第21章 夜の散歩と長い長い質疑応答

第113話 夜の散歩(1)~散歩の始まり~

 夜8時半。

 馬車が定刻通りに出たならそろそろ到着する時間だ。

 俺は教団入口付近、馬車降車場で馬車を待っている。

 イザベル達に言われた事が何となく気になったのだ。

 なおプリンは1個ずつ紙箱を作ってそれぞれ持ち歩けるようにして持ってきた。

 これはまあ出迎える口実と言えなくも無い。


 馬車の音が聞こえはじめた。

 ほどなく2頭立ての大型馬車がやってくる。

 しかも2台だ。

 結構乗員がいるんだな、そんな事を思う。

 まず先頭の馬車が到着。

 案の定降りてくる人数は多い。

 1台に20人位、ほぼ定員いっぱいだな。

 最初の馬車にはいないようだ。

 とすると後の馬車かな。それとも明日の馬車かな。

 そう思ったとき、ちょうど後の馬車からクロエちゃんが降りてきた。


 俺が声をかけるより早く向こうが俺を見つける。

「あれ、校長先生どうしてこんな処に」

「皆がクロエ辺りは今日帰ってくるんじゃないかって言っていたからさ。ちょっと待ってみた」

「ええっ、ええっ……」

 何かクロエちゃん、動揺している。


「それでどうだった」

「試験の方はばっちりです」

 そんな事を話していると見慣れた3人もやってくる。

「あ、何でここに校長先生がいるの」

「お前らが帰って来そうだと皆が言うからな。ほれ、今日の努力賞」

「あ、プリンだ」

 中を開けずに確認しやがった。

 そう言えばこいつらは限定的ながら現状認識を使えるんだった。


「試験は楽勝でした。校長先生が作るような凝りすぎた問題も副校長先生が出すような知識の限界を試すような問題もありませんでしたし」

「ロベルトがううう……って頭を抱えていましたけれど、あれもいつも通りだから心配いらないと思います」

「大体みんな大丈夫そうだったよね」

 なるほど、試験は上手く行ったようだ。


「夕食とかは大丈夫か。簡単なもので良ければ作るけれど」

「大丈夫。お昼のうちに夕食のパンまで買って馬車の中で食べてきました」

「でも馬車ぎりぎりだったよね。試験終わって4人で教会まで走って、馬車2台目がちょうど出発寸前という感じだったし」

「2台出たのがラッキーでした。1台目はもう出ていましたから」

 なるほど。

 

「なら寮に帰るか。今日はお疲れさん」

「お疲れ様でした、あ、そういえば」

 エレナちゃんが妙なところで台詞を切る。

「そういえばどうしたんだ?」

「クロエがちょっと校長先生に話があるそうです。学校でしにくい話なので、ちょっと夜遅いけれどいい機会だと思いまして」

「ちょっとエレナ!」

「事実でしょ」

「そうそう」

 何か他の3人周知の事でクロエが俺に話があるようだ。

 何だろう。


「それじゃクロエは校長先生に任せて帰りましょう」

「そうそう。寮監の先生にはクロエは校長先生のところに話に行っていて遅くなるって伝えておきますから」

「では校長先生、プリン御馳走様です」

 賑やかなのが去って行く。

 元気だなあいつらは。

「何か今日入学試験を受けたと思えないな」

「実際そんなに大変な問題でも無かったですから」

 あれクロエちゃん、ちょっといつもと口調が変わったな。

 そう思うがあえて指摘しないでおく。


 そんな訳でクロエちゃんと2人になった。

「ところで話って何だ? 質問でも何でも答えられる範囲で受け付けるけれど」

 学校でしにくい話というと、設備だとか教材についてかな。

 教団も以前よりは大分マシだが思い切り裕福というわけでもないしな。

 王立中等学校なんかと比べたらみすぼらしいかもしれない。

 そんな事を思う。


「色々ありますけれど、歩きながら話しましょうか」

「いいよ」

 何だろう。

 あとやはりいつもと口調が違う。


「それではまず質問から。校長先生は私と副校長先生のこと、それぞれどう思っていますか?」

 んんっ。

 いきなり予想外、かつ答え方が難しい質問が来た。

「可愛い生徒と頼りになる補佐役だな」

 取り敢えず無難な答をかえしておく。

 間違いじゃ無いし。


「それだけですか」

 クロエちゃん、あっさり。

 ならどう答えればいいのだろう。


「副校長先生、凄く綺麗になりましたよね。前もだんだん綺麗になっているなと思ったんですけれど」

 そう言われても困る。

 意識してイザベルの姿とかを現状認識で確認する事も無いし。

 どうであろうとイザベルはイザベルだ。

 それが俺にとっての普通。

 それ以上は特に考えもしなかったというのが本音だ。

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