第71話 やっぱり俺はこき使われる
その後1年生の絵画展を見る。
何せ4月頃にはペンの使い方を学んでいた生徒が描いたものだ。
思い通りに描けている者は少ないだろう。
でも中にはなかなか目を惹くものもあるようだ。
「上手い子はそこそこいるようなのです」
イザベルもそう言っている。
俺は視力ではなく現状認識で見るのでそういった出来がわかりにくい。
なので観衆の動きや態度で判断する感じだ。
なお絵画に使ったのは色鉛筆や水彩絵の具。
水彩絵の具も教団製で色鉛筆用に作った顔料をアカシアの樹脂に混ぜた物。
世間では結構高価なので木工所で自製している。
「この辺特に3組の先生とか寮務の先生は良く指導しているよな」
「ああいう状態の生徒に上手に指導できるのは才能だと思うのですよ」
俺もイザベルも言葉すら苦手という生徒への指導はあまり得意ではない。
その辺はノーラ司祭やジータ司祭補のような孤児院出身の先生に任せっきりだ。
寮なんかでもエヴェリーナ司祭補あたりが頑張っている。
何せ一般的な生活の基本すら知らない生徒が結構いるから。
その辺は校長として感謝しっぱなしだ。
給料を少しでも上げて報いたいのだが、根っからの教団専従者にとってそれはインセンティブになりにくいんだよな。
一応成果に対する給与の増額の方はソーフィア大司教にもお願いしているけれど。
その後合唱コンクールと
困った事に現状認識ではその楽しさを把握できない。
何人が音を2度以上間違っているとかはわかるのだけれど。
この辺はやっぱり聴覚の方がいいよな。
そう思いつつイザベルの手前楽しんでいるようには演技しておく。
「生徒達もよくやったとは思うのですけれど、やはり
イザベルの台詞以外にも聴衆の反応でそうだったんだなとは認識できる。
「なら他にも年何回かよぶ機会を作ろうか」
「その辺はソーフィア大司教が話をつけているそうなのです。具体的には移動等に教団の馬車で便宜をはかるかわりにいくつかの地区で年数回コンサートをしてくれるような契約になっているそうなのです」
なるほど。
今の俺ではその辺の良さがわかりにくいけれど、そういった芸術関係を見せるのも教育だし宣伝でもあるよな。
その辺ソーフィア大司教はよくわかっているようだ。
仕事が大分整理されたからその分そういった提案系の事務も出来るのだろう。
この収穫祭だって大盛況だと言っていいと思う。
生徒や教団専従者だけでは無い。
近くの町や村、更には種等を買い付けに遠くからきたバイヤー等も集めている。
この辺は流石だ。
そう思ったところで現状認識能力が危険信号を発しはじめた。
早く逃げろ、そんな感じだ。
付近は平和だし楽しいし何故だろう。
そう思ってすぐに動かなかったのが災いした。
「あ、使徒様いらした。お願いします。私達では説明しきれない処があるんです」
ジョルジャ司祭補だ。
「イザベル様もお願いします。こちらです」
イザベルも脱出に失敗した模様。
案内と言うより連行という感じで引っ張られる。
案内されたのは勿論教団作物研究部の店だ。
もうそろそろ収穫祭が終わりだというのに人がごった返している。
担当のヴィオラ司祭補だけでなく、セルゲイ司祭長だのヒラルス司祭だの農業部門のお偉方が揃って対応している。
大規模農家だの貴族の農園管理者だのと思われるバイヤーだのの熱気は強烈だ。
まさかここまで好評とは。
俺も予測できなかったな。
そう思った時だ。
「ここにこれらの品種の特徴について全て知っている使徒様とその補佐が参りました。データシートに記載が無い内容についてはこの2名に確認して下さい」
おいジョルジャ何という事を!
そう思ってももう遅い。
「それでは質問者は順番に列を作ってお願いします」
何気にセルゲイ司祭長、裏切りつつ仕切るな!
あっという間に俺とイザベルの前にそれぞれ列が出来る。
これではもう逃げるのは無理だ。
仕方無い。
「この小麦は病気への抵抗性が強いとありますがどんな病気に強いのでしょうか」
まず1人目の質問者だ。
「これは主に冬、寒くなった頃に葉っぱが変色したり縮んだりする病気に抵抗がありますね」
「小麦としての収量は多めとありますが用途的には何に適しているでしょうか」
「この小麦はパン、それも食事パンのような白くて柔らかいパンに適しています。麺にはやや固めの粉になりますね」
俺達の戦いがこんな時間に始まってしまった。
列は何故かどんどん伸びていく……
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