第15章 目指せオシャレ系キッチン用品

第77話 ある教団最高幹部達の実情

 最近は教団事業部製造の小物も色々凝ってきた。

 ドリンクスタンド用の素焼きのカップにワンポイントで色がついたり。

 素朴な陶器だけでなく乳白色の磁器まで出来てきたり。

 鍋とかもちょっとお洒落な形になったし色も入った。

 木製の食器やカトラリーすら薄くて小洒落たデザインになったりしている。

 その辺は製造元である教団事業部各位の努力と俺の努力のおかげだ。


 施術訓練を合同でやるようになってから妙な質問をしてくる奴が増えてきた。

「この木の素材をもっと薄くしてかつ強度が充分な形にしたい」

とか

「この辺だけ部分的に高熱処理をしたいのだけれど普通にやるとヒビが入ったり割れたりしてしまうのです。どうすればいいでしょうか」

なんて質問をしてくるのだ。

 質問するのは生徒だったり生徒以外だったりする。

 でも俺は校長先生であると同時に使徒様でもある。

 質問には誠実に答えざるを得ない。


「この木は圧縮させた後に乾燥させれば薄くて強度も出る。圧縮させるのは施術でやるしかないがイメージはそのままだ。圧縮させると木の樹脂が表面に出てくるからそれを全体に薄く均一に伸ばした後、乾燥させる。乾燥作業も施術になるが熱の施術の応用でそれほど難しい施術は必要無いはずだ」

「水分の膨張が原因だ。まずは徹底的に全体を乾燥させる。これは施術でやった方がいい。ただ熱の施術でやると熱ムラが出るから水を出す別の施術でやる。この中に入っている小さな水分子を想像するんだ……」

 そんな感じで真面目に答える。


 中には施術と全然関係無い質問もある。

「この土とこの土ではどっちがいい陶器を作れるでしょうか」

「この2つの土だと似たようなものかな。こっちの土の方がやや強度が高いものを作る事が出来る。でももしもっと薄くて強度が高いものを作るなら石の粉を混ぜてやるんだ。この辺でもよくある、そう、この石に似たものを施術で粉々にして粘土に混ぜてやるんだ。配合とかはとりあえず粘土と石の粉半分ずつから試してみるといい」

「わかりました。早速やってみます」

 こんな感じだ。

 結果が色々な生活用品の改善。

 でも残念ながらそれだけではすまなかった。


「最近、教団で作った生活用具を売ってくれという話が増えてきました。勿論その事自体は喜ぶべき話です。でも教団で必要な量を圧迫するくらい注文が増えてきています。なにかあったのでしょうか」

 3月終わりの最高幹部会議席上。

 俺はソーフィア大司教にそんな質問をされた。

 ちなみに同席しているスコラダ大司教の目が微妙に泳いでいる。

 最近この辺の読みにくい方々の表情も大分わかるようになってきた。

 つまりスコラダ大司教のところには既に報告が行っているらしい。

 ソーフィア大司教もその辺を察した上で質問している模様。


「その辺は教団実業部門の創意工夫の賜物だと思います」

 俺はしれっと質問をスコラダ大司教の方へと投げる。

 これはお前が答えろよと押しつけた訳だ。

「確かに最近、創意工夫により色々な物が作られるようになりました。今までよりも薄くて固い食器類、色つきで食卓でも見栄えがする鍋、薄くて軽くて使いやすい木製食器類の数々等です。

 学校側の好意により現在、午前と午後2回の施術訓練に実業部門員も多数参加しています。更に学校との交流により色々新しい知識や方法論も生まれている状況です」

 スコラダ大司教に俺のせいだと言い返された。


「例えばこの今までにない白くて薄いカップ、これはどのような施術で作られたのでしょうか」

 施術しか興味のないオルレナ大司教が空気を読まない質問をした。

 俺とスコラダ大司教の間で目線と表情による会話がなされる。

 これはお前の部門だろうとか、俺じゃわからんお前が説明しろとか。

 仕方無い。

「この陶器は材料を少し変えたと聞いております。施術で材料になる石を細かく砕いて粘土と混ぜ、今までより高温で焼くとこのようになるそうです」

 勿論その辺の基本は俺が教えたのだがそれは言わない。

 

 まあ最高幹部会議はその程度で終わった。

 でも当然ながら話はそれで済まない。

 ソーフィア大司教に引っ張られる形で俺とスコラダ大司教、それにソーフィア大司教による三者会談が開始されてしまう。

「まあ使徒様が背後にいるのはわかっているのですけれどね。スコラダが色々問題行動を起こしているのも知っています。例えば王室用にあの白くて薄い食器セットを作って贈ったのはスコラダですよね」

 スコラダ大司教、そんな事までやっていたのか。


「いや国王アンベールから新しい様式の特産物が欲しいと頼まれてしまってな。それも食品ではなく何か作る物がいいと言っていたのだ。そこで各工房担当に使徒様に相談してみろと言ってみて出来たのがあれという訳で……」

 確かに磁器の作り方を教えたのは俺だ。

 でもその辺の背景、俺は全然知らなかったぞ!


「でも何故その辺がバレたんだ」

「私の方に国王アンベールから話が来たからに決まっているじゃないですか。何とかして量産してこの国の名産品にしてくれと。大体なにかある際に後始末を頼まれるのは私なのですよ」

 お二方とも国王を名前呼び捨てで呼ばないでくれ。

 何だかなという気分になる。


「国王陛下のご意向を無視するわけにも行きません。ですので来年度の補正予算を早くも使わせていただきます。具体的には新しい製陶工場を作ります。色鉛筆工場と一緒に建設することにして、勤務員はとりあえず今の製陶担当から半分を引き抜いて新しい工場に配置するつもりです。それだけでは足りないので来年度の2年生も農業部門から配置換え希望をとって、更に教団以外からも勤務員を募集することにします。他にミランの製陶部からも技術習得のため5人ほどの短期異動を要請します。次回の最高幹部会議ではこの旨を発表する予定です。これでいいですね」

「それだけ取られると現在の製陶担当がかなり厳しいのだが」

「自業自得です。その辺の埋め合わせは他部門と学校生徒から何とかして下さい、よろしいですね、使徒様も」

「はい……」

 何せ元々が俺とスコラダ大司教の仕業だけに異議申し立てもやりにくい。


 それでもスコラダ大司教、ちょっとだけ異議申立てをする。

「民間の工場にこの技術を教えて普及を図る事は出来ないだろうか」

「途中で施術が必要な工程を一般の工場が出来る訳ないでしょう!」

 あっさり切られた。

 往々にして教団の重要方針はこうして立案されたりもする。

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