第42話 ある大司教の実像?
翌々日の午後。
俺とイザベルは稟議書を手に教団本部の廊下を歩く。
最近は教団本部もかなり綺麗になってきた。
みすぼらしかったドームも修理の手が入ってそこそこ見られる感じになっている。
「今回もやっぱりソーフィア大司教に提出するのがいいんだろうなあ」
「会計業務担当なのでやっぱり担当はソーフィア大司教なのですよ」
そんな訳でドーム横の建物内にあるソーフィア大司教の執務室へ。
執務室の扉は会議中でも無い限りだいたい開いたままになっている。
取り次いでくれる秘書官なんて制度はこの教団には無い。
なのでまずは直接中の様子を窺う。
大司教はいつも通り書類の山を処理している模様だ。
ここで怯んではいけない。
どうせソーフィア大司教の前から書類が無くなる時は来ない。
なので書類処理中なのをあえて無視して堂々と入っていくのがコツだ。
俺はそうイザベルから教わった。
なので今回も申し訳なく思いながら、
「失礼します」
と一言告げて入っていく。
ソーフィア大司教が顔を上げた。
「こんにちは使徒様。本日はまた新たな改革案でしょうか」
「今回は会計業務に直接関する事です。かつある程度理念的なもので実際の詳細は主に実際に統括されているソーフィア大司教に考えて頂いた方がいいかと思います」
そう言ってまずは稟議書を渡す。
ソーフィア大司教はささーっと稟議書を読んで、まずはイザベルの方を見た。
「イザベル司教補。この件に関する正直な感想を言って頂けますか」
「自分で書いておきながら微妙な気にはなるのですよ。必要性も効果も理解は出来るのですけれど」
「でしょうね」
ソーフィア大司教は頷く。
「でも会計の長も務めている私から見れば、この意見の意味はよくわかるのです。今はまだこの教団も個々人の善意と意識によって会計規律が守られています。でもこれから予算規模が大きくなるにつれ、それでは済まない状態になっていくことでしょう。こういった規律を守るためには個々人の意識だけでは無くてシステムとしての安全性が必要なのです。そういう意味では間違いなく必要な改革だと思われるのですよ」
うーむ。さすがソーフィア大司教。
俺が言わんとしている事をよくわかっていらっしゃる。
「ですが使徒様。これはそう簡単にはいきません。まずは会計関連の組織そのものを変える必要があります。そして会計に携わる者の業務の方法についても。
それに
ですのでこの件については会計内部及び他の大司教、特にスコラダ大司教と色々相談してからという事になると思います。
ですので目に見える形になるにはお時間がかかりますが宜しいでしょうか」
そうか、依頼した
そこまでは俺も考えなかった。
言われてみるともっともだ。
「わかりました。それではこの件については一旦ソーフィア大司教預かりという事でお願い致します」
「了解致しました」
ソーフィア大司教は頷き、そしてこう付け加える。
「しかしスコラダ大司教との話し合いの結果によっては一気に進めることになるかもしれません。
???
「スコラダ大司教は
俺と同じ疑問を持ったらしいイザベルが尋ねる。
ソーフィア大司教は頷いた。
「ええ。あの方が元々貴族の出身で、高等教育学校卒業後『法の真偽員』試験に合格して『法の真偽員』になられたのはご存じですよね」
イザベルは頷く。
俺はそこまで細かくは知らなかった。
「あの方の友人や同級生には官僚になったり
何だと!
おいちょっと待ってくれ。
ついこの前、まさにスコラダ大司教を連れて官僚や
あれは大丈夫だったのだろうか。
本人は何も問題無さそうな素振りだったが。
「この前の産業審議官との会議についてはご心配されなくても大丈夫です。スコラダ大司教は自分でも堅物過ぎると認める位ですからね。ああいった輩相手にはかなり厳しいですから」
「会議の件はもう聞かれたのでしょうか」
イザベルがちょっとためらいがちに尋ねる。
「ええ。なかなか痛快な会議だったと言っておりました」
おいスコラダ大司教。
随分と表向きの顔とキャラクターが違わないか?
「何か私の知っているスコラダ大司教とは随分違うのです」
イザベルもそう思ったようだ。
「あの方は昔も今も青臭くて悪が許せない堅物のままなんですよ。本人もそれを認めています。ですから普段はもめ事になりそうな事に関わらず、農作業等の実務的作業に意識して携わるようにしているそうです。
ただそんな理由で面倒ごとをこちらに押しつけるのは勘弁して欲しいですけれど」
うーん。
大司教の知られざる一面を聞いてしまった。
俺もイザベルも苦笑するしか無い。
ただソーフィア大司教とスコラダ大司教には結構交流があるようだ。
少なくとも同じ大司教だからという以上に。
他の大司教とも顔を合わせる最高幹部会議ではそんな事は感じなかったけれど。
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