第83話 何故に俺の仕事なの?

 学校だけでも午前午後授業があるので忙しい。

 それなのにもう一つ俺とイザベルに仕事が振ってきた。

『居住地区新設計画』の計画原案を出せとの事だ。

 そういえばそんな事を最高幹部会議でちらりと聞いた気もしたが……


「これってソーフィア大司教かスコラダ大司教の部下の仕事じゃ無いのか?」

 仕事を持ってきたイザベルにその辺を聞いている。

「スコラダ大司教に任せると適当に平らな場所に建物を建ててしまうので駄目なのですよ。既に教団内の動線は滅茶苦茶なのです。ですので今後生命の神セドナ教団と関係無い住民が増える事を見越して街の計画図をたてて、今後はそれによって建築しようとの事なのです」

「だったらソーフィア大司教の方が」

「この忙しい時期に事務と会計以外の仕事は振ってくるなとの事ですよ」


 状況はわかった。

 それで俺に振ってくるというのが悲しいけれど。

 使徒様は便利屋じゃないんだぞ!

 そう言いたいけれど実質便利屋だよな、実際は。

 でもまあ仕方無い。

 都市計画図でも作るとするか。


 まずは正確なこの辺の地図が必要だろう。

 無論そんなもの完備していないので自分で描くしか無い。

 幸いにして使徒の現状認識能力がバリバリに使える。

 転生で何故か上がった描画能力と併せてラテラノの現状を五千分の一縮尺で描く。

 無論普通の紙では大きさが足りないので張り付けて大きな紙をつくりながらだ。

 だいたい机いっぱい位の大きさの紙に何とかラテラノのほとんどが記載出来た。

 どこぞの国土地理院の地図と同様、等高線も川も記してある。

 色鉛筆で作成したので配色も某国国土地理院準拠だ。

 ちなみに等高線は5m間隔。


「なるほど、ラテラノの地図なのですか。確かにこれはわかりやすいのです」

 イザベルは見ただけで等高線の意味まで理解した模様。

「これをあと2枚くらい複写してくれ。色とかは任せる」

「任せてくれなのですよ」

 他の先生達ものぞきにきた。

「これが地図ですか。何か茶色い線がいっぱい引いてありますね」

「これは土地の高さが同じ場所を線で結んだものになります。高さ5メートルごとに1本引いていて、線の幅が短いところは急傾斜、線がほとんど無いところは平らな処という感じで見ます」

「なるほど。この四角いのは建物ですか」

「ええ。上から見た形になっています。」

「あとで複写させていただいていいですか。授業で使ってみたいので」

「どうぞ。学校用に1部複写したものを残しますから」


 そして俺は複写中の地図を見ながら計画を考える。

 新しい街をどう設計しようか。

 既にある教団関係の施設や工場等とうまく調和させなければならない。

 生活用水の為にはある程度綺麗な川から取水する必要もあるだろう。

 幸い外部から従業員を募る工場は教団本部よりやや街寄り、川沿いに近い場所にまとまっている。

 平らな地形で産物等を河川で運びやすいようにという理由だ。

 実際はほとんど馬車で運んでいて、河川は木材の運搬程度にしか使わないけれど。

 住宅街として工場等から近く綺麗な水を得やすく街道にも近い場所。

 更に洪水とか山崩れなどの被害が無さそうな場所は何処になるだろう。


 住宅街には水は上水路と排水路両方整備しよう。

 上水路は土地のやや高い部分を流れるようにして、排水路はその逆で。

 そうだ、どうせなら各家に水道管を引いてやれ。

 この世界では貴族の家とか教会など大きな施設しかそんな事をしていないけれど。

 そうすれば水に困る事も無いし、自由に水が使えるから衛生的にもなる。

 水道管は金属だと価格的に辛いから焼き物だな。

 今では教団の職人も熱の施術を使える者が大多数。

 だから素焼きの管なら接続部分等も工事しやすい。

 素焼きだと少々水が浸みるのでメインの管部分は釉薬をかけた方がいいけれど。


 街並みも火災等防止のためにある程度余裕を持った作りにしたい。

 道は広めにして街路樹なんてのも植えて。

 あと住宅街はある程度の調和をもったまま拡張出来るように。

 最初は勤務員200名、家族を含めて200世帯500人程度の街だったとしてもだ。

 人口がこの2倍、3倍になった時も街全体がおかしくならないようにしないとな。

 商店街予定地も後々の事を考えると必要だ。

 他には公共施設とか国王庁の施設予定地とか。


 よし、大分アイディアが煮詰まってきたぞ。

 そう思ったところでイザベルが俺にでかい紙を渡してくる。

「取り敢えず複写2枚終わったのです」

 俺は1枚をブルーノ司祭補に渡す。

「これが学校用です」

「ありがとうございます。早速複写して授業に使います」


 さて、ここからが俺やイザベルの仕事だ。

 まず上水道と排水路の配置を考える。

 これらを各家まで流すとなるとポンプ等を使えない今の時代では自ずと住宅地の位置が決まってくる。

 でも渇水でもある程度の水量を確保するためには谷のやや上流部分をせき止めたほうがいいかな。

 どっちにしろ水源位置から住宅地を開発すべき場所はほぼ決まる。

 幸い工場等にも近いし街道にも出やすい場所だ。


「ところでこの地図は何に使われるんですか」

 周回遅れの質問が来た。

「今度新しい工場を建てるのをきっかけに、ラテラノに生命の神セドナ教団以外の一般人も住む街を造成する予定です。どうせなら今までの街に無い便利な街を作ろうと思いましてね」


「もう何か案が出来たという顔なのです」

 イザベル俺の表情を読むんじゃない。

 まあ今更だけれども。

「ああ。どうせなら生命の神セドナ教団の本拠地にふさわしい街にしようと思ってさ。衛生的で生活しやすい街に」

「それって具体的にはどんな感じなのですか」

「各家庭、各家の中で自由に水を使えるし流すことも出来る。そんな感じだ」

 俺は水源の位置、上流の堰、水道管、排水路等について説明する。

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