第126話 使徒としての目的の完了
やけに明るい場所だった。
眩しすぎて周りが良く見えない位だ。
そう思って俺は気づく。
この場所はこれで3回目だなと。
『意識が戻りましたでしょうか』
そんな意味の何かが聞こえた。
間違いない。
『お疲れ様でした。
また貴方をこの世界へ使徒として呼んだ目的も達成されました』
そんな意味の意思が伝わってくる。
「まだそれほどの事をやったとは思っていませんが」
確かに教団の改革はしたし、この国もある程度変えた。
でもまだまだこの国の民衆全体の生活がそれほど変わった訳でも無い。
教団の財政状態等は大分改善された。
南部等の貧農の一部は生活も良くなった。
学校の生徒には確かに色々出来た。
でもそれはこの国全体でみたらそれほど大きな部分では無い。
それに
『貴方の成し遂げた事により、この国は変化をはじめました。
今はまだその変化も小さく見えます。ですがこの後、時間を重ねるにつれて変化はより大きくより好ましい物となっていくでしょう。
そしてこの流れはもう止められません。
その台詞をちょっと考えて、そしてふと俺は疑問を感じる。
「確か本来の目的は信者を増やす事だったような気がしますが」
『それもありますし、信者の生活を豊かにする事も含まれています。そして貴方は
なるほど。
「それで俺はどうなるんですか」
『残念ながら貴方を最初にいた世界に戻す事は出来ません。ですのでここで使徒としての役目を終え別の生に転生するか、使徒としてこの先もこの国とともに歩むか。どちらかを選んでいただきます』
それなら答は決まっている。
元々以前の世界に戻るつもりも無い。
向こうには俺の居場所はもう無いからな。
だがこっちの世界は違う。
俺を待っている人がいる。
『わかりました。それでは使徒としてこの国に戻って貰う事にしましょう』
だが元に戻る前にちょっとだけ。
「質問してよろしいですか」
俺は尋ねる。
『伝えられる事でしたら』
「
少しの間の後。
『同じような存在とも同一の存在とも言う事が可能です。個というものの認識と定義が私達と貴方では違いすぎる故、そのような答となります。私、あるいは私達は同じ知識と同じ目的をもった上で、それぞれ違う手段で貴方方の世界を見守っています。あの国で神と呼ばれる存在は、
いや、十分だと俺は思う。
でも質問をもうひとつだけさせて貰おう。
「神々の目的は何ですか」
『この世界の進化です』
今度の答ははっきりしていた。
『この世界が進化していき行き着く先、その答を私または私達は知りたいのです』
なるほど。
何となくだが俺にも言葉以上のイメージで伝わった。
俺達が神と呼ぶ存在は、知識と目的を共有した、単一とも複数ともとれる存在。
ただ目的の為に使う手段の違いによって違う名前で呼ばれている。
愛情、芸術、勝利、そして恐怖等。
例えれば手が何本もある人間がそれぞれの手で作物を育てているようなものだ。
ある手は肥料を、ある手は水やる如雨露を、ある手は耕すための鍬を、ある手は殺虫剤を持って。
手そのものにも独自判断能力が存在していて、その手1つ1つを作物である俺達は別の神として呼んでいる。
でもその手の持ち主は1人。
『然り、そう言うべき処でしょうか。
そのようにして私または私達は世界の進化の先にあるものを求めています。
それが何の為かは、貴方方に当てはまる概念が存在しないので伝える事が出来ないのですけれど。
さて、お話はここまでにしましょう。
貴方は使徒として戻っていただきます』
俺の周りは白い光で覆われ、そして……
◇◇◇
意識が戻ると同時に現状認識能力が働く。
ここは俺の知っている部屋だ。
アネイアにある
仕事で何度も泊まった事がある。
外は暗いが時間はそれほど経っていないようだ。
まだ街にそこそこ人が動いている。
念の為時間そのものを現状認識で再確認。
あの戦いから2時間程度経過していると出た。
俺のベッドの横にはイザベルが腰掛けている。
あの戦いの後そのまま状態だ。
一見身なりが整っているように見えるのは施術で清拭や洗浄をかけたから。
