第14章 冬もお仕事

第72話 再来年に向けて

 冬休みは基本的に北部巡行で終わる。

 さて、俺は今のうちに色々考えておきたいことがあった。

 学校を卒業する生徒の今後の身の振り方とその援助方策だ。

 トップクラスは奨学金のある学校に進学できるだろう。

 旧3組の手に職をつけた連中はそれなりに就職口をみつけられるだろう。

 でも奨学金の無い学校へ進学する生徒。

 つまり王立ではない一般の中等学校や職業訓練校へ行くような生徒。

 この辺をうまく考えてやらないといけない。

 無論就職してもこの学校へ来なかった場合よりはいい就職が出来るだろう。

 でもどうせならと欲が出てくるのだ。

 

 彼らの学力や知識は一般の5年制初等学校を卒業した生徒と変わらない。

 3年制とは言えわざわざ希望してそれなりの熱意を持ってやってきた生徒だ。

 それだけの内容は充分学んでいる。

 だからこそ進学せずにそのまま就職というのは惜しい。

 でも教団でこれ以上費用的に面倒を見るのは難しいだろう。

 もし費用をかけるなら義務教育学校にさえ行きにくい生徒の為、今の学校をもっと拡充する方に向けるのが正しいだろうから。


「そんな訳で何かいい案は無いか?」

 巡行中のミランの教会、宿泊用にあてがわれた2階個室で俺はイザベルに尋ねる。

「そうなのですよ。それに万が一国立中等学校を受験したけれど落ちてしまったようなそこそこ優秀な生徒も出来れば進学させてやりたいのです」

 何せ3年間も一緒にいるのだからいい加減生徒にも情が移るってものだ。

 特に最初の学年の100人はもう全員顔と名前と性格が完全一致するくらいの状態。

 なんとかしてやりたいというのはイザベルも同じのようだ。


「取りあえず寮が無い学校でも居住場所は確保してやる必要があると思うのですよ。実家が田舎だとまず家から通える適当な学校が無いのです。でも一般の中等学校には往々にして寮は無いのです。

 ですから教会なり何なりにそういった寮的な施設を設けてやる必要があると思うのですよ。その辺の使用料は卒業した後に少しずつ返して貰えばいいと思うのです。救護院を国に渡したので各教会にもその程度の施設的余裕はある筈なのですよ」

 なるほど。

 まず住む場所を何とかする必要がある。

 そしてそれはある程度出来そうだという訳か。


「なら次は学費や生活費だな」

「そこまで貸し出すと将来返すのが大変になるのですよ。だからその辺は何とかして稼げるような方法論を考えなければならないのです」

 前世でもあった奨学金破産等と同じか。

 でも働く時間は普通の学校に通う以上、早朝とか夕方もしくは安息日や長期休暇時等しか無いだろう。

 それで学費と生活費を稼がせる方法か……


 夏休みや冬休みに働いて貰うのはやむをえない。

 でも他の期間、できれば平日夕方等でもある程度働ける仕事。

 しかも学校があるような街で、だ。

 でもそんな条件のいい勤務があるなら皆が押し寄せそうだよな。

 つまり現状ではそんな勤務なんか無い。


 なら何か特殊技能を持たせてそういう仕事をつくってやるしかないだろう。

 うちの教団で教えられるのは生命関係の施術。

 しかも学校があるような街中で需要のありそうな施術だ。

 殺し屋なんて単価高そうだけれど洒落にならないよな。

 そんな後ろ暗いものは闇の神アイバル教団用に置いておいてと。

 そうなるとやっぱり……


「うちの教団で教えられてお金になりそうな技術と言えば、やっぱり治療と回復の施術だろうな」

「本当は農作物関係の施術もお金になりそうなのですけれど、街中では商売にならないと思うのですよ」

 イザベルも頷く。

 確かに人が多ければ多いほど需要があるだろう。


「グロリアやロレッタが病院の補助をしていた時も、元々は治療・回復施術初級だったんだよな。今はもっと上だけれど」

「病院に初級施術が使える助手がいたら大分楽だと思うのですよ。メインの施術師の力を温存して難しい治療に使えるのです。できれば施術師1人につき2人くらいいてくれると大分楽だと思うのですよ」

 その辺の気持ちは俺にもよくわかる。

 何せ割と長いこと施術院に出張治療に行っていたしな。

 勿論診断や治療方針はメインの施術師がやるにせよ、ある程度使える助手がいてくれると大変助かるだろう。

 前世で言う看護師みたいな感じで。


「なら街中の新しい施術院を平日夜9時くらいまで開けるようにして、夕方から夜終わりまで助手として雇うようにするか。人数は施術師1人につき初級施術が使える学生を2人ずつという形で。あと休日は朝昼夜の3交代くらいにして。

 仕事をしている人でちょっと体調を崩したなんて人だと夜に病院に行きたいなんて需要もあるだろう。学生とはいえ初級施術が使える助手が2人いれば夜間9時頃まで施術院を開けても何とかなるだろうし」

「施術師2人の小規模な施術院として、平日夜の部が夕方5時から9時までで4時間、助手4人。休日が朝昼夜の3交代で助手合計12人。週合計延べで32人の助手を4時間ずつ雇う計算になるのです」

 ちょうど1クラス分か。

 まだ働き口としては足りないな。


「将来的にはミランの学校と併せて900人くらい雇えないとまずい。ミランと併せて1学年600人。うち半分がこの制度を利用するとして300人、3学年で900人の働き場所が必要だ。それだけだと大分足りないな」

「何もアネイアとミランにこだわる事は無いのです。例えば王立中等学校も今ではアネイア、ミラン、ネーブルの3校があるのです。普通の領立中等学校や職業訓練学校なんてそこら中にあるのです。だからこの国の人口順にアネイア、ミラン、ネーブル、ナープラ、トラン、ゼナア、ボノニア、フロレント、ニコラ、ウェネティと大都市に生徒を割り振っただけで週に述べ300人は雇えるのです」

「それでも300人だろ」

「オルレナ大司教は施術院の増院や増員を求めているのです。実際施術院が日に日に忙しくなっているのは使徒様もご存じの通りなのです。実際大都市なら施術院を3院程度作っても需要は充分あると思うのです。ただ中級以上の施術師を手配するのが現状では少し難しいかもしれないのです……」


 そうなんだよな。

 治療や回復の施術は教団でも比較的持っている者が多い施術だ。

 でもほとんどが初級までで中級以上の施術師はぐっと少なくなる。

 ぶっちゃけ初級なら半年程度教えればほとんどの人が習得可能。

 でもそれ以上は努力と才能が無いと無理だ。

 なら他にも学生の出来そうな割のいい仕事は無いだろうか。

 それもうちの教団の強みを活かした形で。

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