第78話 背後に誰かいそうな質問

 最高幹部3人会議で新しい製陶工場の建設が決まる2か月前。

 まだ冬だが暖冬気味で日差しはやや暖かいある日の午後、放課後時間帯。

 2年3組のダリアちゃんが職員室の俺の処に質問に来た。

「すみません。新しい白い陶器の事なんですけれどいいでしょうか」

 校長先生と副校長先生は新年も変わらず質問を常時受け付けている。

 最近は生徒以外の質問も多いが基本はあくまで生徒だ。

 そしてダリアちゃんが質問に来るのは確かはじめてだ。


「わかる事なら何でも答えるよ。何かな」

「最近陶器工房で作るようになったあの白い陶器の事です。今のところ昔のデザインを薄くした感じに作っているんですけれど、実はもっとあの陶器にあったデザインがあると思うんです。あと色も今は白だけですけれど、もっと他にも出来るように感じます。

 何かヒントになるようなものはないでしょうか」

 

 うーん。

 この質問、背後に誰かの意図を感じるような気がする。

 でもこの子の初めての質問だし今後役に立つかもしれないから答えてあげよう。

 勿論俺のオリジナルな知識では無いけれど。


「じゃあまず形だな。例えば今の皿はこんな感じだよね」

 ささっと色鉛筆の黒で皿の絵を描く。

 使徒様になってからは色々器用になったので絵もある程度は描けるのだ。

 描いたのは丸形で縁までやや太めのよくある陶器の皿。

「これが今作っている皿の基本形だよね、だいたい」

「はい」


「そして今あの白いので作っているのはここが薄くなっている感じだ」

 皿の外側部分を少し薄めにした絵を描く。

「そうですね」

「今作っているのはこんな感じで元々の陶器の外側だけを薄くしてみたものだ。でもこの白い陶器はいままでのものよりかなり薄くてもそれなりに固くて大丈夫。だから実際はこんな形にしてもいい」

 今度は底の部分を薄くして少し立て、薄いまま外側へ伸びる感じで描く。

 ジノリなんかにあるような感じでだ。

「こうすると大分変わるだろ。無論全部薄いから整形は難しくなるだろうけれどさ」

 更に追加で今度は皿の丸みが内側向きでは無くやや外側向きになったものを描く。

「こんなデザインにしてみてもいい。縁もこんな感じで単なる綺麗な丸では無くて少しギザギザにするというか波をうたせてみてもいいかな」


「なるほど。でも手で整形するのは難しそうです」

「何も全部手で整形する必要は無いさ。どうせ大量生産するんだから型を作ってその中で伸ばしてやればいいんだ。その方が同じ形のものを同じように作れるから量産するときも楽だろう。何なら金型のように内側用と外側用の枠を作って水で溶いた石の粉と粘土を流し込んでやってもいい。施術である程度乾かしてやれば少し縮んで型から外せる」


「なるほど、最初に木で型を作るんですね」

「その辺は木でもいいし量産するつもりなら金属でもいい。ある程度自分の中で形のイメージが出来たら型作りは鍛冶場で実習中のグレタに手伝って貰ってもいいかな。あいつは熱の施術を使って思い通りに鉄の塊を彫刻出来るらしいから」

 グレタちゃんは元々表面の模様付けとかに熱の施術を使っていた。

 でもそれが長じて今では裏面とか球の内部なんて場所まで外側から加工出来る。

 鍛冶場の親分も危機感を持って当然だろう。

 話を聞いたときは何だそのチートはと俺も思ったくらいだ。

 勿論そんな施術の使い方をする奴は今までいなかったらしい。

 俺の現状認識でもそんな前例は無いと出たし。


「形についてはわかりました。では色を出したりするのはどうすればいいでしょうか。焼いた後も残るような色を出す方法がわからないんです」

「それは確かにちょっと難しいけれどな。でも出来ない訳じゃ無い」

 実はこれも心当たりがある。

 ここラテラノの教団本部周辺については動植物や地質等は基本的に把握済み。

 そしてその中にそこそこ使えそうなものがあるのだ。

 金属として使うには少なすぎるが釉薬として使うなら大丈夫な程度に。

 ただちょっと歩くしいろいろ手間もかかる。

 それに入手の方法も教えなければならない。


「色の材料についてはちょっと時間と手間がかかるから次の安息日でいいかな。あと同じように製陶をやっていて興味がある生徒も誘って一緒に来ればいい。何なら鍛冶場のグレタあたりも呼んでさ」

 そう言った後、ふとある事を思いつく。

「いや、訂正しよう。鍛冶場での実習に後々訳に立つことも一緒にやる。だから鍛冶場で実習中の連中も他に用件が無くて興味がありそうなら一緒に連れてきてくれ。

 今度の安息日の朝、朝食を食べた後に学校の玄関で集合だ。ただし雨の日だと大変だから翌週へ変更。服装はある程度山道でも歩ける格好で。いいかな」

「わかりました」

 ダリアちゃんは頷いて俺の席を離れる。


 さて。

 俺はダリアちゃんが職員室を去った後立ち上がる。

 予めちょいと根回しをしておこう。

 根回し先は鍛冶場と製陶工場だ。

 製陶関係はクラリッサ司祭補に頼めばいいんだよな。

 前にこの磁器の事について教えたので顔は知っている。

 ちょっと時間がかかることなのでこれからすぐお願いしに行こう。

 製陶工房にとっても悪い話ではない筈だから多分お願いを聞いてくれるだろう。

 もう1箇所、鍛冶場の親分の熊はもう俺の顔なじみと言ってもいい。

 新型馬車の後も施術を教えたり質問に色々答えたりしたからな。

 だから俺が直接行って話を通せば多分問題無い筈だ。


 そんなこんなで3日後、安息日の朝を迎える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る