あの日、俺がミランで刺された時と逆の状況だよな。
あの時はイザベルがベッドで俺が横で見守っていた。
今はちょうど逆の配置だ。
「使徒様は、ずるいのですよ」
俺の意識が戻った事に現状認識で気づいたのだろう。
イザベルがそんな事を言う。
「前の襲撃の時、使徒様では
軍や王宮付の高級術師、更に
まさかこれでも
何かもう、かなわないのです。だからずるいのですよ」
そうかもしれない。
でも俺には俺の言い分がある。
「イザベルに何かあったらたまったもんじゃないからな。結構これでも必死だったんだぞ」
俺は起き上がる。
単なる力の使い過ぎだったので、ある程度回復すれば問題は無い。
イザベルが回復施術をかけてくれていたようだし。
「あと頼むから今後はこんな心臓に悪い真似はしないでくれ。奴が俺をおびき出すつもりだったから何とか間に合ったけれどさ。今でも間に合うかどうか、あの時の気持ちを思い出すとぞっとする」
「それが不思議なのです。どうやって間に合わせたのですか。
気づかれないよう秘密裏に根回しして戦力を整えたのです。いざ公式に訴え出て
「走ってきた。
「どういう事なのですか」
継ぎ足し説明になると面倒なので最初から全部説明する。
国王からスコラダ大司教への飛脚便で事案を知った事。
高速移動神技で急行中、空間軸操作を習得した事。
それにより更に早く現場に到達できた事。
そして
全部聞いた後、イザベルはふうっと息をついた。
「それはそれで結構ぎりぎりだったような気がするのですよ。その空間軸操作を使えなかったらどうなっていたか、考えたくないのです」
「結果的になんとかなったからいいだろ、今回は。もうこんな事は無いと思うしさ」
「まあこっちも使徒様が来ないとアウトだったのです。あのエロで強気な使徒トマゾすら使徒レン殿が来なければ負けていたと認めたのです。なのでこれ以上はお互い不問なのですよ」
まあそうだな。
お互いちょい無理をした。
でも結果的に何とかなった。
今回はそれでいい。
「あとは久しぶりに
「どういう事ですか」
イザベルにはこの世界に来た時と、暗殺されかかった時に
だから今回のやりとりだけをささっと話す。
イザベルは全部聞いた後、ゆっくり確かめるような口調で言った。
「使徒様はこの世界にとどまっていただけるのですね」
「勿論だ。ここが俺の場所だからな」
イザベルはうんうんと頷いて、そして付け加える。
「ならば、ひょっとしたらまだ治らずに残っていた視力や体力も戻っているかもしれないのです。試してみる価値はあると思うのです」
確かにそうだな。
まずは確かめるのが簡単な視力の方だ。
俺は目を開ける。
イザベルの顔にピントがあった。
見て感じた事を、思わず言ってしまう。
「イザベル、綺麗になったな」
あ、イザベル、顔色が赤くなってきた。
ひょっとしてまずい事を言ったかな。
「もう! 今それを言うのは反則なのですよ!」
イザベル、頬を膨らませる。
その辺は以前のお子様イザベルと変わらないよな。
でも俺が真っ先にそう感じたのは事実だ。
綺麗と可愛いがちょうどいい配分だな。
ふと思う。
今なら、イザベルとなら。
もう一度誰かと人生を共にする事に挑戦してみてもいいかなと。
目が見えるようになったとたんそう思うなんて我ながら何だかなと思う。
でも実際そう思ってしまったのだから仕方無い。
ただ今までの事を考えると少々ムシが良すぎるかな。
「取り敢えず明日朝1番の馬車で学校に帰るぞ。事務仕事をぶん投げて来たからな。ノーラ司祭がブツブツ文句を言っていそうだ」
「はいはい、わかりましたなのです。それではお休みなさい、なのです」
「お休み」
イザベルは部屋を出て行く。
取り敢えず今日はいつも通りにしておこう。
でもいずれイザベルには言わないとな。
今までごめんと、これからもよろしくと。
その辺をどういうタイミングでどんな風に言えばいいだろうか。
残念ながらその辺は使徒様であってもわからない。
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