第75話 施術訓練も始まった
3学期は短い分少し慌ただしい。
まだ3年生はいないから卒業に向けての行事等は無い。
でも2年生の進路希望調査とか各学年のテストとかそれなりにやる事はある訳だ。
平行して来年度の生徒受け入れ準備とか教材開発なんてものもある。
南部の方の産業振興策、特にヤママユガの生糸と布作りが気になったりもする。
もうすこししたら孵化の時期だけれど無事育てられるかとか、
教団側では中等学生の施療院手伝い制度とか対象学校がある教会の寮整備。
更に対象学校がある孤児院の制度変更の準備等も進んでいる。
在校生との施術訓練も始まった。
午前中が授業の生徒は1時間目の授業前、午後が授業の生徒は昼食後から授業までの間に訓練が入る。
余分な日課が増えて生徒には不評だろうと思ったがそうでもないらしい。
「まだ治療や回復は無理だけれど、熱の施術はもう使えるんだよ。こんな感じでお椀なんかも熱を与えて軽く焦げさせてから樹脂を塗ると木目がいっそう引き締まった感じに出て面白い仕上げになるの。木工所長のイルダ司祭にもほめられちゃった」
これは3組、実習というか勤務場所が木工所のジーナちゃんの言である。
「更にもう少し熱の施術が上手になれば鉄に細かい文様を施したりするのも簡単になりますね。楽しみです」
これは同じく3組で鉄工所勤務のグレタちゃん。
最終的な習得目標は初級の治療、回復施術。
でもまずは施術の訓練のために簡単な熱や水関係の施術から訓練をはじめる。
この辺が出来るようになっていくのが自分でもわかって面白いらしい。
無論3組に限らず2組や1組も同様だ。
「この熱の施術をむらなく出来れば昔ロレッタ先生が作っていたようなケーキが作れるんですね」
「ロレッタ先生の腕はまあ特別だからさ。施術が同じように使えても同じ出来の料理が作れるとは思わないな」
「でも校長先生がよく作るプリンくらいは作れるんじゃない」
「目標はあくまで治療施術と回復施術だからな」
「わかってますって。それで熱の施術は小さいものがぶつかりまくっているイメージでいいんだよね」
「そうそう。ものを形造っている小さい小さい基本の粒々が上下左右にある隣の粒々にぶつかりまくっているイメージだ」
「おう、火を着けようとした木がぶっ飛んだ!」
「それは同じ方向にぶつけまくるイメージになったからだ。位置を変えないであっちこっちにぶつかる感じでやってくれ」
そんな感じで今は一番簡単な熱の施術。
燃えやすい藁束からはじめて木の棒をやり、鉄の棒が赤熱して曲がるところまで出来たら熱の初級施術クリアだ。
なお熱の施術にも人によって色々な発動の仕方がある。
「私は火の神が手を伸ばして熱の熱い力を注いでいるイメージで覚えたのですよ」
例えばこれはイザベル流。
他にも聞いた結果、先生方では神様を介在させる発動方法が一番多い模様だ。
次は自分に内在するエネルギーを送り出して対象物で変化させる方法。
生徒達にはどんな方法でやってもいいと教えている。
新たに造った施術の教本にも色々なやり方を例として書いておいた。
勿論ぶつかりまくるというのは俺の場合の方法だ。
ちなみにそんな方法で熱の施術を使うのは学校内では俺しかいなかった。
ただこのぶつからせたり止めたりして熱を調整する方法は何故か生徒には人気がある。
しかも何故かこの方法が一番発動させやすいらしい。
だから生徒が覚えた熱の施術発動方法はこの『ぶつかる派』が一番多い状況だ。
「校長先生の考え方は独自すぎてよくわからないのです。でも確かにそうイメージすると熱が簡単に出るのですよ」
とはイザベルの評価である。
ある程度施術を自由にコントロール出来るようになったら今度は座学だ。
初級といえど治療や回復の施術にはそれなりの知識が必要。
でも今の調子をみていると座学まで行くにはもう少しかかるかなと思う。
それでも夏までには初級の治療と回復は皆さん覚えられるだろう。
今のところ生徒によって差はあるものの概ね順調だ。
順調すぎて思ってもみなかった事も起こっている。
「こうやって色々な考え方を認めつつ発動させるなんて方法ははじめて見ました。しかもかなり早く熱の施術を身につけたようです。こちらの施術学校でも参考にさせていただきます」
そう言って俺達が作った教本を見本に持って帰って行った。
なのでひょっとしたらアネイアにある施術学校の方でも物理法則とか生物学の知識を下敷きにした施術発動方法が広まるかもしれない。
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