第13章 秋は色々忙しい
第66話 教団の資産活用
教団馬車の一部で一般客の輸送を開始するそうである。
「ひととおり新型に入れ替わりましたから。ただ既存業者との関係もありますので、当座は駅馬車の定期便が無い場所限定です」
とソーフィア大司教。
国内でも北部は割と駅馬車網が充実しているので南部中心という形になる。
例えばクロエちゃんが夏に通った、
ラテラノ→ネーブル→ナープラ→バルトロ→カラバーラ
という南部東海岸ルートだと、教団関係者しかいないラテラノ発は除いて
ネーブル→ナープラ
の間は駅馬車もかなり程度走っている。
でも
ナープラ→バルトロ
と
バルトロ→カラバーラ
は今のところ定期の駅馬車が無い区間だ。
これらの区間は歩きか風次第で不定期な船便、もしくは自家所有か借り上げ運航の馬車を使うしか無い。
こういった処に1日1便とはいえ一般乗車可能な定期便が出来た訳だ。
なお便乗させる際は馬車に簡易的な椅子を設置するそうだ。
つまりかつての俺達みたいに野菜くずと同居という事は無くなる模様。
「これで少しでも人の行き来が出来ればまた変わるのですよ」
イザベルの感想だ。
「新制度も行き渡りました。会計制度を変えたので全て私が管理しなくても良くなりましたし決裁権もある程度各地区に委譲しました。これで少しは他の事案にも関わる余裕が出来た感じです」
そう言えばソーフィア大司教の机に山積みになっていた書類が少し減っているような気もする。
「馬車への便乗がそのひとつですか」
「ええ。他にも教団が運用しているもので一般開放できるものが無いか考慮中です。もちろん既存業者の権益に関わらない範囲でですけれど」
なるほど。
実は教団の資産で国全体で有効活用できるものが他にもある。
正直なところ少し勿体ないけれど、間違いなく一般のためにもあるものだ。
「なら開発したジャガイモや大豆、小麦の耐性品種や高収量品種なんかもある程度解放してみますか。無論ある程度有償でという事にはした方がいいでしょうけれども」
教団には元々作物研究部があり多くの品種を持っている。
更に俺やイザベルの献身的な努力で有用な品種はより分けられて分類されている。
特に主食になるジャガイモと小麦。
土地を豊かにする大豆やエンドウ等の豆類。
そういったものは病害虫に強いものからやや弱いかわりに高収量が期待できるものまで色々揃っている。
砂糖用のテンサイも大規模にやっているのはまだ教団くらいだ。
「確かにそれは有用でしょう。でもその辺まで公にして大丈夫でしょうか」
「教団の農業の強みは品種をたくさん持っている事だけではありません。大規模な輪作を可能にする広大な畑作面積や研究され尽くした栽培技術等もあります。それに農家救済策で更に多くの面積を管理している今、教団以上に効率良く農業を行っている組織は国内にはそう無いでしょう。ですから心配はいらないと思います。勿論業務部門を統括しているスコラダ大司教には許可を貰った方がいいでしょうけれど」
「あの人はそれが社会正義になると思えば間違いなく賛成するでしょう」
ソーフィア大司教はスコラダ大司教の話になるといつも微妙な表情になる。
前は無表情だと思っていたのだけれど最近は結構表情がわかるようになってきた。
あ、そうだ。
ついでにソーフィア大司教にひとつお願いしておこう。
「あとついでですが、農業部門の作物研究部に植物関係で施術が得意な方を少し配置して頂けますでしょうか。今は施術が得意な人がいなくて何かあると俺やイザベルが手伝わされる状況になりますから」
「そうなのですよ。昨年は授業の無い午後半日芋や種を仕分けるなんて事をさせられたのです。でも今年は午後も授業があるのでなかなか手伝えないのですよ」
昨年は半分以上サボった癖に、とは言わない。
「使徒様やイザベルと同等の施術使いなんて教団を探しても他にいるかどうか……」
「そこまででなくともいいです。種や芋から植物の特性がわかる程度の施術持ちがいればあそこの研究もかなり進むと思います。今までは毎年実際に育てて確認していたのですから」
最近は育てる前に俺の処に持ってくるけれどな。
その品種がどんな特性かを確認するために。
「わかりました。スコラダとも相談してその辺は考えましょう」
よし、これであの気が遠くなるような分別作業から今年は解放される!
イザベルもきっとそう思っているに違いない。
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