第38話 協議という名の戦い(2)
スコラダ大司教は更に続ける。
「商売ではなく救済事業ならそれは間違いなく
なかなかえげつなく相手の台詞を突くスコラダ大司教。
だが口調も語調もあくまでいつものままである。
これが通常の話し合いなら勝負はついたところだ。
さて
「詭弁だ! こんな計算は成り立たない!」
向こうの豚が吠えた。
「その通りと思われる。故に
パスクアーレ氏は力業で終わらせに来たようだ。
さて、イザベルはどう出るかな。
俺はイザベルの台詞を待つ。
「これが詭弁で成り立たないものかどうか、それを判断していただければいいのでしょうか」
イザベルもあくまで落ち着いた口調でそう問いかける。
「無駄な作業だ。こんなのは成り立たないと決まっておる。専門家である
「なら『神の審判』を仰がせて頂こうと思います」
その台詞にふっと静寂が訪れた。
豚も馬鹿も沈黙する。
ここで口を開いたのは最上席、アレッシオ卿だった。
「『神の審判』は使徒でないと不可能と聞く。それともここに『法の真偽員』を呼ぶということであろうか」
『法の真偽員』とはこの国で司法の要を務めている役人だ。
彼らは
使徒はせいぜい各教団に1名いるかいないかの状態なので、代わりに真偽員が裁判等で真偽を判定する訳だ。
「その必要は無いのです。こちらに
『使徒様、自己紹介をお願いするのです。名前と使徒である事だけでいいのです』
そんな伝達魔法がイザベルから来たので俺は一礼する。
「申し遅れました。私が今代の
「実施すれば本物の『神の審判』かどうかは誰でもわかる筈なのです。更にここで追加の審判をすることを提案するのです。私、イサベル・フローレス・デ・オリバ・トラスタマーラの名において、宗教改革法第1条違反の告発を産業庁市場調整課補佐パスクアーレ氏並びに
再び場は凍り付く。
やりやがったな、イザベル。
そう思うとともに俺はイザベルの正体、グロリアがイザベルを『イザベル様』としか呼べない理由を悟った。
「まさかトラスタマーラ家を騙るなど……」
そんな声が小声で聞こえてくる中、アレッシオ卿が断言する。
「イザベル殿はアンベール国王陛下の末子である。14の時に自らの希望で
「アレッシオ卿、この度は久しぶりにお目見え致しますのにご挨拶が遅れて申し訳ございませんでした。小さい頃マルゲリータ様と一緒に遊ばせていただきました頃の事は今でも忘れておりません」
「こちらこそ久しぶりでございます。姫様にあっては身分が変わっても相変わらずのご様子で」
「残念ながら教団にて神に仕える身となっても性格は相変わらずなのですよ。おかげで上司や同僚にいつも迷惑をかけております」
完全に立場が逆転した。
パスクアーレ氏は真っ青になってもう何も言えない状態だ。
一方
凍り付いたまま1名、力が抜けてため息をついている者1名、そして。
パルミロと呼ばれていた豚が思いがけない程の素早い動きで逃げだそうとした。
だが何ということか、すっと動いたスコラダ大司教にあっさり掴まる。
「お互い神に仕える身。ならばここは神の審判に任せるべきでしょう」
「ええい離せこの貧乏人」
体重は2倍位の差がありそうだがスコラダ大司教は全く動かない。
何せ農業等の肉体労働で鍛え抜かれたスコラダ大司教。
豚の1匹くらいでは動かせる筈も無い。
「大司教様、お手数をおかけ致しました」
イザベルがそう言うとともにパルミロの動きが止まる。
睡眠施術でもかけられたのだろう。
「これ以上イザベル殿や使徒殿の労を煩わせても申し訳無い。国王庁内の事はこちらで始末させていただきます。ただいま警備と監察を伝達魔法で呼ばせて頂きました。皆様はこの部屋から動かれないよう、産業審議官アレッシオの名において勧告させていただきます」
ゲームセットという事だな。
俺はふっと息をつく。
それにしても意外だったのはスコラダ大司教だ。
イザベルについてはもう色々やられているから今更王家の一員だったなんて言われても驚かない。
むしろスコラダ大司教がこういった事態に慣れている感じの方が驚きだ。
あの何気なく相手の会話の隙をつくところといい、自分の態度を全く崩さないところといい。
一体スコラダ大司教、何者なのだろう。
今まではただ実直なだけの聖職者だとばかり思っていたのだけれど。
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