第9章 ちょっとした日常
第40話 校長先生達の休日
俺やイザベルが色々な事に手を出している間も学校行事は進んでいく。
遠足の他にも運動会や夏休みや収穫祭等色々な行事を行った。
なお夏休みは希望があれば実家等に帰る事も出来るのだが、実際は殆どが帰らずここに居残った模様。
一部の孤児院の連中位かな、帰ったのは。
帰らなかった理由は至極簡単。
『こっちの方が食事も住環境もいいし、仕事を手伝えば小遣いも貰えるから』
だそうだ。
嬉しい反面この国の病巣を見てしまったような気もする。
さて、能力別クラスも季節に1回のテストで編成替えをしている。
秋のテストで大分各クラスの面子が変わった。
ただ文字を憶えていただけの子は下位クラスに移り、地頭がいいのが下位からあがってきた。
そんな訳で俺が良く顔を合わせる1組も半分くらいが交代。
中には3組から上がってきたなんていう強者もいる。
遠足の時に俺が班を受け持ったクロエちゃんやエレナちゃんなんかがそうだ。
この2人、実は俺はちょっと苦手だった。
もともと俺は女子全般があまり得意では無い。
学生時代まで非モテで通し、更に結婚に失敗したという前世由来のせいだろう。
何を話して良いかとかどう扱えばいいかとか全くわからないのだ。
しかし遠足以来、どうもこの2人に懐かれてしまったらしい。
職員室にもよく遊びに来るし、午後の仕事が終わった後の自由時間にも開発室に遊びに来たりする。
邪険にも出来ないから俺をはじめ開発室メンバーも話をしたりする訳だ。
そのうち開発室全員と顔なじみになり、ロレッタにパイの焼き方を教わったりイザベルに施術の基礎を習ったりもして。
いつの間にか開発室のサブメンバーみたいな顔をして常駐するようになった。
無論真面目な会議とかの時は別だ。
でも開発の仕事が無く授業準備なんてしている時はクロエちゃんもエレナちゃんもわりと普通に部屋に居たりする。
なおイザベルと一緒の時は間違えても副校長と生徒だなんて思えない。
どう見ても姉妹程度の感じにしか見えないのだ。
そしてイザベルは2人につきまとわれるのが満更嫌では無いらしい。
結果、休日なんかはイザベルと施術の訓練だの授業の予習復習だのをやっていたりするような状況。
なお当然俺もつきあわされたりする。
そんな感じで特にイザベルに影響されまくった結果、クロエちゃんやエレナちゃんの学力は3組出身と思えないほど強化されまくってしまった訳だ。
例えば算数で言えば、既に3桁の加減算が出来る程度。
この辺は1組でも1年のほぼ終わりまでに達成できればいいかと思った辺りだ。
そしてこの2人を中心に1組でも怪しい質問をイザベルや俺にぶつけていたりした連中が何となくグループ化した結果。
今日は安息日の午前中だというのにグループ一同
なんでこうなるんだ!!!
「使徒様の個室が建物の一番端なので騒いでも問題が起きないからなのですよ」
イザベル辺りならそう説明するだろう。
ちなみに俺含み7人が戦っているのは俺が作った双六である。
前世にあった人生●ームを元に俺が案を出し教団工芸部工芸課が作った逸品だ。
一桁の数字の大小等に慣れるという目的で考案したのだが、この秋から1組と2組の生徒の間で流行っている。
既にある程度量産して教団の孤児院等にはそこそこ行き渡っている状態だ。
イザベルを含むもう1組がやっているのはUN●もどきのカードゲーム。
カードにちょうどいい紙が無いので木の板で作ったものだ。
これも発案は俺で教団工芸部工芸課製造。
そんな訳で俺を含めて熱い戦いが展開される。
「ああ職業選択ミスったわ! 貧乏教団入り!」
「ふふふ学力と推薦で官僚になったぞ!」
「いいんだ私は職人で地道に生きるんだ」
なんてやって更には、
「ああ、貴族なのに破産した!」
「汚職がバレて官僚から囚人になっちゃった」
となり、結果は、
「校長先生、御自分で作ったゲームなのに弱いですよ」
「本当校長先生って弱いよね」
となったりするのだ。
「罰として校長、全員におやつを所望するのです」
おいおいイザベル、お前は違うゲームをやっていただろう。
でもここで反論しても味方は誰もいない。
だから仕方無く作る羽目になる訳だ。
面倒だから施術で簡単に作らせて貰おう。
牛乳と卵と砂糖をがっしり混ぜて素焼きのコップ7個に入れ、施術で一気に温度をあげてやれば焼きプリン完成。
最後に上に砂糖水をかけてさっと施術で熱を加えてやればカラメルも出来る。
砂糖は今年のテンサイで作った試作品だがなかなかいい出来だ。
最後に施術でがっと冷やせば食べ頃状態。
「校長先生やロレッタ先生ってこういう食事以外の甘い物を作るの上手だよね」
「まだ施術を使えないから真似はできないかな」
「熱の施術なんてあと半年学校にいればほとんどの生徒が出来るようになるのです」
「でもこういった料理の作り方なんかどうやって憶えればいいんだろう」
「図書室にロレッタ先生と私が書いた料理の本があるのですよ。あっちは施術なしで作る方法を書いてあるから読んでみればいいのです」
「確かにあったような気がする。けど副校長先生は料理を作らないよね」
「知識があるのと実際に作れるのには差があるものなのですよ」
なんだかな、とも思う。
「でもこれに使った砂糖は先々週位の午後の作業でどこかの班が作った奴だぞ。それまではこの黒くて甘い部分は輸入の高い砂糖を使わないと作れなかったんだ」
「あ、あの煮詰めてひたすら灰汁を掬う作業だよね。ミレーナがやったって言っていた。外は寒いのに作業場は暑くて大変だったって」
「あの砂糖の元になる白い根っこ、囓ったら少し甘いけれどそれ以上に不味かった。あんなのがこんな甘いのになるんだね」
「そう言えばロレッタ先生のところはどんなおやつが出たのかなあ」
「ロレッタ先生の処にも行っているのですか」
「あそこはオルガとかノーラ辺りが行っていると思うよ。多分人数が一番多いかな。おやつが美味しいと評判だし。最近は多分部屋に入りきらなくて談話室第2あたりを陣取っていると思う」
「他の先生の処も皆さん行っているのですか?」
「休日はあまりすることも無いしね。3組だと夏までは寮の談話室第1あたりでエヴェリーナ先生とゲームしたり本を読んで貰ったりしている人が多かったかな。今は大分ばらけてきたけれど」
なるほど。
他の先生の処は以前からこんな状況だったらしい。
俺の処はむしろ比較的最近こうなったというだけのようだ。
考えてみればこいつら、親がいなかったり親元を離れたりしているんだよな。
そういう意味ではこういう機会も必要なのかもしれない。
何やかんやいってまだ小学校5年生前後なのだ。
この国は現代日本より早熟とはいえ色々大変なのだろう。
ならまあ、仕方無いか。
何かどうも微妙に納得いかない部分も感じるけれどさ。
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