第97話 これもやっぱり知識チート
「最後は畜産加工研究所です。今後畜産が広がった際、新たな商品が出来ないか研究をしています。現状ではアレシア顧問と職員5人だけですが、今後畜産物の生産が増えるにつれて増設していく予定です」
さて、ここの体制を一変させたご本尊とご対面だ。
まあ昨年会っているけれど、その時はまさかここまで色々やるとは思わなかったからな。
そんな事を思いながらこれまでと比べると比較的小さな木造の建物へ入る。
おっと。
いきなり最初の部屋でご本尊が何か作業をしていた。
でっかい紙の図面は様式に微妙に見覚えがある。
俺がラテラノで作ったのと全く同じ様式で作ったここの地図だ。
カラバーラ全体ではなく、丘の上の新しい街部分を中心にして描かれている。
熱心に作業しているあまりこちらには全然気づいていない模様。
「顧問、顧問。お客様ですよ」
アンナ嬢がそう呼びかけてやっと気づいたようだ。
「これはこれは失礼致しました。使徒様、イザベル様、お久しぶりです」
「こちらこそお久しぶりです」
「アレシア司教にイザベル様と様付けで呼ばれる筋合いは無いのですよ」
なんてご挨拶の後、早速聞いてみる。
「ところでこれは、ここの地形入りの地図に見えますけれど」
アレシア司教は頷く。
「ええ。スリワラ伯からラテラノの新しい街を見学した時の話をお聞きしましてね。まさかあのような形の新しい街が出来るとは思いもつきませんでした。ですので教団に無理を言ってあの街の資料を送って貰った後、この街も同じような形で住みやすく出来るかどうか考えている処です。一度ある程度出来上がった街ですので新規に作るよりは困難ですが、今ならまだ間に合うのではないかという結論になりました。近々スリワラ伯に説明して実施に向けて動く予定です」
おいおいおいおい。
「ここは畜産加工研究所ではなかったのですか」
イザベルが俺の思った事を代弁してくれた。
「ええ。ですので当然畜産加工での新製品も作っております。そちらについてもこの後ご案内致しましょう。ですがこの街の件についてもできる限り早くとりかかる必要があります。ですのでこうやって計画の原案を作成しているところです」
うーむ。
「前以上に仕事熱心というか知識興味本位というか、らしくなっているのですよ」
「教学部と違ってここは知識を現場で実践出来ますから」
「でもこの作業を畜産加工研究所でする事も無いと思うのですよ」
「顧問事務所にいると来客が多くてね。色々質問だの見学要請だの来て面倒です。なので見学や質問は各部署に投げて私の所には持ってくるなと伝えてあります。それでも事務所にいると時には会わなければならない客もある。だからこうして一番客が来ない場所で仕事をしている訳です。これはこれで合理的な行動なのですよ」
ああ、昨年以上によくわかる。
この人は確かにイザベルの元上司だ。
「それで使徒様、イザベル。早速なのですがこの街もラテラノのあの街と同じ発想で色々改良しようと思っております。それで同様に地図を作り、既存建物や今後の住宅地等を描き、上水路や排水路等も考えてみました。この案について、経験者から見た感想や指摘等あればお聞かせ願いたいと思います。実はその為にいらっしゃるのを心待ちにしていました」
「それなのに来たのに気づかなかったのにですか」
「いや、これを見て貰うとなると細部の詰めとか色々考えてしまいまして」
全然畜産加工研究と関係無いだろ!
そうは思うけれど確かに実施されればここの街は住みやすくなるだろう。
結局俺達2人にアンナ嬢、マウラ司教補を交えた検討会が始まってしまった。
◇◇◇
「やはりこちらにいらっしゃいましたか」
そう言ってやってきたのはカテリナ司祭長だ。
「お帰りにならないので、おそらくここだろうという事で参りました」
えっ、と思って窓の外を見る。
既に太陽は大分低い位置にまで来ていた。
「すまないカテリナ、客人を引き留めてしまって」
「いえ、どうせ長引くでしょうし使徒様達も今夜はここでお泊まり予定です。ですのでどうぞゆっくりご歓談下さい。食事は孤児院の方に用意しておきますので」
うわあ、やらかしてしまった。
そう思ってふと気づく。
「アンナ様は大丈夫ですか。そろそろ帰らないと暗くなると思いますけれども」
「本日はイザベルが来るのでこちらに泊まると家の方には言ってあります。ですのでご心配なく」
うーむ。
ここの治安は大丈夫なのだろうか。
まあ大丈夫だからここにいるのだろうけれど。
「それにしてもこの水車、やはり見事なのですよ。確かに動くのは機構上間違いないのですが、よく出来ているのです」
水車と言っても普通の水車では無く、かなり複雑な装置だ。
この装置が丘の上にあるこの街で水道を使う為の要となっている。
装置としての構造は概ね、
① 丘より水位は低いが流れが速く水量の多い川をせき止める
② せき止めた場所で大型(直径5メートルクラス)の水車を回す
③ この水車を動力として、長さ40メートル位のベルトコンベアに水桶がついたような装置を回す
④ この装置で水を15メートル上の丘へと揚水する
⑤ 揚水した水は配水池に貯め、小石や砂利でろ過した上で水道管へと流す
という形。
複雑すぎてわかりにくいという事で、実際に動く模型が作られている
それが現在イザベルがいじっている模型だ。
「これは東の方から来た文献を私なりに解釈して再設計してみたものです。この模型では木と鉄で作ってありますが、実際は鉄では無く青銅等の重くても水に強い金属を使うつもりです。それなりの強度と耐久性が必要なので」
「これが出来れば毎日井戸で苦労する必要がないのですよ」
確かにこれだとかなり便利になるよな。
日本だと千葉県等に藤原シラベ車式という同型式の水車があった。
あれは明治時代だったっけか、出来たのは。
いずれにせよ揚水水車すら無いこの国ではオーバーテクノロジーな代物だ。
流石イザベルの師匠、転生者じゃなくてもチートだ。
いや待てよ、
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