第22章 春を迎える前に
第120話 施術以外の術
さて、相変わらず学校はそこそこ忙しい。
忙しいが今日は夜に少しだけ時間を作った。
俺自身が解決しなければならないが放っておいている問題を整理する為だ。
例えばイザベルとの関係の問題。
この辺は俺の方の問題がかなり大きい。
あとは
今はなりを潜めているがいずれまた襲撃してくるだろう。
イザベルも標的になっているようだし放っておく訳にもいかない。
他にも細かい問題は色々あるのだが、俺自身が解決しなければならない主な問題はこの2つだ。
イザベルというか俺体質的問題はちょっと解決手段が思い浮かばない。
改善をする方法が見当たらないのだ。
性欲に対する身体的機能そのものは無くなっている訳ではない。
PTSDとまでは行かないかもしれないが、過去の経験がちょい身体の反応を色々誤動作させているだけなのだ。
現状認識で再確認してみたがその辺を改善するような施術は無い。
かといって原因である記憶を抹消する訳にもいかないだろう。
ただ前世のうつ病とかは
だから病気そのものは治療済みというか解決済みの筈なのだ。
あと必要なのはおそらく改善するためのきっかけとなる何か。
でもその何かが今のところ思いつかない。
だから決してイザベルのことをおろそかにしている訳では無いのだけれど、まずは
間違いなく今のままでは俺は奴には勝てない。
良くて相打ちというところだ。
奴を倒すには奴を越える何かがなければならない。
つまり今の俺が
だが戦闘術の類いで奴を上回れるとも思えない。
おそらく今までのこういった経験に対しては奴の方が段違いに上だろう。
今更付け焼き刃でなんとか出来るとは思えないのだ。
俺が奴を上回る事が出来るとすれば科学技術の知識か術。
だが科学技術と言っても銃のような兵器は使いたくない。
この世界に無用にそういった技術を持ち込みたくないのだ。
俺が手に入れるべきは
つまり施術ではない術、それがベストだ。
その辺はまあ、この国の事情なり慣習なり常識という奴だ。
だが俺は実は少しだけ心当たりがあった。
心当たりというか希望というか推測というか、そんなおぼろげな物だけれども。
その為に今日は図書館で幾つか本を借りてきた。
それぞれ他の教団に関する本だ。
取り敢えずまずは読んで情報を仕入れる。
幸い俺の現状認識能力を使えばごく短時間で本の内容を読み取ることが可能だ。
うん、予想通り。
少なくとも
ならばだ。
『神は人間を通常は個別に認識していない』可能性は無いだろうか。
無論信者の数の大小を把握している事はわかっている。
更に事実関係の知識が神から伝わるときは、『誰がどうしてこうした』レベルまで把握できる事もわかっている。
でも普段は統計的にしか人間を把握していないのではないか。
そんな気がするのだ。
あくまで俺の推測だけれども。
更にもっととんでもない推論というか仮説もある。
『実は全ての神は同じ神なのではないか』というものだ。
同じ存在が人間に与える効果というか恩恵を変えているだけ。
これらの仮説というか推論を証明する手段は今のところ無い。
だがもしもこれらの仮説が一部でも正しければ。
俺、つまり
さて、そうなったら次は理論から実践だ。
幸い俺は試すのにちょうどいい術を知っている。
高速移動神技、その実態は単に速く走るという神技である。
ただしその速度は馬よりも速い。
以前使徒トマゾ氏が使っているのを見た時はただ速く走るだけに見えた。
よし、試してみよう。
部屋から廊下を通り外に出る。
夕食後なのでもう人影は無い。
まず普通に走ってみる。
元々体力派ではない上に代償としての体力制限がまだ有効。
だから並みの大人よりかなり遅い。
これを速くするにはどうすればいいだろう。
筋力を増加させるのはきっと限界がある。
せいぜいオリンピック選手並みまでだ。
トマゾ氏の走り方を思い出す。
そう言えばストライドが異様に長かったような気がする。
ピッチはそれほどでもなかったな。
という事はだ。
もう一度走ってみる。
ただし足を蹴り出した時の力だけ数倍になるよう、筋力だけで無く術の力で俺を押し出すように。
うおっと、とんでもない距離進んで思わずバランスを崩した。
思い切り転んで地面をグルグル4回転くらいして止まる。
幸い怪我は無い。
あっても施術で治すけれど。
着地の時もそれなりに術の力で受け止めつつ後ろに流す必要があるようだ。
あと1歩で8メートル近く進むからカーブ等も気を付ける必要がある。
その辺を反省してもう一度。
おう、速い速い。
確かにこれは割と簡単に出来る。
普通はやろうと思わないだけで。
俺は体力が常人以下だから走り続けられる時間は通常なら短いだろう。
でも回復の施術を使えばここからアネイアまで位なら走れるかな。
これが本当の高速移動神技なのかはわからない。
でもこれくらい簡単に今までにない術が出来るなら、他にも有用な術が出来るかもしれない。
ならば
ただ今日はもう寝よう。
よく考えたら昨日も寝不足なのだ。
回復施術で誤魔化したけれど、あまり繰り返すと体に良く無い。
あとは明日考えよう。
そのまま居住棟の長屋に入ろうとして気づく。
今土の上を転がったから服が土まみれだ。
とりあえず施術で綺麗にして、それから俺は部屋へと戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます