第89話 感謝と感謝とお願いと
水源の貯水池は少し遠いので割愛したが、それ以外は
○ 商店街と貸店舗(住居兼用)見本
○ 排水浄化・貯水池
○ 新設した陶器工場、鉛筆工場、食品工場
○ レクリエーション用広場と公園
等ほとんどの施設を回った。
そして最後はお茶にする。
計画図とはまあ、学校で俺が作った地図にこの街全体の計画を描いたものだ、
この街全体の様子や意図、計画を知るには一番わかりやすい。
菓子類や飲み物はこの図を使って説明している間に、事務の方へ頼んでバザーでささっと購入してきてもらった。
内容はパウンドケーキ、プリン、クッキー、麦芽飲料。
今回の客には少々質素だがそれはまあ勘弁して貰おう。
なお護衛の皆さんやここにはいない御者さん用にクッキーの袋を護衛の1人に持たせている。
「この街は本当に色々驚かされた。今までの街は自然発生的に出来たものや防衛上の構造にあわせたりした物がほとんどだった。でも住民を元に考えるとこのような事が出来る、その答の一つをみせてもらったように感じる。流石
「ただ住民が来てくれるかどうかが不安なのですよ」
「これなら来るだろう。来なければここの領主兼任という事で何か施策をとってもいいが、その必要もあるまい」
「見た限りでもかなりの数の見学者が来ていますからな。募集受付も順調にみえましたぞ」
1階の案内所でこの街への就職受付も行っている。
確かにちらっと見た限りではかなり順調なようだった。
各教会で受付した分も含めれば予定の半分は行っているのではと期待している。
「国王庁も来週にはここに仮出所する予定だな」
「ええ。既に本日下見に来ていると係員から聞いています」
本当は俺とイザベルが案内する予定だったのだ。
でもこんな事態になった為急遽事務の方に代役をお願いした。
まあお願いした相手はイザベル曰く、ソーフィア大司教配下の事務班長でそれなりに出来る人だから心配いらないそうだけれど。
「それにしてもこの教団も変わったな、スコラダよ。お前が入った頃は旧態依然で相当酷かったと聞いているが」
「まあその辺は色々ありまして、結果的にはソーフィアに色々面倒を投げてしまいました」
「ソーフィアは元気にやっとるかね」
「相変わらずです。怒られてばかりですよ」
そういえばこの面子、ソーフィア大司教とも知り合いなんだよなと気づく。
「でも私やソーフィアではここまでは出来なかった。何とか教団を正常化させて貧困民の保護が出来る体制にしましたけれどそこまででしたね」
ちょい待て。
嫌な予感が。
「でも昨年の大改革は見事だったのですよ」
「本当はもっと早くやるべき事だった。私もやるべきだと思っていたのに手をつけていなかった。手をつける前から発生する問題を恐れてそれ以上進めなかった。やってしまえばさほど問題は起きなかったのにだ。あの時のスコラダの勢いが無ければ今も変わらないままだっただろう」
「その辺は色々お恥ずかしい限りです。思い出したくないのでその辺にしていただけると助かります」
「スコラダのやらかしはなまじ理性的かつ論理的でおまけに魅力的だから始末に困る。司法省改革の時のあの演説は実に見事だった」
「もう勘弁して下さい。あれで私は法の真偽員に向いていないと自覚しました」
この辺の関係性、だいたい見えてきた気がするぞ。
「ただ私もスコラダも、私達だけで出来る進歩はおそらくここまでが限度だろう。ここから先は新しい知識と発想がきっと必要だ。例えばこの街のようにな」
あ、まずい。
また俺達の方へと話題が戻って来てしまった。
逃げる訳にもいかないのでそのまま黙って聞いている。
「さて、そろそろ本題といくか。まずは私からだ」
スリワラ伯爵が立ち上がる。
「
私も自らの領地のある南部をより豊かにしようと思ってはいた。開拓も産業育成も何度も試みた。だが上手くいかなかった。やはり何をやっても後発になってしまう南部ではこれ以上の産業育成は無理なのか。そう思っていたくらいだ。
その意識が変わったのは
そして今、新たな産物で更に発展が始まろうとしている。虫避け香は今年、量産体制が整った。既にかなりの引き合いが来ている状態だ。だがあの緑色の布はおそらくそれ以上のものになる。いずれ領地内や南部内だけでなく国を代表する産物のひとつになるだろう。
それをもたらしてくれた2人に対し、領民を代表して心より礼を申し上げる」
おいおいいきなりそう来たか。
どう反応しようかとまどってしまう。
「あの農家援助策は使徒様が思いついて、スコラダ大司教の他教団や産業庁との折衝のおかげで成り立ったのですよ。虫除け香や緑の布地は元々南部に存在していたものを学校の生徒に聞いて使徒様が選んだものなのです」
イザベルめ、俺やスコラダ大司教に投げやがった。
「産業庁や
「あの時の件については私ではありません。筋書きはイザベル殿の描いた通りすすみました故」
その辺まで国王陛下の耳に入っていたのか。
洒落にならないな本当に。
さて、俺の返答の番のようだ。
仕方無い。
「私は
実際俺がやっているのはほとんど案の段階までだ。
それを実現まで持って行っているのはイザベルなり大司教の皆さんなりその他教団の皆さんの力だ。
決して俺個人の力では無い。
「これは国王としてで無く父として言うが、イザベルは確かに優秀だ。だがその分見切りをつけるのも早く飽きっぽい。更に言うとなまじ知識がありすぎる位あるだけに知識に囚われすぎてその枠の外に気づかない。頭の回転が早い故に愚鈍な人間に我慢出来ない。あと自己に利益誘導するようなタイプを極端に嫌う。どうだイザベル抗弁出来るか」
「逃げ場のない追及は相手を追い詰めるだけの悪手なのですよ」
確かに国王の言っている事は事実だなと俺も思う。
でも何故その話をここで持ち出すのだろうか。
「今自認した通り大変厄介かつ剣呑な性格だ。無論それなりに賢いから態度を偽る事も出来るがそれでも長い事は続かない。
そのイザベルが個人の補佐なんて役について、それも2年以上続いているなんて事は私としても驚きだし嬉しくもあったりする。しかもその人物に危害が加えられそうになった際、自分の身を賭してまでも守ろうとしたという。結果的には逆に全ての身体異常を治療された代わりに相手は五感の半分を失い未だ回復していないそうだが」
おい待った。
国王様一体何を言うつもりなんだ。
非常に非常に嫌な予感がする。
逃げられるなら逃げたいところだがそうもいかない。
「あのイザベルがそこまで心酔できる相手は今後他に現れるとはとても思えない。だから他にも国王として色々感謝すべきところは多々あるのだが、使徒でもあるレン殿に最もお願いしたい件は1つだ。
我が子イザベルを今後ともよろしく頼む」
そう来てしまったか!
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