第105話 今日も襲撃

 翌日も嫌な気配は続く。

 街中等では特に感じないが馬車で移動中に感じるのだ。

 ただ襲撃してくるまでには至らない。

 ずっと後を追っている。

「気味が悪いのですよ」

「でも追ってくるだけでは問題無いだろう。放っておこう」

 勿論万一に備えて俺も監視はしているけれど。


 本日は早朝に出発し、4箇所回ってボノニアで宿泊予定。

 相変わらずの強行軍だ。

 ハッチョ、レイニア、ボロジナ、フェーララと回ってボノニアに向かう途中。

 やや暗くなってきたところで昨日と同様、俺の現状認識能力が警報を発した。

「襲撃だな。それも昨日より遙かに多い」

 今度は馬車という単位では無い。

 前方に200人規模、つまり中隊規模の人員が配備されている。

 動きからして野盗とかではなく軍隊。

 中隊なら対術小隊もいるだろう。


「使徒様、大丈夫ですか」

 本日の御者担当であるボノニア支部所属のヴィットリオ司祭補が尋ねてきた。

 彼には昨日の襲撃の件も話してある。

「そうだな、一度停まってくれないか。状況を確認したい」

 悪いがこの程度の部隊なら使徒である俺の敵では無い。

 ただここで全力をつかう訳にもいくまい。

 この後に何か仕掛けてくる可能性もある訳だ。


 現状認識できる範囲を限界まで広げる。

 背後もかなり距離をおいてはいるが部隊が集結中のようだ。

 敵ながらかなり無茶をするなと俺は思う。

 ここまで部隊を動かしておいて隠蔽できるのだろうか。

 そこまでして俺を消したいのか。

 消してしまえばどうにかなると思っているのか。

 

 まあいい。

 逃げられない喧嘩なら買う事にしよう。

「背後にも兵を展開しているようです。規模は前方とほぼ同じ。面倒だからこのままボノニアに向かって下さい」

「大丈夫ですか使徒様」

「この程度の兵隊で神の使徒は妨げられません。この際その事を向こうにも理解していただきましょう」

 問題はいかに力を使わずに敵を無力化するかだ。

 その気になればかなり悪逆な手段もとれる。

 でもそれは生命の神セドナの意思にそぐわないだろう。

 敵であっても命令に従うしかない下っ端の皆さんに極力被害は与えたくない。

 そんな訳で、だ。


「イザベル、例によって馬車の守りは頼む」

「了解なのです」

 イザベルはこれでもバリバリの上級施術師。

 本気になれば彼女1人でも対術小隊以上の戦力だ。

 一方で俺はまず、お約束の強制睡眠施術をエリア限定で起動。

 路上以外に位置する敵の部隊を根こそぎ倒す。

 

 さて、残りは路上に展開している隊と対術小隊だ。

 対術小隊は術無効の魔法陣や護符を装備しているから施術がききにくい。

 睡眠施術や誘導施術は相当に力をかけないと効かないだろう。

 そして俺はそこまで力を使いたくない。

 ここを乗り切っても次がある可能性があるからだ。

 そんな訳で若干悪辣な手段を取ることにする。

 具体的には路上に展開していた兵隊を誘導施術を使って動かす訳だ。

『暴徒化した一般民衆がいる。出来るだけ死者の出ないように鎮圧せよ』と。


 本当は対術小隊対それ以外の全部隊としたいところだが、誘導施術は睡眠施術の3倍くらい力を使う。

 だから路上に展開している部隊だけを誘導させてもらった。

 大体路上に展開していたのは1小隊40人といったところ。

 対術小隊は小隊といっても12人定員。

 だから勝負にならないだろう。

 対術装備以外は一般歩兵と同程度の装備と戦力だし。


 術師部隊が小隊規模以上でいたら面倒だったな、そう俺は思う。

 ただ術師部隊は基本的に国王直轄部隊だ。

 そう簡単に動かすわけにもいくまい。

 なお中隊付きの術師数人は力で圧倒させて貰った。


 結果として馬車は倒れている兵士や馬の横を何事も無く通り過ぎる。

「それにしてもしつこいのですよ」

「向こうには向こうの言い分があるんだろう。既得利益の喪失とか収奪構造の崩壊とかさ」

「部隊章等がありませんね。不正な戦闘だとの自覚があるのでしょう」

 そんな会話をしながら俺は考える。

 これで諦めてくれたらしい。

 でもここまで部隊を動かすような連中だ。

 何をしてくるかわからない。


 一般の兵隊程度なら軍団単位であっても俺の敵では無い。

 それでも俺を倒す方法は無い訳では無いのだ。

 例えば俺と同格である各教団の使徒。

 同じく各教団出身の上級レベルの術師で構成された部隊。

 王宮付き術師等、やはり上級レベルの術師の集団。

 このあたりとなると俺も本気で戦わざるを得ない。

 生命の神セドナの施術は戦闘にも有効だ。

 でも例えば勝利の神ナイケ教団は戦闘に関しては専門家。

 戦闘では間違いなく向こうの方が上だろう。

 更に表立って布教しているわけでは無いが闇の神アイバル教団なんて存在もある。

 この教団については俺の現状認識を持ってしても不明点が多い。

 だが存在していることは確かだ。

 一応スティヴァーレ王国では禁止されているけれど。


 どうしようか考える。

 日程そのものはあと3日だ。

 この仕事量なら俺一人でもなんとかなる。

 ならイザベルを先に帰すべきか。

 ただ2回の襲撃ともにイザベルも殺害対象に入っていた。

 別行動したらかえって危険にさらす可能性もある。

 御者はどうしようか。

 その気になれば俺も御者の真似事くらいは出来る。

 施術を使って馬をコントロールするだけだけれども。

 ただ俺が御者をすると休む時間が無くなるんだよな。

 それが原因で負けたら洒落にならない。


 よし、取り敢えず明日は現状維持だ。

 それ以上は出た処勝負になる。

 一応教会の本部にも緊急通信施術で襲撃について報告はしている。

 でも下手に護衛をつけられても邪魔になるだけだ。

 イザベル以上の施術師なんて教団にも数える程度しかいないし。

 このまま予定を強行するしか無いだろう。

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