第79話 これが青色の原料です

 当日。

 学校玄関前には20人程の生徒が待っていた。

 1年生2年生併せて16人は製陶関連と鍛冶場関係の皆さんだ。

 基本的には2年生は3組、1年生は5組6組中心。


 なお今の1年生は以前は1組、2組、3組それぞれ午前組、午後組と分けていた。

 でも3学期からは元1組午後の組が2組、元2組の午前が3組、午後が4組、元3組の午前が5組、午後が6組とクラス名を変更している。

 この方がわかりやすいという意見があったからだ。


 つまり今回のほとんどの面子は旧3組が中心。

 この中で旧3組以外は製陶担当で2人だけ。

 2年2組が1人、1年3組が1人。

 元々製陶とか鍛冶場のような職人系は2年なら3組、1年なら5~6組がほとんどだから仕方無い。


 でも何故か製陶とも鍛冶場とも全く関係無い2年1組の奴が4人いやがる。

 クロエちゃん、エレナちゃん、キアラちゃん、アウロラちゃん。

 つまり毎度お馴染みの4人だ。

「今日のお出かけは疲れそうだから代わりにメモを取っておいてくれ、そう副校長に頼まれました」

 おいおいイザベルの差し金かよ。

 まあいいけれど。


 行く先は教団本部から山側、サッソー山へ向かう方向だ。

 まず15分位歩いてそこそこの大きさの沢へ。

「ここから川沿いを上るから。足元に気を付けてな」

 こけて水の中でも落ちたら寒くてやってられない。

 まあ俺はこれでも生命の神セドナの使徒。

 だから何があろうとも生徒に風邪をひかせる事は無いけれど。


「暖かくてちょうどいい天気だな、風も無いし」

「少しずつ木々の芽が出始めましたね」

 ちょっとしたハイキング気分だ。

 しばらく沢沿いに上流方向へと歩くと、川が急カーブして河原がちょっと広くなったところに出る。


「さて、ここが今日の目的地だ」

「ここに色になる材料があるんですか?」

 ダリアちゃん、疑問符がついたような顔をしている。

 まあそうだよな。

 ここは単なる広めの河原で周りは石ばかり。

 でもこの石が重要なのだ。


「これから先生が集める石をよく見てみてくれよ」

 この川の上流には金属鉱脈があるらしく、色々な鉱石が流れてきている。

 金属精錬をするほどの量は無い。

 でもいつか鉄や銅以外の金属が必要な時に見本になるな。

 そう思っていくつかの鉱石を確認していたのだ。

 その中で本日使う予定なのはこれ。

 俺は握りこぶしの半分位の大きさの石を拾い上げる。

 うん、間違いなくこれだ。


「今日探すのはこの石だ。紫がかった灰色がポイントだな。この石は粉にして焼くと青色になる」

 更に同じ種類をいくつか現状認識で集める。

 人数分集まったところで見本に1個ずつ生徒に渡す。

「今渡したのが見本だ。次はこの石を自分で探してみてくれ。わかれば結構見つかる筈だぞ。とりあえず各自10個ずつ探してみよう」

 俺は現状認識を使って探したけれど、まだ目も見えていないし勘弁してくれ。

 能力を使わなくとも石の特徴だけである程度探すことは可能な筈だ。


 生徒達は河原のあちこちに散らばりつつ下を見て石を探している。

 宝探しみたいで面白いよな、これは。

 それに今日これだけの人数で集めたら当分の間、この石には困らない筈だ。

 何せ実際に使うのは粉にしてほんの少し色の材料として使うだけ。

 これを粉にしてやると微量のコバルトが青色を発する筈だ。

 やっぱり高い磁器と言えば白地に青色系の絵だよな。

 他に鉄とか銅とかの粉末を使えば赤とか緑とかも出せる。

 この辺は鍛冶場に材料があるので採取の必要は無いけれど。

 そんな事を思いつつ、生徒の動きを見ている。


 おっと今回はあまり関係無い筈のクロエちゃん早い!

 もう鉱石を10個探してきやがった。

「これでいい?」

 見てみるとおお、全部しっかり輝コバルト鉱だ。

「よくこんなに早く見つけられたな」

「実は副校長先生に『周りの必要な情報を知る』施術を教えて貰ったんだよ。難しいからまだ少ししか使えないけれどね」


 イザベルめ、現状認識施術なんて教えこんだのか。

 でもそんな難しいのよくクロエちゃん身につけたよな。

 本来は使徒とか貴族の遺伝とかでしか身につかない筈の術なのに。

 そう思った処で残りのイザベルの弟子組も戻ってくる。

 こいつらもかよ!

