第67話 今秋もやっぱり忙しい
甘かった!
これが俺の感想である。
確かにソーフィア大司教は作物研究部に施術が使える人を配置してくれた。
ジョルジャ司祭補とヴィオラ司祭補である。
2人とも女性で以前はそれぞれゼナアとテュランの孤児院にいたそうである。
孤児院が国に移管された後も教会に残って施術院の手伝いをしていたが、今回ここに配置されたらしい。
ただ誤算があった。
「種や芋を見てそれぞれの成長後の姿や特性を確認出来るレベルの施術使いとなると教団でも数少ないのです。私の把握している範囲ではオルレナ大司教、アリアンナ司教、アベラルド司教補、メリッサ司教補、マウラ司教補、ベネデッタ司祭長くらいです。今回配置した2名もオルレナ大司教にお願いして無理に出してもらいました。せめて来年になれば施術学校の卒業生が出るのでもう少し施術使いも増えるのでしょうけれど」
とはソーフィア大司教の言である。
具体的に言うと彼女達は種や芋を同じ品種毎に分別することは出来る。
でもその特性を育てずして把握するのはやっぱり俺やイザベルの役目という事だ。
そして秋といえば色々な作物の収穫期。
なまじ施術がそこそこ有能で真面目で仕事の意義も理解している2人は、容赦なく種や芋の鑑別を俺やイザベルの処に持ち込むのである。
「有能なのと熱心なのは確かなのですよ。このデータシートにしても良く出来てはいるのです」
種等と一緒についてきている紙には色々な項目が記載されている。
項目を埋めれば誰でもその作物の特性が全部わかるというなかなかの優れものだ。
品種の資源化という意味では大変正しい。
ただ問題はそれを書くのが主に俺とイザベルの2人だという事。
しかも今は午前も午後も授業があるので学校にいる。
おまけに秋は行事もあったりするのだ。
つまり学校も結構忙しい。
結果として学校のデスク上に学校関係書類の他に鑑別を待つ種だの芋だのまで乗っかってくる始末。
「冬になったらあの2人に施術の特訓をするのですよ。何としてでも種から特徴がわかるようになるまで鍛えるのです」
「でも今度の冬休みは北部巡行だぞ。都市が南部に比べて格段に多いし結構時間がかかるだろう。休みにやるのは無理だな」
「とりあえず収穫期が終わって鑑別も一段落したら容赦なくやるのですよ」
「そんな余裕があるかどうかは怪しいな」
「それは使徒様、もとい校長先生もなのです」
確かに。
一方で教団や学校の方はまた別の忙しさを迎えている。
先程行事と言った奴だ。
10月になったら収穫祭をやる予定。
学校では昨年もやったのだが、今年は
発案者はソーフィア大司教。
今年の収穫を祝うとともに一般の人に
特に
予算もソーフィア大司教がしっかりと確保。
当日は農作物即売会等も行うし、商品等の実演販売も行う予定。
学校では生徒や各部署が模擬店も出したりもする一般の出店も受付中。
出店希望等は
「何かソーフィア大司教の仕事量が少し減ったと思ったらずいぶん色々忙しいことになったな」
「あの人は有能すぎるので余裕を持たせては駄目なのですよ。仕事を過大に与えて縛っておくくらいがちょうどいいのです」
忙しさのあまり何処ぞの校長と副校長がそう嘆いていたりもする。
ただ学校の生徒の方はなんやかんやで楽しそうだ。
「うちの1組でもお店をやるんだ。校長先生も絶対来てね」
俺もそんな誘いをクロエちゃんから受けている。
「売店っていったい何を売るんだ」
「食べ物という以外秘密だよ。当日を楽しみにしてね」
何だろう。
知識偏重なこいつらが何を出してくるのか微妙に、いや正直言うとかなり不安だったりする。
なお模擬店は学校に慣れた2年生からだ。
1年生は絵画や合唱コンクール等のみ。
そして模擬店は2年の3組が出しているのが一番信頼できそうだ。
勉強はあまり得意ではないが手に職をつけようという生徒が多いので。
2組もまあ、無難にやるだろう。
真面目にやってくれればの話だけれど。
1組はどうも信用できない。
なまじ頭が悪くないだけに何をしてくるかわからないのだ。
俺とかイザベルに『宇宙の始まり』だの『地球の内部構造』だの『宇宙の一番端っこはどうなっているのか』だの聞きに来たような連中が揃っている。
質問の幾つかは国最南端の孤児院にいた某司教達が入れ知恵したようだけれども。
頼むからやらかさないでくれよ。
そう祈らずにはいられない。
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