第101話 今年の挑戦メニュー

 勿論他の生徒も色々作っている。

 食器関連とか小物とかテキスタイル系とか家庭用品関係が中心だ。

 勿論それだけではないけれど。

 今年イザベルが最初に購入したのは『紙・B級品・100枚』だ。

「色々使うのでストックが欲しいのですよ」

 そういえば俺も良くイザベルからメモ紙なんかをがめていたな。


「何ならいつも世話になっているし俺が払おうか」

「ならこっちをお願いするのです」

 同じ紙でも値段が倍する製図用を買わせやがった。

 まあ世話になっているしこれくらいはいいけれど。

 俺自身は『色鉛筆・B級品・各色2本正銅貨1枚100円を大量購入。

 この世界のペンはどうも使いにくいので俺は最近色鉛筆を愛用中。

 マヌエル君や彼の後輩の懐を潤してしまいそうだがまあ仕方ない。


 買った品物が多くなったので一度部屋に置きに帰り、今度は模擬店の方へ。

「今年は食べ物関係は全店舗見るだけにしておくのですよ」

 イザベルには昨年のゲテモノがよほど堪えたらしい。

 ちなみに2年の3~4組がやっているのはパンケーキ店。

 結構美味しそうで甘党の俺にはなかなか引きつけられるのだが前述の理由でパス。「あれ、校長先生達、入っていかないんですか?」

「今年は4店舗あるしさ。全部を食べるわけにはいかないから見るだけで」

 呼び込み役のラウラちゃんにそうことわって次は2年1~2組の方へ。


 あ、これは見覚えある謳い文句だ。

 イザベル、さっとUターン。

「校長先生達どうですか」

「アレは苦手なのですよ」

 イザベルの代わりに俺がちょっと質問してみる。

「何故にこんな食べ物屋をやろうと思ったんだ?」

「昨年好評だったと先輩達や先生方にお聞きしまして。食材も手間はかかるけれど単価は安いですしね。昨年の資料も一通り引き継ぎました」

 2年2組のパトラちゃんがそう教えてくれた。

 店はそう、ゲテモノ屋。

 メニューも昨年とほぼ同じ。

 しかも何故か結構繁盛していやがる。

「世の中には物好きが多いのですよ」

「本当ですね」

 パトラちゃん、当事者のお前が言うな。


 昨年の収穫祭より人出がかなり多い。

 2年目で周知されてきたこともあるし、新しい街の住民がこぞって来ているせいもある。

 更に新しい街の人員募集が近々あるのではないかという求職・転職希望組が視察がてら来ているなんてのもあるらしい。

 おかげで生徒達の模擬店まで結構潤っていたりする訳だ。


「さて、次は3年か」

「取り敢えず問題ない方から見てみるのですよ」

 3~4組から、了解だ。

 こっちの模擬店は予想外なことに高級志向だった。

 飾り付けもかなり凝っているし皿なんかも専用品を使っている位だ。

 勿論お昼だし値段も値段だからコースではなくワンプレートランチとかアンティパストのみという感じ。

 メインは合鴨肉ローストとかステーキランチとか高そうなメニューが多い。

 それでも全体的には精々正銅貨7枚700円程度までに抑えている。

「思い切った作戦に出ているのですよこれは。仕入れも結構かかったのではないかと思うのです」 

「でも勝負は成功したようだな」

 いい感じで客が入っている。


「さて、最後はあそこか」

「アレでは無いとわかっているのですがイヤなオーラが見える気がするのですよ」

 俺もそう思う。

 何か悲鳴とか叫び声も聞こえている気がするし。

 でも校長と副校長という立場上、見に行かない訳にもいかない。

 そして。


『貴方の限界は何倍まで? チャレンジメニュー好評提供中!!』

 こんな垂れ幕が出ている。

 昨年同様攻めた企画を通した模様だ。

 更に俺の現状認識では付近に何か赤い邪悪なもやがかかっているような……

「うわっっ、水、水!!」

「はいサービスのお冷やです。でも牛乳の方が楽になりますよ」

「なら牛乳一杯」

「まいどありがとうございます」

 そんなやりとりも聞こえている状態だ。

 更に、

『20倍制覇者現在5名! 次の挑戦者を待つ!』

なんて描かれていて制覇者らしき名前が記載されている。

 なお何気に2番目にブルーノ先生の名前が入っていたりもする。


「どうですか校長先生と副校長先生、一度限界を試して見ては」

 クロエちゃんに呼び止められた。

「ちょっと遠慮しておくのですよ。ところで今年は何なのですか」

「基本的にはスパゲティ店です。ただちょっとチャレンジメニューがあるだけで」

「これか」

 俺が指したのは『挑戦者募集! 20倍激辛スパゲティ』と書かれた看板だ。


「ええ。2組のエレオノーラちゃんがハーブの育成をやっているんですが、今年からはじめた品種でとにかく辛くて使いにくい丸い唐辛子が出来たそうなんです。農場でも出していいか迷っていると聞いてこれだ! と思いまして」

「結構みんなノリノリで作ったよね」

「そうそう。激辛メニューは海鮮炒めとミートソースどっちにしようか皆で食べ比べて悶絶したり。激辛の後の牛乳って正に救いの水ですよね。いい勉強になりました」

 いやそういう事じゃない!


「でもこれもなかなか好評なんですよ。2人に1人は挑戦メニューを選んでくれます。ただ今のところ完食成功率は30パーセント以下ですけれど」

「食べられなかった分は木箱に入れてお持ち帰りしていただいています。食材を廃棄するのは勿体ないので。なお完食したら木箱の代わりに完食証明書を出します」

「ブルーノ先生には好評だったよね。汗をかくけれど美味しいって」

「それで校長先生達もどうです。チャレンジメニュー、口直し用牛乳と持ち帰り容器がついて正銅貨4枚400円と安いですよ」

 いやいやいやいや。

「今年は食べ物屋が多いから公平を期すためにどこも見て回るだけにしているのです。ですので申し訳無いですが遠慮させていただくのです」

 そう言って2人で逃げてくる。


「あのクラスはやっぱり危険だな」

「まさか来年も伝統として受け継がないですよね」

「虫料理は受け継いでしまったけれどな」

 何であいつらはああいうしょうもない事ばかりやるのだろう。

 これが若さだとは俺は思いたくない。

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