんだか緊張するなぁと思いながら会場に向かっていった。
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ライブ会場に着くと一息ついてから俺たちは会場に入った。いつものように先にドリンクチケットとコーラを交換してもらってちびちび飲みながら、例のグループの登場を待っていた。こんなにも一生懸命他のアイドルさんたちがパフォーマンスしているのに、全く記憶に残った気がしない。ケータイを何度も何度も確認するが一向に時間が進んでいる気がしない。
「何をこんなにそわそわしてるんだろうか。」
俺のつぶやきは誰にも届くことはない。刻一刻と出番が近づいているのを待つだけだ。
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照明が暗くなり、続々と次のグループが壇上に出て準備をしている。この瞬間を今日は待っていたんだと思いながら俺はこの後の演技を1秒でも見逃さないようにと心を落ち着けた。
軽快な音楽の前奏とともに、次々とコンビネーションダンスを披露して始まった。「みなさん今日は盛り上がっていきましょう!」
流行りの曲から俺は知らない曲まで、次々に歌いながら踊っているメンバーたち。昨日に続いてやっぱりメンバーたちがこの場を一番楽しんでキラキラしている。コールなどはないようだが会場のみんながその演技に魅了され、曲に合わせてクラップをしていた。会場が一体になっている。そんな感覚を得た。
「次が最後の曲になります!聴いてください。」
楽しい時間はあっという間で最後の曲なんだな。汗だくになりながらも楽しそうに踊っている彼女たちを見ているのは本当に楽しいなぁ。それに兵藤も、、、
「んっ!?」
兵藤がこっちに気づいた気がする。別に悪いことをしているわけじゃないんだが、、、その笑顔、、、今日1日頭から離れないじゃねぇか。。。
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「やっぱりすげぇよなぁ。」
ライブが終わり俺たちは帰路につきながらいつも通りライブの感想会をしていた。
「それよりもすげぇよなぁ。兵藤だけじゃなく、松本もあのグループにいたなんてな。」
「んなっ!?」
「お前気づいてなかったのかよ。ほらこれ見ろよ。」
そういって差し出されたのはさっきも見たSNSだ。それをよく見たら、本当だ。全く気がつかなかったが、松本の姿もそこにあった。
「Deaか。。。すごいグループになりそうだな。」
「健吾君!!!!!!!!!!!!!!!!」
後ろを振り返ると走ってきていた兵藤と松本の姿があった。
なんなら兵藤の表情はちょっと怒っているようにも見える。うん、俺やばいかもしれないな。この後のことに思いを馳せながら兵藤たちが追いつくのを待っていた。
まだまだ平穏は来なさそうです。
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