第37話 協議という名の戦い(1)
次に到着したのは
案内されて俺達の向かいの席に着く。
向こうも3人体制のようだ。
そして5分位してから国王庁の役人がやってきた。
俺達と
役人の方は2人で……んんっ?
役人の偉そうな方がこっちを見て一瞬何かに驚いたような表情を見せた。
何があったのだろうか。
病院で俺の患者だったって事は無いよな。
ちょっと顔を見てみたが残念ながら思い出せない。
「本日は特別に産業審議官アレッシオ卿の御臨席をいただき会談を開始する。私は産業庁市場調整課のパスクアーレである」
彼の様子を見るにこの国では役人の立場が高いようだ。
まあ国王の権威を背負って仕事をしている訳だからな。
ただアレッシオ卿と説明された方の挙動がどうも気になる。
何か俺達側が警戒されているような気がするのは気のせいだろうか。
「それでは
イザベルが立ち上がった時のアレッシオ卿の視線の動きで気づく。
警戒されているのはイザベルだ。
何故だろう。
もしやアレッシオ卿はロリコンだとか。
いやそういう視線とは違うな。
そんな事を思いつつ俺は言われた通り自信満々という態度をとり続ける。
「
イザベルが説明を始める。
相変わらず見事なものだ。
短い説明の中に、
○ 支援策の目的とその意義
○ 具体的な内容
○ この支援策はあくまで支援が目的である事
○ 農産物市場への介入が目的ではなくそう見られることも望まない事
○ 一部の仲買市場に影響が出ることから国王庁並びに主な仲買市場を経営する
等が全て述べられている。
口調もいつものイザベルとは全く違う。
見かけがちびっ子のままなのが大変惜しい。
「それでは
あ、こいつらグルだな。
そう俺は思う。
今回の件を公正に扱うなら『
それをわざわざ
これはきっと産業庁市場調整課パスクアーレ氏のミスでは無い。
こっちはこれだけの関係があるのだぞと誇示しているのだ。
見ると
イザベルは大丈夫だろうか。
そう思いかけてふと気づく。
イザベルは『無言で傲岸不遜かつ自信ありげな態度を演じていて欲しいのです』とまで言っていたな。
しかも『こっちの事業を一方的に承認させに行くのです。調整だの譲歩だのは一切不要ないのです』とまで。
これはおそらく予期された事態だ。
ならばイザベルは何か隠し球を持っている。
その証拠のひとつが筆頭席に座っている産業審議官アレッシオ卿の表情だろう。
奴の表情はいまや焦りと困惑がみえているようにさえ感じる。
悪いが
治療院とか病院で鍛えられたからな。
向こうでパルミロ殿と呼ばれた豚が色々文句を言っている。
やれ市場支配だとか零細仲買業者の圧迫だとか。
あげくの果てには国を乱す悪行だとかまで言い始めた。
いや、よしよしと言うべきだろう。
アレッシオ卿の顔色が悪くなり始めている。
事態はおそらくイザベルの思い通りに進んでいるようだ。
隠し球が何かは俺にはわからないけれど。
「……故にこの事業は
説明している豚は気づかなかったようだ。
しかし
だが今のところ何も言えずにいる。
「さて、それでは産業審議官アレッシオ卿の下、国王庁産業庁市場調整課としての裁断を致す事になるが、宜しいか」
「対抗説明に対する質問を1件お願いしたい」
ここでスコラダ大司教が出るか。
これはイザベルのシナリオでは……シナリオ通りのようだ。
イザベルは全く動ぜずちょこんと座っている。
「質問の必要は無いと思われ……」
パスクアーレ氏がぶっだぎろうとしたその時だった。
「質問を聞こう」
アレッシオ卿がそれを遮った。
何故、そういう表情のパスクアーレ氏。
一方スコラダ大司教はいつも通り実直かつゆっくりとした話し方で口を開く。
「私はスコラダと申します。本日は
さて今回の案件ですが
ですのでこの目的にさえ添うならば事業主体は何処であろうといっこうにかまわない。それが
そこで今回の救済案を見て頂きたい。これと同じ条件で
予め各テーブルに配布してあった資料を官僚側、
「不可能ですな。こんな値段では商売にならない」
豚の一人がそう言って説明書きを投げ捨てた。
「ですからこれは商売では無く救済事業です」
「継続して利益が上がらないものは持続不可能だ」
「救済事業としては成り立つとの計算も出ております。そちらに記載してあるとおりです」
あくまでスコラダ司教は静かに攻める。
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