第48話 更なる改革
役所の事情聴取でちょっと遅くなった夕食の場。
「失礼ですが、目と左腕はどうされたのでしょうか」
ここミランの教会の責任者であるアベラルド司教補に気づかれてしまった。
ちなみにアベラルド司教補とは刺殺未遂犯人の暗示を解いたあのおっさんである。
「色々力を使いすぎてしまいまして。当分の間両目と左腕は使えない状態です。一応他の感覚や能力で補えるのでご心配なく」
本当は聴覚と嗅覚も駄目なのだがそこまで言う必要も無いだろう。
それにしても嗅覚が駄目だと食事の味まで薄く感じるな。
料理そのものは新しい教団の教え準拠でそこそこ美味しい筈なのだけれど。
「それにしても先程は失礼致しました。アベラルド司教補自ら暗示を解く施術をかけて頂くとは。道理で見事な治療施術でした」
「いえ。こちらこそ……」
その辺の話は適当にまあ済ませて。
翌日一日かけてここの施術院2箇所と救護院を見て回る。
流石に上級治療施術が使えるアベラルド司教補管理下にある施設だ。
他の街と異なり俺やイザベルの力が必要な患者はごく少ない。
そんな訳で更に次の日朝出発の馬車でミランを後にする。
俺の視覚聴覚嗅覚と左腕は相変わらずだ。
どうもそう簡単に終わるような代償ではないらしい。
ただ日常生活や教団での作業で困る事は無い。
強いて言えば治療時に左腕が使えないので患者の患部を押さえたり固定したりするのに苦労する程度だ。
感覚の代わりは大体現状認識で何とかなる。
むしろ現状認識の方が他の感覚より優れている事もあるくらいだ。
例えば患者の状態の把握とか。
ただ色々生活が味気なくなった感じはする。
食事は見た目とか匂いとかもかなり重要な要素だったようだ。
味だけではどうも印象が薄いし何かもそもそした感じになる。
他にはやはり視覚無しの影響が大きい。
実用面ではあまり問題は無いのだが、主に感情面で色々あるのだ。
具体的にどういう状況かはちょっと言えないけれど。
ただあの場面で自己犠牲を使った事に後悔は無い。
だから今はマイナス面は無視してこれからの事を考えるべきだろう。
幸い教団での日常業務に支障を来すことはほとんど無さそうだ。
となると次の改革案。
そして今回の事件に関係する患部の大掃除。
その辺は前々から考えていた事がある。
「イザベル。ウェネティについてからでいいから稟議書を1本書いてもらっていいかな。スコラダ大司教宛だ」
「何か思いついたのですか」
「ああ。
しかも王家をはじめとして有力者の信者が多い。
俺の作戦に巻き込むにはうってつけの存在だ。
一方
扱いが難しいが世論を動かすには間違いなく必要な存在だ。
「
イザベルは俺の考えを先読みしたようだ。
「そこまで行けるかどうかはわからないけれどな。
「今までと比べて段違いに困難でかつ危険な道になると思うのです」
「その通りだけれどな。あまり
「それは……認めるのです」
「それに今は貧乏教団だから色々風通しもいいし不正なんかもほぼ無い。でもこれ以上教団が肥大化したらいずれ自己の為に教団を利用する奴が出てくる。その辺を考えても規模はこの辺でとどめておいた方がいい。まあ学校だのレストランだの病院だの新しい教会だのはもう少し増やすにしてもだ。組織そのものの人員はあまり増やさない方がいいだろう」
「それは理解できるのです」
「更に言うと本来貧困問題とか教育問題は国の政策だ。一教団でやるような事では無い。この国の歴史上そうなった経緯はわかるが、その辺も是正した方がいいだろう。きっと困難な道のりになるけれどな」
「確かにそれは正しい考えなのです。でも道のりが非常に遠い気がするのです」
「その通りだな。だからまずは出来るところから少しずつ改善していこう。まずは以前話した会計的な教団改革だな。あれをまず
俺達のさらなる戦いが始まる。
その、筈だった。
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