第70話 収穫祭・その他のブース
「美味しかったけれど、何か汚れてしまったという気分なのですよ」
暗示から解けたイザベルの台詞だ。
「悔しいが味は確かに美味しかったしわからないよう上手く作ってあった。あの茹でた奴そのままを見なければ気づかなかったかもしれない」
「でも誰が考えたのですかこの厳しいメニューは」
副校長先生は少しだけ目が涙目だ。
「すみません。私とクロエとキアラです」
アウロラちゃんが白状した。
「それでも一応クラス内で議決を取って、あまりにヤバいと思うのはやめておいたんだよ。半数以上が反対したものは一応取りやめたから。ゴ●ブリの唐揚げとか」
「それは取りやめて当然なのですよ」
イザベル、口調がぷんぷん状態。
「でも南部の方では昔食べられていたって話だよ。具体的には夏に図書館に入れた『知られざる食生活』って本に載っていたんだけれど。そういえばこんな虫も昔は食べていたりしたって聞いた事があるよね。そういう話をしたらアウロラとキアラが面白がってね」
「折角のお祭りだから度胸試しというかイロモノ企画も必要なんじゃ無いでしょうか。そう言ったら思ったより皆にウケたんです。あとは食材を色々な手段で集めて、こっそり加工とかして」
「一応外部の人から苦情が出ないよう、看板には『奇食! 貴方はこれを食べる勇気があるか!』とか一応書いておいたのですけれどね」
「校長先生達が来る前に看板の前に立って見えないようにしましたけれど」
おいおいアウロラそれはないだろう。
まあ実際はちらっと見えたので回れ右しようとしたのだけれど。
「あと種明かしと害が無いという事の説明も最後に配ることになっています」
そう言ってアウロラちゃんが紙を1枚ずつ俺達に渡す。
食材に使った虫の説明や、実際に調理する際の注意書き等が書いてあった。
イラストもなかなか精細で説明もよく書けている。
「なかなかの力作だとは認めざるを得ないな」
「でもこの力の入れ具合と独創性は別の方向に働かして欲しかったのですよ」
「でもこれ、結構評判いいんですよ。ヤバすぎてお客さんが集まらないかと思ったらそうでもなくて。朝からいい感じで入っているんです。皆さん度胸試しだと言っていますけれど」
「そうそう。この調子ならお昼過ぎには在庫が終わるよね」
「チーズの●●虫、より分けるのが大変でしたから」
「あの黒い虻も蛹だけ取り出すのは大変だったよね」
「でも単価そのものは安かったですね。利益率的には結構いい感じです」
うん、やっぱり2年1組の店は危険だった。
特にイザベルはかなりのダメージを受けた状態だ。
「うーん、気分転換が必要なのですよ」
「気を取り直して他も見てみよう」
「そうなのです」
1年生の発表は午後から。
だから教団本体とか他の業者等が出している店の方を見に行く事にする。
さて、教団の売店のうち農作物直売とか生活用品特売コーナーはパス。
だいたい何を売っているかはわかるしさ。
だから目新しいものは何かないかという観点で回る。
教団教学部の書籍売店なんてものもあった。
教団関係の本だけかと思えばそうでもない。
料理本とか一般文学、児童書まで扱っている。
教団発行の新本もそれ以外の古本も扱っている。
古本の方はきっと図書館の入れ替えで出た本だな。
教団発行の新本も宗教関連は半分もない。
メインは料理本とか児童書とか家庭向きの本だ。
教学部は人員が足りないとか言っていた癖にこういう活動もやっているんだな。
小説の古本を1冊購入して次へ。
何かいかにもその道の皆さんという感じの集団が群れている店がある。
何だろうと思ったら教団作物研究部の店だった。
俺やイザベルが苦労して書いたデータシートをつけて種や種芋の展示販売中。
ただし種や種芋は試験販売ということで少量ずつの販売のみ。
それでも熱心にデータシートを見比べては買い込んでいる人が結構いる。
確かにこういった品種がある程度揃ってデータもしっかりある種苗店なんて他にないからな。
目の肥えた農業関係者にとってはお宝の山だろう。
「種の値付はそこそこ高めだと思うのですが賑わっているようなのです」
「各品種の特性とかを考えて栽培をすれば農業もまた効率化するだろうしな。すでに教団の農場と援助している中小農家の農場でははじめているけれど」
見ると担当のジョルジャ司祭補とヴィオラ司祭補はそれぞれ熱心な客に捕まって色々説明させられている様子。
「これは見つからないうちに消えた方が無難なのです」
「そうだな。説明要員にされかねない」
俺達はこっそりとその場を去る。
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