第116話 夜の散歩(4)~副校長先生とのきっかけ~
「そうやって歩いている最中、エレナとかダフネとかが校長先生にとんでも無い事を聞いているのが耳に入りました。
副校長先生とどういう仲なのか、そんな質問です。
普通そんな質問を先生にしたら怒られます。怒られないまでも誤魔化されるところです。でも校長先生はその気があまりない処まで含めて、言葉を選びつつも誤魔化さずにきちんと答えてくれました。
そう言えばあの時と同じような質問をさっきしてしまいました。ごめんなさい、校長先生」
「いや、構わない。クロエにとって必要な質問だったんだろ」
そう、構わない。
クロエちゃんはクロエちゃんなりに今、必死になって何かを言おうとしている。
仮にも俺が先生ならそれを正面から聞いてやるべきだと思うのだ。
例えその答がどんなものであろうとしても。
「そういう処なんです。校長先生や副校長先生が他の大人と違うのは。
でも今は話の続きを進めます」
クロエちゃんはそう言って、そして再び口を開く。
「遠足が終わって私は思いました。もっと色々な事を知りたいし感じたいって。地図があのように実際の世界と繋がっているなら本も同じように実際の世界に色々繋がっているのではないか。色々な本を読めるようになれば広い広い世界をもっともっと感じられるようになるんじゃないか、そう思ったんです。
だから本を読めるようになりたい。でも学校の授業はわかるようにやっている分まだるっこしいように感じました。でももっと早く進めてなんて言えない。クラスには色々な生徒がいますから。
でも今授業を教えて貰っている先生にお願いするのも気が引けたんです。ノーラ先生もブルーノ先生もいい先生です。でも授業と関係無い事を聞いたりするとやっぱり怒られたり誤魔化されたりしてしまいます。そうしないでお願いを聞いてくれそうな先生。校長先生ならお願いすれば聞いて貰えるかなとも思ったのですけれど、やっぱり少し気が引けました。偉い人だし忙しそうだし。
だからもう少しお話しやすくて、でもやっぱり質問には何でも答えてくれて、場合によっては『自分ではわからない』という事も正直に言ってくれる、それでいて誰よりも色々な事を知っている先生。つまり副校長先生にお願いしたんです。副校長先生も偉い人だけれど女性だし見かけも私達とそれほど差はないし、割とお願いしやすい先生でした。
だからお願いしたんです。本を読めるようになりたい。だから文字を教えて下さいって。
『いいのですよ。でも私も日課があるので教えられるのは3から5の曜日の早朝、それと安息日だけなのです。それと私は元々3組の生徒に教え慣れていないので、結構厳しいかもしれないのですよ。それでも良ければ明日の朝からはじめるのです。用意は全部私がしておくのですよ』
副校長先生と個人的に色々付き合うようになったのはその時からです」
なるほどな。
確かにイザベルは見かけは十代前半だし話しかけやすいかもしれない。
それにイザベルならそんなお願いを絶対断らないだろう。
むしろ喜々として受け入れると思うのだ。
それで自分が大変になろうとも。
「副校長先生の教え方は結構厳しかったです。言葉とか態度とかが厳しい訳ではなくて、ちょっとでも気を抜くとわからなくなりそうという意味で厳しかったです。エレナと私で教えて貰ったのですけれど、教えて貰った事は次の時までに確実になるよう復習して、もしわからない処があったらそれをはっきりさせて次回真っ先に質問する。でもぎりぎりついていけるペースに調整してくれたんだとは思います」
多分現状認識で2人の理解状況を確認しつつぎりぎりの進度で教えたんだろう。
確かに進度は速いだろうけれど教えられる方はたまったもんじゃないよな。
ただそれだけクロエちゃんもエレナちゃんも本気だったという事だ。
イザベルもそれを理解していたんだろうと思う。
「とにかくそれを繰り返した結果、1月もした頃にはほぼ学校にある本は読めるようになりました。
6月の終わりの安息日の朝、副校長先生が私とエレナを本部の方へと連れて行きました。いつもは学校の図書室か副校長先生の部屋で勉強していたので、何故かなと思いながらついていきました。
本部のホールを通り、知らない廊下を通ってついたのは図書室でした。
『知の世界にようこそ、なのです。ここの図書館は小さいですが本はなかなか揃っていると自負しているのです。私自身が図書館長だった時代に厳選した本が揃っているのです』
そこで係の担当、今思うとドロテア司祭ですね、にカードと入室証をつくって貰いました。そして副校長先生は私とエレナに本を2冊選んで借り方を説明すると、今度は隣の部屋に行きました。
「ここは校長先生や私が使徒様と補佐として働く場合の別室なのです。でも今は学校が忙しいですし別な場所で開発もしているので比較的空いているのです。だから隣で本を借りた際はここで読むのがお勧めなのです。教団外に持ち出せない本でもここで読む分には問題が無いのですよ。
なおこの部屋の使用については私が話を通しておくので問題ないのです。それに私も仕事が無い時はだいたいこの部屋にいるので、質問でも何でも受け付けるのです」
この時から副校長先生としてだけでなくイザベル先生と色々な話をするようになったんです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます