第18章 収穫祭の季節
第99話 また秋を迎える
夏休みが終わって学校が再開された。
日本の学校だったらそろそろ受験とか色々意識しそうな時節だ。
でもこの国は今のところそういった面での過熱は今のところ無い。
わりとのんびりしたものである。
でも今年からは中等学校の試験は大分様相が変わると俺は見ている。
それも俺達のせいで。
今までは大体上位学校に行く生徒の成績とか人数とかは毎年変わらなかった。
だいたいこの学校で何番なら何処の学校という指導が通用した。
でも今年の受験は俺達の学校の生徒のうち8割が国立中等学校を先頭に様々な学校を受験する。
来年からは更に義務教育学校卒業組とか教団のミラン校あたりも加わる。
大激戦になっていく筈だ。
なお入学は試験の成績のみで決まるとあらかじめ案内されている。
さあ、どうなるか。
3年の生徒達はこれからは試験に出そうな問題も授業で極力取り上げ、慣らしていこうと思っているけれど。
もっともそんな感じで受験を見ているのは今のところ先生方だけのようだ。
生徒達はのんびりとしたもの。
秋の収穫祭の出し物について等の話が盛り上がっている状態だ。
ところで学園祭の出し物について事前に確かめておきたい事がある。
「まさかまたゲテモノ食堂をやる訳じゃないよな」
クロエちゃんに聞いてみる。
「私達はやらない予定だよ」
そう聞いて一安心。
何せ昨年のあのメニューは酷かったからな。
イザベルはあの後何度も夢に見たらしいし。
さて、今年も秋はやっぱり忙しい。
ジョルジャ司祭補もヴィオラ司祭補も昨年よりは大分植物の種から色々わかるようになった。
でもまだまだ俺達までの域には達していない。
そんな訳で昨年同様、俺とイザベルの机には芋だの麦だの色々並ぶ。
「学校の職員室として変だよな、これは」
「でも昨年よりはまだましなのですよ」
記入すべきデータシートは昨年は全部空欄だったが、今年はある程度埋めてある。
その分俺達も色々調べたりしないで済むわけだ。
教員も昨年より更に3人増えたしな。
おかげで今年は昨年より少しだけ余裕がある。
あくまで少しだけれども。
さて秋と言えば教団的にはやっぱり収穫祭だ。
今年も大々的に行う方針らしい。
俺が決裁書で見た限り、今年の生徒の出し物は
○ 1年生は合唱と絵画コンクール(昨年と同じ)
○ 2年1組、2年2組 飲食店
○ 2年3組、2年4組 飲食店
○ 2年と3年の5組~6組 合同物品販売店
○ 3年1組、3年2組 飲食店
○ 3年3組、3年4組 飲食店
こんな感じだ。
随分飲食店が多いなと思うが、これはまあ仕方無い面もある。
旧3組相当、つまり5組と6組は就職を見据えて最初から手に職をつけるつもりで作業をやっている。
故に実習している内容も職人系が多い。
でも旧1組や旧2組に相当するクラスは基本的に進学予定。
作業も農業以外は倉庫管理とか事務系統とかが多い。
無論忙しい時期はどこも農業専門になるけれど。
だから旧3組のように制作物で勝負、なんて事はやりにくい。
それでもお金を稼ぎたいとなると食べ物屋になってしまう訳だ。
なお校長先生宛に出された決裁書類には具体的にどんな店になるか。
いわゆる詳細事項についてはほとんど書いていない。
つまりまた危険な店になる可能性は否定出来ないわけだ。
俺としてはクロエちゃんの言葉を信じるしか無い。
信じるしか……
信じていい物かどうか。
さて、話は変わるがラテラノの新しい街は秋になって本格的に動き始めた。
予定より少しだけ多くの居住・就職希望者が来てくれたおかげで工場の方もうまく回り始めているようだ。
その辺は実習に行っている生徒からある程度聞いている。
「何か大人の人も『家は綺麗で便利だし、仕事も勤務時間も無闇に遅くなったりしなくて大分楽だ』って言っていた。街で買うよりも食料が安いし、安い飲食店もあるし生活が楽だってさ」
「ただ皆、施術は使えないんだよな。俺が施術を使って木を加工したら驚いてた」
「でもマヌエルも春までは全然だったじゃない」
「そりゃそうだけどさ、でも今は鉛筆用の木材を施術で切り出す事も出来るぞ」
「そんなのグレタに比べたら全然じゃない。グレタは鉄の塊から施術だけで物を作れるわよ」
「あれと一緒にするんじゃない。グレタは特別だって」
という具合にである。
また最高幹部会議でもソーフィア大司教が報告していた。
「新工場への募集は8月終わりで一度締め切りました。でもまた追加募集が無いか各教会への問い合わせがかなりあるそうです。どうも最近になってあの街の環境や仕事の評判が広がりはじめたようで、予算を前倒しにして街や工場の増設を図ったほうが良いかもしれません」
一方、実業担当のスコラダ大司教は渋い顔だ。
「作業の方はまだ需要に応え切れていない状態だ。だがこれ以上の規模となると近隣の領地から住民が減少する等の影響が出る可能性も高い。出来れば慎重に行いたい」
「その事を見越してここが国王領になるように働きかけたのでは?」
ソーフィア大司教とスコラダ大司教。
最高幹部会議は基本的にこの2人が攻守変えて言い合うのが常。
そして本日はソーフィア大司教が攻勢、スコラダ大司教が守勢の模様。
スコラダ大司教は渋い顔のまま頷く。
「その通りだ。だが各領主には各領主なりの権益がある。あまり波風は立てたくないとの国王庁からのお願いもあった。当面のところあの街は千人規模程度までで留めてほしいと」
「スコラダ大司教にしては弱気な意見ですね」
言外にはもう何度もやらかしたではないか、という意見を含んでいるに違いない。
少なくとも俺達はそう理解する。
だがスコラダ大司教はやはり渋い顔のまま小さく頷く。
「安定と平穏というのもまた正義であるには違いないのだ」
そんなやりとりがあったりもする。
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