第92話 農畜産業の改革
「このまま行くと使徒様や私の仕事も無くなりそうですよ」
「いい傾向じゃないか」
「その通りなのです」
何と今回は到着日の夕方だけで施術院の確認と追加治療が終わってしまった。
それでも時間が余って、質疑応答だとか治療技術の実演指導等をやった位だ。
ここ最南部は僻地呼ばわりされる事もあるけれど、少なくとも現在は医療的にこの国の最先端に近い状態だ。
ただここだけではない。
南部全体が医療や農業等色々と底上げされているのを感じる。
ここカラバーラは特に顕著だけれども。
でももしかしたら北部も同じように色々底上げされているのだろうか。
翌日午前中は腰痛患者等、慢性的で治りにくい患者の治療をして、午後は農場のある丘の上の拠点へ。
昨年と違ってかなり建物が増えていた。
以前は教団関連と元教団関連の施設しかなかった筈だ。
でもどう見ても普通の住宅や商店まで出来ている。
ここだけで小さな街の状態だ。
「随分とここは発展しましたね」
農場をはじめとする実業部門の責任者のカテリナ司祭長とそんな話をする。
「ここに砂糖工場や虫除け香の工場も出来ましたから。畜産施設も増設しました。更に領主様の研究施設も出来ています。教団専従員だけでなく一般の方も大勢働いていますし居住者も増えている状態です」
「一見した限りでは農場も除虫や消毒が行き届いていますね」
「ここは領内のモデル農場として領主様からも予算をいただいております。また農場そのものにも専任の施術師を配置して管理運営中です。本日は他に出向いていて不在ですが、彼が農場や畜産施設の管理を施術的に行っている状態です。初めての試みですのでアレシア司教に色々アドバイスを頂きながらですが」
なるほど。
つまり俺が巡行で各地でやっている事を常時見回りながらやっている訳か。
それなら農畜産物ともに病害に悩まされる事も無くなるだろう。
気候さえ酷くなければ確実な収穫が期待できる。
「随分ここは進んでいますね。他の地区でもここまで施術を利用している場所はほとんど無い状況です」
「色々な改革があったのですよ。元々昨年使徒様がいらっしゃる前から施術学校に領内の学生を公費で進学させたり虫除け香を研究したり等していましたけれどね。使徒様がお帰りになった後、領主様がアレシア司教を助言役に引っ張って、司教のアドバイスのもと更なる改革を推し進めたのです。施術師を農場付にするのもその一環です。将来はここで育成した農場付施術師を領内各所の農畜産業の援助にあてる計画だそうです」
「なかなか大胆で効果的な施策なのですよ。間違いなく効果があると思うのです」
ひょっとしてその辺は昨年俺達が来た事が引き金になっているかもしれない。
そんな事をふと思う。
領主もアレシア司教が有能なことは知っていただろう。
でも治療や回復、宗教学以外にも色々有用な知識を持っている人物だという事は把握していなかった可能性が高い。
それが俺達が訪問した事で領主の娘であるアンナの知るところとなった。
それでスリワラ伯が助言役にアレシア司教を引っ張った。
まあそうであるにしろ無いにしろいい方向に向かっていると思う。
「一応農場も畜産場も見て回りましょうか。この様子ですと私が手出しする必要はほとんどないと思いますけれど」
そんな訳で農場と畜産場を回る。
うん、完璧に近いなこれは。
土壌とかはしっかり殺菌殺虫しているが、あえて大豆やエンドウ等の場所は殺虫はしているが殺菌はほとんどしないで残している。
根粒菌が窒素固定をする、もしくは少なくとも土地に栄養を与える事を知っている施術師の仕事だ。
畜舎も放牧場も充分に広くて管理が行き届いている。
更にここでは研究作業もしているようだ。
牛も豚も5種類くらい品種がいて、交配等も行っている模様。
「これが全国で広まったらもう農畜産業に俺は必要無いな」
「あとは本部農場で品種改良に専念するだけなのですよ」
品種改良とは、すなわち種や芋の選別作業だ。
「頼むからそれは勘弁してくれ。やるならイザベルも巻き込むぞ」
「ジョルジャもヴィオラももう少しで出来るようになると思うのですよ」
教団本部の農業部門でも昨年秋にようやく専任の施術師を2人置いた状態。
それを考えると、むしろここの方が進んでいる。
「それでは明日は孤児院や施療院の方も見てきますか」
「そうですね。アンナ様も是非お会いしたいと言っておりましたし」
それなら産業育成の状況もどこまで進んでいるか聞くことが出来そうだ。
いままでこの領内を見た限りではかなり進んでいそうだけれども。
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