第112話 国立学校の試験日

 翌日は安息日。

 3年生は自由登校なので、今日は久しぶりに勉強会ではない安息日だ。

 といっても一人の休日を謳歌できる訳では無い。

 秋に勉強会が始まる以前同様、学校の談話室で生徒やイザベルとゲームだの雑談だのをしている訳だ。

 いるのは2代目や3代目の図書館作業組等を中心にだいたい40人くらい。

 秋より人数が増えているのは今の3年生と1年生の定員差の分だ。


「そういえば副校長先生、例の本そろそろ出版されるそうですよ」

「それはなかなか楽しみなのです。教学部も教材等で忙しいのに頑張ってくれているのです」

「あれが最近の一番の売れ筋ですから。教学部も優先的に印刷・製本したそうです」

 そんな会話が聞こえてくるが、何の本かはあえて聞かない。

 どうせろくでもない本に決まっている。


「校長先生。そろそろおやつの時間にしてもいいと思うのですよ」

 イザベルがゲームをしながらそんな事を言った。

 そう、相変わらずおやつは俺担当だ。

 使徒を使徒と思わぬ扱いだよな全く。

 一般信者とか地方の教会だと大歓迎してくれるのだけれども。

 まあ文句を言っても仕方無い。

 俺の料理の腕は大体の人間より上だしな。

 ロレッタには流石に勝てなかったけれど。

 使徒ならではのハイスペックさがこんな処まででている訳だ。

 更に言うと本日分はもう既に準備が出来ている。

 朝のうちに仕込んでおいたからな。


「保冷箱に入っているぞ。出して全員に配ってくれ」

「了解なのですよ。という訳で皆さん、おやつなのです」

 2年の連中は勝手知ったる感じで出しては配っていく。

 こいつらも昨年の今頃はまだ慣れない感じだったけれどな。

 この年頃の1年の成長は本当に早いなと思う。


「今日は少し少なめなのです」

「プリンとしては充分大きいと思うぞ」

 パンケーキとかと比べると確かに小さいかもしれない。

 でもドリンクバー用カップ七分目サイズは決して小さくはないと思うのだ。

 材料も例えば卵は1人当たり2個も使っている。

 卵80個と牛乳10リットル相当は懐に決して優しくない。

 教団トップの使徒と言えど自由になるお金はそれほど無いのだ。

 まあ材料の一部は農場で売り物にならない物をもらってきているし、他にお小遣いを使う事も無いから大丈夫だけれど。


「そういえばアウロラ先輩達、そろそろ試験終わりだよね。どうだったかな」

「アウロラ先輩やクロエ先輩達は気にしなくて大丈夫じゃない?」

「そうだよね。心配するとすればロベルト先輩かな。国立、せめてネーブル校でもに引っかかってくれればいいけれど」

「ロベルト先輩も出来るんだけれどね。本番に弱そうだし」

 そんな会話が聞こえる。


 3年1組のロベルト君、君はそういう目で後輩に見られていたようだぞ。

 実力はあるんだけれど見直しが嫌いとか気分で点数が変わるとかあったからな。

 でも実力は本来アウロラ達とそう変わらない筈なんだ。

 だからお願いだから後悔しないように頑張ってくれ。

 もう試験終わりの時間だけれどな。

 そんな事を思いながらプリンを食べる。

 今では砂糖があるのでカラメルもしっかり作れる。

 俺は苦いのが苦手だからちょい甘めに作るけれど。


 そんなこんなで夕刻。

「とりあえず『スティヴァーレ王国馬車道中』も今年用の訂正終わったよ」

「蚊取り線香とか砂糖とか、あとあの新街ニュータウンも入れたからね」

 イザベル配下図書館組の2年1組コロンバちゃんとテレンツィオ君がそんな報告。

 どうやらイザベル、図書館組に命じてゲームの改定をしていたらしい。

 この辺のゲームは毎年最新の情勢にあわせて少しずつ改定している。

 何せ授業でも使うからな。


「ご苦労様なのです。何なら余ったプリンを持って帰ってもいいのですよ」

「あ、あれはクロエ先輩達の分です。多分今日中に帰ってくると思いますから」

 ん?

 確かに安息日にはアネイアの教会を午後4時過ぎに出る定期便の馬車がある。

 安息日に買い物等に出て明日から本部で働く人の為の馬車だ。

 だからそれに乗ればここまで帰る事は可能。

 でも試験を受けた後だと出発はかなりぎりぎり。

 だから皆には明日の馬車で帰ればいいと言ってある筈だ。


「指示では明日の馬車でいいと言ってあるけれどな」

「でも最低でも図書館勤務だった4人、中でもクロエ先輩は間違いなく帰ってくると思います」

「クロエ先輩なら出発に間に合わなくても走って馬車に追いついて来そうだよね」

「そうそう」

 うーんそうなのだろうか。

 俺にはわからない。


「私もそう思うのですよ。ならこれは今日帰ってくる分でとっておくのです。そんな訳で校長先生、保存よろしくお願いするのです」

「そうなのか?」

 イザベルまでそう思うわけか。

 よくわからないながそれなら取っておくとしよう。


「うーん。校長先生やっぱり気づいていないみたいだよ」

「そして副校長先生が気づいているってのが報われないよね」

「でも生命の神セドナの使徒様は……の前例があるから……」

 何かひそひそ話をしている。

 何となく聞こえてはいるのだが俺にはよくわからない。

 でも現状認識を使うような事案では無いだろう。

 なのでそのまま聞き流しておくことにする。

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