 確認した結果、4人とも見分けて持ってくることが出来た模様。


「その施術は万能だけれどあまり頼りすぎるなよ」

 ほぼ頼っている俺が言う台詞じゃ無いけれどな。

「まだ身の回り3歩分位しか把握できないです。でも訓練すれば副校長先生みたいに見える範囲大体必要な情報がわかるようになるでしょうか」

 いや奴はあれでも王族の血筋だし天才だしな。

 でもきっとこいつらも充分天才に近い素質はあるんだろう。

「わかったわかった。じゃあ後は他の連中を手伝ってやってくれ」

「はいはい」

 4人は散っていく。


 何やかんやで1時間後には全員10個以上のこの石が集まった。

「それにしてもこの石でどんな感じになるんだろう」

「それは実際に試さないとわからないんだ。似たような成分でも微妙な差で色が変わったりするからさ。

 この石を粉にしたものは青い色になる予定だ。でも若干黒ずんだり逆に色が淡かったり、その辺はこの成分の他に焼き方でも変わってきたりするんだ」

 帰りは下り方向という事もあってあっという間。

 教団施設に入った所で俺は学校側に行かず、裏側の傾斜地の方へ向かう。

「あれ、何処へ行くの?」

「実際にどんな感じになるか色つけを体験してみた方がいいだろう。クラリッサ司祭補に話を通してある。実際に絵付けをやってみるぞ」


「えっ、私製陶ははじめて」

「私もです」

 1組の4人がちょっと不安げだ。

 逆に自信たっぷり気味なのが製陶作業組の皆さん。

「もう試せるんだ。楽しみだなあ」

「どんな絵を描こうかな」

「絵はあまり得意じゃ無いんだよな」

 そんな話をしながら製陶工房へ。


「使徒様、いえ今日は校長先生ですか。ようこそいらっしゃいました」

 クラリッサ司祭補が迎えてくれた。

「すみません。大勢でお邪魔して」

「いえいえ。これでまた新しい手法が出来ると思えば楽しみです」

 そんな事を話ながら全員工房の中へ。

 ここは教団の製陶関係をほぼ全分野扱っている工房だ。

 ジューススタンドの素焼きの陶器をお願いしているのもここ。

 そして本日はすぐに絵付けができるよう、素焼きの皿も用意して貰っている。

 デザインはともかく一応磁器……えっ!


「このお皿、新しいデザインのタイプですね」

 クラリッサ司祭補は頷く。

「ええ。ダリアがお聞きしたデザインと方法で作った試作品です」

 ダリアちゃんに俺が教えたタイプの皿だ。

 全体が薄くて皿の外側が波打っている感じになっている。

 手びねりで作れる厚さではない。

 しかも大きさと形が均一だ。

「もう型を作られたんですか」

「ふふふ、実はこの型は私が作ったの。勿論工房長に少し直して貰ったけれど」

「デザインは私です」

 ダリアちゃんデザインでグレタちゃんが型を製作した訳か。

 皿の方の出来はかなりいい感じ。

 よく出来すぎていて前世でも見た事があるような形だ。


「さて、他にも使徒様に伺った材料は用意してあります。鉄と石を混ぜた粉、銅と石を混ぜた粉。どっちも粉を吸い込まないよう水で溶いて少しだけ粘土を加えてありますわ。思ったよりいらっしゃったから筆や皿も人数分用意しましょうね」

「助かります。それではこっちの材料も作ります」

「それではこのバケツを使って下さいな」

「ありがとうございます。それでは全員、取ってきた石を5個ずつ入れてくれ」

 本日取ってきた酸化コバルトを含む鉱石を入れる。

 なお5個ずつとっておいたのはこの次石集めをするときの見本用と、この後行う別の実習用だ。


「それじゃクロエ、これから配合を言うからメモしてくれ」

「わかりました」

 今日のマニュアル原本作成はイザベルがいないのでクロエちゃんにやって貰おう。

 さて、俺は今日採ってきた石を使った色つけ用の材料の制作に入る。

 水を加えて石を施術で粉々にして、粘土を加えて……

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