第65話 談話室での雑談タイム

 休みの間でも学校は開いている。

 授業は無いけれど図書室とか談話室などひととおり申請すれば使える状態だ。

 そして第1談話室は俺やイザベルお馴染みの生徒のたまり場になっている。

 要は安息日と同じだ。


「それにしてもクロエ、ずいぶん早く帰ってきたんだな。折角実家に行ったんならもう少しゆっくりしてきてもいいのに」

「うーん、確かに久しぶりの実家だったんだけれどね。帰っても特にやる事も無いしね。皆元気なのを確認したらもういいかなと思って戻ってきちゃった。馬車も我慢しなくても乗れるようになったし」

 おいおいそれでいいのかなと思う。

 でも俺も大学時代はそんな感じだったかな。

 実家に帰ってもやる事が無いのだ。


「でも食事とか服とかは私がいた頃より大分良くなっていたよ。私の稼ぎのおかげか教団のやっている事業のせいかはわからないけれど。何か食品類も仲間内で流通させて市場価格より安く買えるようになっているみたい。食品以外の作物を作っている分の補償措置だって」

 何か俺が提案した以上に教団の中小農家救済措置は手厚くなっているようだ。

 それともスリワラ伯爵領独自の追加施策だろうか。

 いずれにせよめでたい事ではある。


「そう言えばここを卒業したらどうするつもりなんだ」

「やっぱり勉強が楽しいんだよね。だから出来れば進学したいかな。ただ親に聞いてみたら進学はしていいけれど送金をするのは多分無理だって」

「なら奨学金を貰えるような優秀な中等学校を目指さないとな。生活費はある程度今貯めているのでなんとかなるだろうから」

「なら王立中等学校か。ちょっと難しいかな」

 クロエちゃんはそう言って首をかしげる。


 この国の教育制度は改革中なのでちょっとごちゃっとしている。

 初等教育学校(5年間)卒と義務教育学校(3年間)卒の年齢が同じ。

 その上には中等学校(3年間)と職業訓練学校(2年間)がある。

 進学しないなら軍の一般兵採用や大抵の商店・企業の採用もこの辺だ。


 中等学校を卒業するか高等学校入学資格試験で合格すると高等学校(3年間)入学試験の受験資格を受ける事が出来る。

 軍の幹部学校等の入試受験資格も同じだ。

 初等官僚試験の受験資格もこの辺。


 高等学校を卒業すると国の高級職等、つまり法の真偽員採用試験とか上級官僚採用試験等を受験することが出来る。

 また研究機関等の採用も高等学校卒業が条件の事が多い。


 こんな教育制度で、しかも改革までは義務教育学校が存在しなかった。

 なので貴族とかある程度裕福な人々の子弟は大体初等教育学校に通っている。

 しかも学校に通う前から家庭教師とかをつけて勉強している子が多い。

 更に中等学校や職業訓練学校も入試があり、学校毎にレベルが異なる。


 そして大体国の高級官僚とか法の真偽員とかになるのは高等学校でも一部の名門校出身者ばかり。

 この国だとだいたいは王立アネイア高等学校卒、それにミランやネーブルの王立高等学校卒が少数といったところだ。

 その辺に入るにはやはり名門の中等学校、この辺だと王立アネイア中等学校あたりでないと厳しかったりする。

 そして王立中等学校の入学試験はかなり難しい。


 ただ王立の中等学校と高等学校は子爵以上の貴族の子弟以外は奨学金が貰える。

 将来国を背負って立つ人材の教育には国が金を出してくれる訳だ。

 実はこの辺もこの前の改革でそうなったのだけれども。


「ただ1組の半分くらいはその気になれば王立中等学校を狙えると思うぞ。既に試験範囲は半分くらいはクリアしている。何なら来年はもう少しクラス編成を細かくして進路別にしてもいいしさ」

「そうなのですよ。たかが何となく初等教育学校にいただけの連中とは鍛え方が違うのですよ。その辺必要な勉強は任せておけなのです」

 イザベルがそう言って無い胸を張る。

 いや、ないと思っていたが少しはあるようだ。

 どうやらまた少し成長した模様。


「ところでで話は変わるけれど、校長先生の目はまだ治らないの?」

「うん。まだ見えないな。それに治るかどうかもよくわからない。まあ見えなくても不自由はしないから別に大丈夫だけれどさ」

「その辺は私の不徳の致すところでもあるのですよ」

「なら気づかないかなあ。最近、副校長先生が綺麗になったの?」

 ???

 綺麗になったとはどういう意味だろう。


「何なのですか」

 イザベルも寝耳に水状態だったようだ。

「あ、それ私も思った。確かに綺麗になったよね」

 おいおいおい。

 ちょっと待て。


「また成長しはじめたのは知っているけれどな。1ヶ月で身長が2センチ伸びたのですよなんて言っていたし」

「それもあるけれどそれ以上に綺麗って感じになっているように見えるんです。本当に気づいていないんですか」

「校長先生と何かあったんじゃないかって思ったんですけれど」

 こらアウロラ!

 大人をからかうんじゃない。

 なんて言わないけれどさ。


「特に何もないのですよ。使徒様の補佐役もしているので夏の巡行も一緒だったのですけれど、それもいつもの事で特に何かあるわけでもないのです」

「副校長先生、何か早口になっていませんでしょうか」

 おいおいおい。

 アウロラちゃん攻める!


「私も特に何かあった記憶は無いな」

 俺も一応そう言ってはおく。

 実際何かあった憶えも無いし。


「でも綺麗になったよね、実際」

「いつも一緒だから逆に気づかないのかもしれないのです」

「そう言われてもなあ」

「誓って言いますが何も無いのですよ」

 俺もイザベルも思い当たる節は全くない。


「とりあえず副校長先生と何かあった訳ではないのですね」

「無いな、間違いなく」

 よくわからないが変わった事がないのは事実だ。


「よかったねクロエ。まだ脈があるかもよ」

「どうでしょうか。何かあった方がクロエも攻めやすいのではないでしょうか」

 エレナちゃんとアウロラちゃんが何かよくわからない事を言っている。

 何の事だろう。

 イザベルの方を現状認識で監察してみると……何か微妙な表情をしているな。

 でも俺にはさっぱりだ。

 うん、わからない事は無視だ。

 そして念の為話題も変えておこう。


「ところでクロエ達4人が図書館の手伝いをしているのは聞いたけれど、他の1組の皆はどんな作業をしているんだ?」

「1組だとこの時期は倉庫管理とか帳簿処理とかが多いのですよ。読み書きが出来るし単純な計算も出来るので各部署で色々重宝するのです」

 なるほど。

 教団の大人でもその辺が苦手な人は多いものな。

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