第74話 代償の経過
北部は街が多い。
今回の巡行は事前に調査して行く必要性が高い場所をピックアップしている。
一休み出来る場所なんてほとんど無い。
ただミランの支部では上級施術をいくつか手に入れたグロリアが手伝ってくれたし街の方もアベラルド司教捕が頑張っていたりで比較的楽が出来た。
稟議書を書き上げた後、もう一度支部の方へと5キロほど歩く。
そして支部の学校でグロリアとロレッタに今回の稟議書の内容を話す。
「こんな感じだ。だからその辺を考慮に入れて生徒を指導してくれ」
「なるほど、アベラルド司教補は流石ですね。私のような貴族出身ではわからない実情を良く知っているようです」
「あの人は苦労人ですからね」
なんて話をした直後のことだ。
「そう言えば使徒様、左手は治られたのでしょうか。今自然に動かして身体を支えていましたけれど」
ロレッタにそんな事を言われる。
えっ。
無意識だったから気づかなかった。
確認の為に意識的に左腕、そして左手を動かす。
動く。
自由に動かせる。
「本当なのです。元通り動くのです!」
俺よりイザベルの方が驚いてもいるし喜んでもいる。
「他はどうなのですか」
一通り確認してみる。
「視覚と聴覚、嗅覚はまだのようだ」
「でもこれで時間が経てば戻ると確認出来たのですよ」
確かにそうだな。
「ひとつずつ治るとしてもあと4年ですね。実際はもっと早いと思います」
「学校の最初の卒業生が出る頃には元に戻っているのではないでしょうか」
「実際この状態でもあまり困る事は無いけれどな」
「いずれにせよめでたいのですよ」
「後でアベラルド司教補にも報告しておきましょう。あの事件の事をずっと気にされていましたから」
「事件の際、アベラルド司教補が『施術による治癒は無理』と報告したから余計に本部では深刻さを理解したようですわ。あの方はオルレナ大司教並みの施術能力を持っていると有名な方ですから」
あの時はアベラルド司教補を前に中級施術が使える人がいないか尋ねたんだよな。
実際に治療施術を使ったのを見て凄腕だと気づいたのだけれども。
その辺は正直なところ少し恥ずかしい。
でもまあ仕方無い。
冷静に行動していたつもりだったが結構俺自身異常事態だったのだ。
俺自身の状態と言うよりイザベルの事が心配で。
本人にはそんな事は言えないけれど。
あとは別れて以来の色々な雑談等をして、また歩いて教会に戻って一泊。
翌朝早朝に馬車に揺られボノニアへ。
◇◇◇
その後は順調に農場に施術院にとこき使われる。
ウェネティで新年を迎え、ボノニア経由でフロラントに行き、そしてやっとラテラノの本部へ。
学校開始3日前の夕方に本部到着だ。
翌朝早速学校の方へ顔を出す。
「毎年すまないな。教材の方はどうだ」
「ご心配なく」
ノーラ司祭によってどっさり書類が入った決済箱が机にのせられる。
「3年になると受験対策や実習特化等色々な事が考えられます。ですからその分多めに考えてあります」
「ありがとう。あと再来年度に進学する生徒の援助策を稟議書にして決裁に出した。内容はこんな感じだ」
稟議書を施術で複写したものを出す。
「存じております。明日の臨時最高幹部会議で大司教方からお聞きになると思いますが既に学校の方にも根回しがありました。また来年度からの3年生の進路別クラス編成に併せて教員の増員の内諾も来ております」
相変わらず俺のいない間にも色々話は進んでいるようだ。
まあ俺やイザベルは階級上校長や副校長をやっているだけで、実際の実務とかはノーラ司祭中心に動いているからな。
その辺は俺自身もあまり心配していないし、ほぼ任せていたりもする。
学校で決裁だの教材やカリキュラムの手直しだのやって夕刻に自分の部屋へ。
「お帰りなさい、校長先生」
俺より先に部屋にいた生徒達に迎えられてしまった。
クロエちゃん達いつもの面子の中でも特にお馴染みの生徒10人ほどだ。
「校長先生の左手が動くようになったと聞いてお祝いに色々作ってみました」
「今日の校長先生達の夕食はキャンセルしてありますのでどうぞ皆で」
テーブルの上に料理だのケーキだのが並んでいる。
更にいつのまにかイザベルまでよび出されて部屋に来ている状態だ。
「情報が早いな。俺の左手が治っているなんていつ聞いたんだ?」
「昨日夕食の時、馬車を運転していたルカ司祭補に聞きました」
「それにしてもなかなか凄い料理なのですよ」
「図書館の料理の本を参考に色々作ってみました」
改革後の教団や学校の食事はこの世界でも悪い方ではない。
でもここに並んでいるのは豪華というかなんというか……
フライドバリケンやらハンバーグやらからチーズケーキまで並んでいる。
前世の視点から見ても充分立派なパーティ料理だ。
「ありがとうな。こんなに色々用意して祝ってくれて」
「でも校長先生の左手治癒祝いだっていったら、皆材料なんかを景気よくくれたりおまけまで貰ったりという感じだったですよ」
「校長先生、教団の皆さんに好かれていますよね、絶対」
実際非常に嬉しい。
自分の事で何か祝って貰えたのって、前世から数えて何年ぶりだろうか。
使徒になって色々改革をやって、そして学校を作ってよかったとしみじみ思う。
「それじゃ校長先生の分を取り分けますね」
ケーキの俺の取り分を見てイザベルが一言。
「何気に校長先生の分、人数割りより多い気がするのです」
「今日は校長先生のお祝いだから」
「確かに、なら仕方無いのです」
イザベル、生徒以下になっているんじゃない。
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