第102話 今年もやっぱり……
その後1年及び有志の生徒達の絵画展を見る。
「わざわざこれに出してくる上級生はやはり上手いのですよ。でも1年生もやはり最初からセンスがいい生徒はいるものです」
俺は残念ながらこの手のものを楽しむ視力がないので、代わりにイザベルの評価で確認する感じだ。
そろそろ視力や聴力も戻っていいころだとは思うのだけれども。
さて、絵画展を見た後は合唱コンクールまで自由。
「今年は作物研究部には近寄らないようにするのですよ」
確かに。
昨年は酷い目にあったからな。
収穫祭が終了した後まで延々と俺とイザベルは説明要員をやらされたのだ。
皆さん熱心で日が暮れても質問者の列は途切れなかった。
もうあんな事態は勘弁して欲しい。
「ジョルジャもヴィオラも大分自分達だけでわかるようになっているしな。あの2人だけでも大丈夫だろう」
「そうなのです。何とかなると思うのですよ」
単に自分達に振られたくないだけである。
「そう言えば
そう言えばあそこの工場等も色々売店を出しているんだったな。
「行ってみるか」
そんな訳で
こっちもかなり賑わっていた。
「なるほど、工場見学なんて事もしているのですか。確かに面白そうなのです」
製陶工場や鉛筆工場、食品工場で実際に工場内を歩きながら製造過程を見せるなんて企画をやっているようだ。
製品も通常価格より安い即売会なんてやっている。
更にリアーナ辺りの地元商店等も店を出したりしている状況だ。
増設中の社員寮等も見学させてくれるらしい。
「この街もあっという間に最初の募集が埋まったしな。一般の商店もぼちぼち出店してきてくれているし」
「来年にはまた募集をかけるそうなのですよ。どの工場もまだまだ需要に追いついていないらしいのです。特に食品工場は倍々ゲーム方式で作れば作るほど需要が増えているらしいのです」
冷凍食品や即席商品も今ではかなりバリエーション豊富になっている。
俺が考案した即席麺も既に5種類まで味が増えている状態だ。
更に味噌とかドレッシングとかマヨネーズのような調味料部門もある。
ミランにも同規模の工場があるがそれでも追いつかないらしい。
「絶好調すぎて一部の領主から危険視されていたりもするようだけれどな」
「領民に逃げられると直接的な損失なのです。でも小規模農家をやっているよりここで働いた方が収入も増えるし生活環境もいい。そうなると逃げられるのはある意味当然なのですよ。
だいたいどうすればいいのか、ここで見本を隠さずに公開しているのです。だから領内もここを見本に色々改革すればいいのです。それをせずに従来の体制に乗っかったままなんていうのは領主怠慢なだけなのですよ」
まあそうなんだけれどさ。
「スリワラ領なんてこの辺の領地よりも貧しかったのに、それでも改革を怠らなかったのです。他の南部の諸領主も皆さん工夫して最近目に見えて良くなってきているのです。だのに今までの蓄積がある筈の北部の領主共の大半は怠慢なのです。そんな領主と領土は見捨てられて当然なのですよ」
イザベル、厳しい。
でも彼女の言っている事は事実だ。
「まあそのうち嫌でも変わっていくだろう。まだ色々な改革が始まってせいぜい2~3年だし。そのうち今までの蓄積があっても見捨てられる場所なんてのも出てくるだろう。お金なんて結局人が多くて景気のいい方に流れていくからな」
「それはわかるのですが、まだるっこしいのですよ」
まあイザベルの気持ちもわかるけれどな。
でもお祭りにはふさわしくない話題だし、ちょっと話を変えるか。
「ところでそろそろ腹もへってきたし、食品工場のお試し食堂でも行ってみないか。色々な試作料理が食べられるらしいし」
試作だけれど一応有料だ。
まあ宣伝も兼ねているから生徒の模擬店くらいの値段で食べられるけれど。
「確かにお腹がすいたのです。生徒の処は危険すぎて食べられないので、確かにこの辺で食べていくのが無難なのです」
そんな訳で俺達はそこそこ人が並んでいる食堂の列に並ぶ。
「取り敢えず何を食べようか悩むのですよ。がっつり肉も食べたいし、新作の即席麺も気になるのです。即席麺は夜遅い時とか結構重宝するのです。なのでここで味を確認しておくのも悪くないのです」
おいおい。
「食堂まで来て即席麺を食べる事は無いだろう」
「でも食べている人も多いのですよ」
確かに見ると結構いるな。
即席麺は家でやる手抜き料理。
そういうイメージなのは俺だけなのだろうか。
そんな事を考えながら、イザベルとメニュー談義をしつつ列が進むのを待つ。
◇◇◇
結局イザベルの奴、ラーメンばかり2杯も食べやがった。
「鶏もも肉入りもいいのですが、やはり煮豚角切り入りが至高なのですよ」
たかがインスタントラーメンに至高なんて単語使うんじゃない!
その後は合唱の発表と
まあそんなこんなで本日のメニューは全て終了。
「さて、帰るか」
と部屋に戻ろうとした時だった。
現状認識が危険を察知。
「イザベル!」
「わかっているのですよ」
直ちに逃げようとしたが間に合わなかった。
前に立ち塞がる女性の影。
お馴染みジョシュア司祭補だ。
「すみません。今年も説明が間に合わないんです」
やはり問答無用で引っ張られる。
「それにしてもジョシュア、よく私達の居場所がわかったのです」
「施術のトレーニングをした結果、誰が何処にいるか大体わかるようになりました」
おい何だその施術。
訓練するなら自分の仕事である植物関係の施術を強化してくれ!
そう思っても今はもうどうしようもない。
そしてやはり待っているバイヤーの列、列、列……
「使徒様と補佐の方がみえました。今までの説明でわからない事はこの2名が答えます。どうぞ遠慮せずに何でも……」
セルゲイ司祭長、お前今年も俺達を犠牲にするのか!
そう言いたいがそんな余裕も無い。
結局今年も列がなくなるまで、暗くて寒い時間まで俺達は質問に付き合わされるのだった。
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