第45話 治療の代償

 気がついたらやけに明るい場所だった。

 眩しすぎて周りが良く見えない位だ。

『意識が戻りましたでしょうか』

 そんな意味の何かが聞こえた。

 声とは違う。

 そういう意味そのものが感じられたという感じだ。

 聞こえた方向に視線を向けようとするが眩しくて見る事が出来ない。

 

 ふと気がついた。

 この場所は2回目だ。

 1回目は前世で死亡して使徒として生まれ変わる前。

 そして今は……

 そうだ、多分今回も俺は死んだのだろう。

 死にかけているイザベルに対して自己犠牲を発動したのは憶えている。

 自己犠牲なんて名前からして『自分を犠牲にして誰かを救う施術』だろう。

 現状認識能力も俺の予想に対しその通りだと告げている。


『まだ死んではいません。仮死状態で眠っている状態です』

 生命の神セドナと思える意思が俺にそんな意味を告げる。

『イザベルは無事か?』

 以前と同様に意味の羅列が俺に状況を説明する。

 イザベルは心臓や肺等に致命傷を負ったが使徒の奇跡『自己犠牲』で回復した。

 一度意識を失った後まだ回復していないが生命その他に異常は無い。

 イザベルを刺した犯人はその場で取り押さえられた。

 勿論本来のターゲットは俺。

 新しい使徒が貧乏人を除け者にする方向で教団を改革していて、このままでは自分達に対する援助等が減らされると示唆されたらしい。

 更に確実に犯行に及ぶよう、強力な暗示をかけられてもいる。

 示唆と暗示を行った者、その者に指示した者、その計画を立案した者。

 その辺りまで全て神から受けた知識の中に含まれていた。

 

 これらの知識全てが俺のへの返答としてきた理由も同時に理解する。

 生命の神セドナはこれらの事象が人間に対してどういう意味を持つか理解できないのだ。 

 故に周辺事象を含め関係する知識全てを送ってきたという訳だ。

『これから俺はどうなるんだ』

 死んでそのままならここに戻る事は無いだろう。

 それとも何か採点のようなものでもあるのだろうか。


 返答と思われる意味の塊がやってきた。

 俺の成果については期間は短いもののよくやっていると高評価の模様だ。

 故に『自己犠牲』の代償も若干軽いものにはなるという事。

 ただ同時に注意のような意見も含まれている。

 『自己犠牲』は場合によっては死以上の代償を払う事もあるらしい。

 この死以上という意味が俺には今ひとつ概念含めて掴めなかったのだけれども。

 だからおいそれとは使うな、そんな感じの注意意見だ。


『つまり俺は生き返れる訳か』

 生き返るというか死なずに元の世界に居る状態だ。

 ただし当分の間代償を支払う事になる。

 その辺の代償という概念が俺には今ひとつわからない。

 そもそも代償という言葉が適切なのかも不明だ。

 神が送ってくる意味の羅列を俺にわかるようダウングレードしつつ翻訳している感じだからな。

 何せお互いの存在がかなり異なるから。

『それでは地上へ戻します』

 そんな意味が来た後、俺の意識は切り替わる。


 暗い、真っ暗な部屋だ。

 霊安室じゃないだろうなと思って俺は気づく。

 違う、これは暗い訳では無い。

 現状認識能力を働かせる。

 ここは霊安室では無く施療院の入院患者用ベッド。

 使徒だからか殺されかけたからか一応個室だ。

 イザベルはというと隣の個室だ。

 横になっているが別に身体に異常は無い模様。

 一時的なショックで倒れているだけのようだ。


 外は暗くなり始めているがそこまで暗くはない。

 この部屋もだ。

 つまり真っ暗に感じたのは別の理由。

 現状認識で俺の身体を確認する。

 身体に幾つか障害が出ていた。

 具体的には、

  ○ 両目が見えない

  ○ 左腕肘から先が動かない

  ○ 両耳とも音が聞こえない

  ○ 嗅覚も駄目

  ○ 体力が半分以下

といったところだ。

 どうもこれが生命の神セドナ言うところの『代償』らしい。


 一番厳しいのはやっぱり両目が見えない事だろう。

 でも不自由ではあるが生活に困るほどでは無い。

 俺は現状認識能力が使える。

 視覚とは違うが物等の関知には困らない。

 耳が聞こえないのも現状認識能力で代行が可能だ。

 左腕は不便だがまあ利き腕で無いだけいいだろう。

 そう思って俺はふと思う。

 これって俺の施術で治療できないか。

 早速調べてみて気づく。

 やはり治療は不可能な模様だ。

 何せ機構的に悪い部分が何一つ見つからない。

 

 まあこれでイザベルが助かったなら御の字だろう。

 交換条件としては悪くないな。

 そう思って俺は身を起こす。

 左手が使えないのでちょっと苦労しつつ。

 目は開けておくかどうするか考えて取りあえず閉じておくことにする。

 見えない人間が目を開けておくと、見る人が目の方向とか違和感を感じて気持ち悪く感じたりもするらしいから。

 現状認識を働かせれば歩くのも困難では無い。

 目が見えた時と少し勝手は異なるけれど。


 今はイザベルが刺されてまだ30分も経っていない模様だ。

 刺した犯人もまだ下にいる。

 今は縄で縛られた状態だけれども。

 今は国王庁の役人が来るのを待っている状態だ。

 もう一度現状認識でイザベルの状態を確認する。

 身体の損傷は全く無くなったし精神等の問題も残っていないようだ。

 ならば俺も下へ行くとするか。

 本当はイザベルに付き添っていたいけれど、今の俺は目も耳も使えない。

 現状処理能力で確認するならある程度離れていても同じだ。

 まず犯人の方の処理を先にしておく必要がある。

 俺は病室の扉を開け、廊下を歩いて行く。

 

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