第17章 最南部の発展状況

第91話 ある領地の発展状況

 夏休みは俺とイザベルにとっては巡行の季節だ。

 今年も国の南部を回って治療したり畑の消毒をしたりする事になる。

 ただ今年の巡行は昨年と大分違った。

「畑が元気なのですよ」

 イザベルの言う通りだ。

 無論病害虫が全くいない訳ではないがかなり少なめだ。

 特にセンチュウ類が激減している。


「耐性品種の効果は予想以上なのです」

「確かにな。これだけ激変するとは思わなかった」

 その分施術院や家畜、その他の重病人等に時間を割けることになる。

 しかし重病人も明らかに減っている。

「施術師の学校が出来てから派遣される施術師の数も増えましたから。その分予防医療や小まめな診断が出来るようになったおかげです」

との事である。


「このまま上手く行けばこの巡行も廃止になるかもな」

「そうしたらのんびりバカンスでもするのです」

 ちょっとバカンスを想像してみる。

 例えば南の海岸でのんびりと、なんて。

 そして感じる。

「イザベルとバカンスという言葉がいまいちあわないな」

「図書館で心行くまで読書しまくるのです」

 なるほど。

「それなら納得だ」

とまあそんな感じだ。

 しかも馬車までほぼ全部新型になって乗り心地がいい。

 そんな訳でまもなく南端の街カラバーラに到着……んん?


「何か街が大きくなっていないか」

 元々明るくていい感じの街だった。

 でも前回と比べてかなり手前から街になっているような気がする。

 しかも新しい建物が多い。

 そういえば馬車も以前と違ってそこそこ走っているな。


「昨年冬から砂糖が大量に出来るようになって、北部からも結構買い付けにきているそうです。あと虫除け香も大量に売れているようですしね。バルトロやニコラ行きの駅馬車も走り始めました」

 御者が説明してくれた。

 なるほど。いい感じに進んでいるようだ。

 確かに虫除け香はこの夏教団本部でも使い始めた。

 あれをつけておくと窓を開けたままでも蚊に刺されないのだ。

 この夏訪れた何処の街でもこの香の匂いがしていたものな。


 教会は以前と変わらず古いが手入れが行き届いている。

 ここまできちんとしていると新しいよりもむしろ風格があっていい感じだ。

「お出でいただきましてありがとうございます」

 キアラ司教補が出迎えてくれた。

 去年よりひとつ階級が上がっている。

「随分街に活気が出てきましたね」

「虫除け香や砂糖の工場、食肉の加工場等色々出来まして。おかげでかなり賑わうようになりました。ただその分色々追いつかないところがまだあります。例えばつい2月前までは交通機関が無くて、駅馬車の代わりに教団の馬車をバルトロまで最大3台走らせていましたから。駅馬車が出来て今はやっと落ち着いたところです」

 なるほど。

 駅馬車が出来る前は教団でその代わりをしていた訳だものな。

 自分で考えた施策なのにその影響を軽く見ていた。

 ちょっと反省する。


「そんな訳で教団も農業や畜産業側は人員的にも色々忙しい状態です。でも教会や施術院は施療師を4人増員していただいたのでかなり余裕が出来ました。ジュリア司祭も上級施術を身につけて戻ってきましたし」

 施術の学校を正式に作った成果がここにも出ているようだ。

 でも待てよ。

「確か教団事務局では増員は2人と聞いたのですけれど」

「領主様が領内の中等学校卒業者のうち希望する者を選抜して、毎年数人ずつアネイアの施術学校へ送って学ばせているんです。そのうち2人を領主様の費用で施術院に派遣していただいています。他に救護院、孤児院にも派遣しています。今後は施術院のない町や村等にも徐々に配置する計画だそうです」

 施術学校を作った影響がこんな処にも出ている模様だ。


 なお施術学校自体は国の運営。

 だが何気に生徒の3割は未だに教団員だったりする。

 ちなみに教師はほぼ全員が教団員。

 実質国の費用で運営する教団の学校状態だ。

 ソーフィア大司教も伸び伸びと施術を教えたり研究をしたりしているらしい。

 あの人は実務をするより施術と関わる方を好むらしいしな。

 色々といい方向に進んでいるのは間違いない。

 無論ここは領主の政策がいいのだろうけれども。


「ただ救護院院長だったアレシア司教が多忙だそうなので少し心配です。あそこも新規に施術師が1人派遣されましたし、隣接の孤児院にマウラ司教補もいるので医療的な問題は無いのですけれど」

 アレシア司教やマウラ司教補は昨年お会いしたな。

 イザベルの師匠と姉弟子格でやっぱり知識の化物だ。


「アレシア司教がどうかなさったのですか」

「領主様の依頼で色々新しい事業に関わっているそうです。詳しい話はあまり聞いていないのですけれど、新しい特産物の布や食肉加工等も指導しているそうです」

 なるほど。

 ヤママユガ関係だけでなく畜産関係まで何か新しい事をやろうとしている訳か。

 何せイザベルの知識を仕込んだ張本人の1人だけに色々引き出しは多いだろう。

 確かに適任だなと納得する。


「それでは施術院の方から見せていただきましょうか」

「ええ、お願い致します」

 巡視兼治療が始まる。

 ただやはりここは治療が行き届いている。

 使徒しか出来ない特殊な再生治療以外はやる事がほとんど無い。

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